オルレアンの乙女の守人   作:アリス・リリス

8 / 15
~離れるふたつの時~

「……しばらくの間、私と会えなくなったら悲しい?」

 

鍛練を終えると、ジャンヌがふとそう言った。

 

 

「そりゃ悲しいさ。当たり前だろう?」

 

「どうして悲しいの?」

 

「どうしてって……それはその………。

 

 

いや、今さら言わなくても分かるだろう?恥ずかしいよ」

 

「…………」

 

「ジャンヌ?」

 

「ねえ、ちゃんと教えて?

どうしても聞いておきたいの」

 

「ジャンヌ…」

 

そこで教会の鐘が鳴り響いた。

軍議の開始を告げる鐘の()だ。

 

「………」

 

ジャンヌはそのまま何も言わずに行ってしまった。

何かあったのかな………。

 

 

――――――――――――

 

ジャンヌは、この事を心配していたのだろうか……?

 

 

 

その日の軍議ではこれまでの論功行賞が行われた。

 

ジャンヌ隊に対しての評価は著しく高く、兵士たちにはフランス全軍中、最多額の褒賞金が与えられた。

 

そして、オルレアン解放とランス戴冠の最大の功労者であるジャンヌは、なんと国王から直々に貴族の称号が贈られた。

 

ただの農村の少女が貴族になるなんて、フランス史上初めてのことだ。

 

 

 

 

すごいな……おめでとうジャンヌ。

君の思いが報われて良かった。

 

 

………そして、僕も砦攻略やオリビア撃退、ジャンヌ救出などの活躍が認められ、方面部隊の部隊長に任命された。

 

これも異例の大抜擢だ。

 

仲間たちはみな、その栄誉を祝福し喜んでくれたが、僕は大きく動揺していた。

 

僕が任命されたのは、パリからは遠く離れたアキテーヌ地方の方面部隊だったからだ……。

 

 

その日の夜……

 

 

「すごいじゃない、部隊長なんて。大出世だね。

でも、ちょっとずるいわ。

稽古をつけてあげたのは私なのに。

 

その私よりも偉くなっちゃうなんて……」

 

ジャンヌは楽しそうに話す。

 

そしてふと、寂しげな表情を浮かべる。

 

「……でも、これでまたお別れだね……。寂しいな…」

 

「……ジャンヌ」

 

「……」

 

「……ジャンヌ、僕は行かない……、……行けない……」

 

「………」

 

「君を守ることだけが僕の望みだ。

そのために、ここまで来たんだ。

軍で出世したかった訳じゃない」

 

「……」

 

「ようやく君を守れるようになったのに、君のそばを離れるなんて……できない」

 

「……」

 

「ずっと考えてたんだ。

…………僕と一緒に(ドンレミ)へ帰ろう」

 

「………ミカエル」

 

「君は十分に戦った。もういいだろう?

村に帰って、もとの生活に戻ろう。

そして一緒に……」

 

「……」

 

「一緒に暮らそう。

二人で、ずっと一緒に…」

 

「ミカエル……」

 

涙ぐむジャンヌの体を僕は静かに引き寄せ、抱きしめた。

 

「嬉しい…ありがとう。

私もずっとミカエルと一緒にいたい…。

 

村に帰りたい。

もう…戦いたくない」

 

ジャンヌのひとつひとつの言葉が本当の願いだとわかった。

 

「ああ、もういいんだ。

これからすぐに出発しよう。

 

村のみんなも、きっと喜んでくれる」

 

すると、ジャンヌは静かに体を離す。

 

理想の世界から急に現実に戻る感覚。

 

「………」

 

「……ジャンヌ?」

 

「………でも、まだダメなの。

いま私が抜けたら…みんなが困るし…。

 

国王様とも約束しちゃったの…。

パリを取り戻すまでは軍にいるって…」

 

「ジャンヌ…そんな…」

 

「ミカエルだって、もう簡単には軍を抜けられないわ。

今回の任命を断ったりしたら、忠誠を疑われて反逆罪に問われるかも……」

 

「それは…」

 

 

 

落ち着いて考えると、確かにその通りだ。

 

 

 

「それなら、僕が問題なく軍を離れるためには…?」

 

「とても大変だと思うけど…大きな戦果を挙げることができれば、褒賞の代わりに退役を選べるの。

そうすれば、大手をふって村に帰れるはずよ」

 

「そうか、そういう方法もあるのか」

 

「そして私は、あと一年くらいあれば、パリを落とせると思う」

 

「一年……」

 

「だから…。

だから…ね?」

 

「ジャンヌはパリを取り戻して、僕はアキテーヌで戦果を挙げて、円満に軍を辞めて、一年後にドンレミ村で再会しよう…そういうことだね?」

 

「……うん」

 

「わかった、約束しよう、ジャンヌ。

 

僕は一年以内に大きな戦果を挙げて必ずドンレミ村に戻る」

 

「……うん、約束。

次に会うのは、ドンレミ村。

 

その時、私は聖女じゃなくて、ミカエルのお嫁さんになるんだね」

 

――――――――――――

 

こうして、僕はジャンヌ隊を離れ、アキテーヌ地方へと向かった。

 

 

ジャンヌと離れるのは本当につらかった。

 

お互いの気持ちを確かめたあとだけに尚更だ。

 

だけど、僕が一年以内に大戦果を挙げることさえできれば、僕たちはきっと村で幸せに暮らせる。

 

 

その希望が僕を支えている。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。