ヤアッ!
カーン!
セイッ!
トウッ!
カーン!
………………………………
「すごいね、この短期間でものすごく強くなったわ。
まだ鍛練を始めたばかりなのに…。
やっぱりあなたはすごい剣士になるね!」
ジャンヌが手を止めて、僕に笑いかける。
――――――――――――
トゥーレル砦攻略から数日。
ジャンヌの怪我は徐々に快方に向かっていた。
「ジャンヌ、もう大丈夫なのかい?」
「………え?………肩の傷のことね。
もう平気よ、ほら見て?」
「駄目だよ、そんな無理をしたら……」
「本当に平気なの!
……だからそんな心配そうな顔をするのはやめて?」
「………わかった」
本音ではまだ心配だけれど、そう言うのなら仕方ない。
「さて、稽古を続けよっか」
「えっ?
今日はもうやめた方がいいよ」
「大丈夫だってば…。」
ジャンヌは、困った顔を見せる。
「いや、だけど………」
「それよりも、あなたの成長を止めてしまうのはずっと問題だわ……」
「僕の成長…?」
「ええ、砦攻略でも大活躍したそうじゃない。
軍議でも話題になっていたわ」
ジャンヌは嬉しそうに微笑むけど僕はそう単純に喜べなかった。
だって、僕がジャンヌと二人で稽古を始めるきっかけは………。
「少しは活躍したかもしれないけど、全部ジャンヌのおかげだし……。
……何よりも、君を守れなかった。
もう二度とジャンヌに傷ひとつつけない。
僕が絶対守りたいんだ……!」
すると、ジャンヌの手がそっと僕の頬に触れた。
「その気持ち、とても嬉しいよ。
ミカエル………、早く強くなって、次こそは私を守ってね。
それに……………あなたと二人で稽古をするのとっても楽しいの」
「えっ………?」
「私、毎日楽しみにしてるんだよ。
だから、また明日も必ず来てね。
私………待ってるから」
彼女はとびきりの笑顔を浮かべていた。
――――――――――――
「うん、とてもいい調子だね。
自分では気がつかないかもしれないけど、かなり強くなっているはずだよ」
「そうかな…?」
「そうよ。
ずっと見てきた私が言っているんだもの。間違いないわ」
「う~ん……そうか。
実際に戦場に出てみないと分からないな」
「ふふっ♪
あらっ?ずいぶん頼もしくなったのね」
「おっと、調子に乗りすぎたかな」
「大丈夫、本当に強くなってるから。
もっと調子に乗ってもいいくらいだよ。
ほら、それよりもそろそろ行きましょう。
今日はオルレアン解放の祝宴よ。
早く行かないと遅れちゃうわよ?」
――――――――――――
その日、ジャンヌ隊をはじめ、フランス軍の主攻を担う各部隊が集められた。
大臣らに促されて、ジャンヌが壇上に立つ。
「皆の者、本当によく戦ってくれました!
フランスの栄光と神のご加護に、乾杯!」
ジャンヌの声に合わせて、兵士たちの杯が高く掲げられる。
オルレアン支配の重要拠点であるトゥーレルが陥落したことで、イギリス軍はオルレアン市内から撤退。
未だオルレアン周辺にイギリス軍の兵士がいるものの、ジャンヌは、とうとうオルレアン解放に成功したのだ。
今夜はその祝宴。
遠く離れたロシュ城にいる王太子シャルルからも大量の祝いの品が届けられ、いつもは猛々しい兵士たちも羽目を外して、お祭り騒ぎだった。
しかし、そんな時間はあっという間に過ぎてしまい…………。
(はぁ、楽しかったな…)
祝勝会の後、僕は宿舎を離れてきれいな月を眺めていた。
すると、後ろからぽんと肩を叩かれて…。
「ジャンヌ」
祝宴では王太子に派遣された大臣やら政務官やらに囲まれて息つく暇もなさそうだったけど…。
「まだ寝なくて平気なのかい?」
「ええ、……ちょっと風に当たりたくて……」
ジャンヌは隣に腰を下ろすと、長い髪を携えた頭を僕の肩へそっと乗せた。
「……ジャンヌ?」
「ごめんなさい、少しだけこうしていてもいい…?」
「構わないけど……」
平静を装いながらも、心臓が破裂しそうに高鳴る。
「………ミカエルのそばにいると落ち着くの………」
「………昔から一緒にいるからかな?」
「そうかもしれないね、でも……」
「でも?」
「なんでもないわ………それより…私たち…いつかドンレミ村に帰れるのかな」
美しい満月を見つめるジャンヌがそっと言う。
「え?村に?」
「うん」
「そうだなぁ…、そのうち休暇をもらえたら、帰ってみるのもいいかもね。
何て言っても、今やジャンヌは聖女様だから…。
村のみんな、すごく喜ぶよ。
お祭りみたいになるかも」
「ミカエル…そうじゃないの。
私が言いたいのは、昔みたいに村で平和に暮らせる日がいつか来るのかな…ってことだよ」
「……ジャンヌ?」
「朝早く起きてさ、
お天気の心配をしたり、
畑仕事をしたり、
ニワトリの世話をしたり、
村の広場でおしゃべりしたり、
たまに街に行ってお買い物したり、
みんなで収穫祭の準備をしたり……、
あの平和な毎日に戻れる日が来るのかな……って」
懐かしむようにまぶたを閉ざすジャンヌ。
そのまぶたの合間からひとすじの涙がこぼれる。
「ジャンヌ…」
「あ、ごめん。
ダメだよね。救国の聖女がそんなことを言っていたら…。
神様に叱られちゃうね」
「………」
「大丈夫、私は聖女なんだから、自分のことよりも、みんなのことを考えないとね」
「…うん」
「1日でも早く、オルレアンを解放しないと。
そのためにもミカエル…」
「なんだい?」
「早く強くなってね」
「う…そうきたか」
「体調を崩して、明日の鍛練を怠けたりしたら許さないからね?」
「ああ、わかってるよ」