Front Mission 5 ~Curse of the past~ 作:。(くてん)
前提として、ウォルターらバーゲスト隊の道を切り開いた友軍ヴァンツァーチームは最後まで交戦中。
ヘクター・レイノルド率いるバーゲスト隊は、ウォルターを残し離脱。
その青い壁に阻まれている。
親友と、俺。かつての敵で、もう一人の親友の仇。
あの時……グレンがランディをその手にかけたとき、俺達を忘れていたような言動は、S型デバイスと呼ばれる手術と、それによる九割以上の記憶の消失という致命的な弊害が理由のものであった。
親友から預かっていたライターを投げ渡す事で、その青い壁がどんなものなのかを簡単に説明する。
壁に当たったライターは、物質を構成する粒子が分解されていくことで、まるで昇華するように消えていく。俺とお前は、この壁に阻まれているんだと。
「ランディはどうした。一緒じゃないのか?」
「ランディは……哨戒任務中だ」
作戦行動中に死亡した軍人は、専ら様々な呼び方で伝えられる。哨戒任務中であると言えば、それは伝わった。記憶のないうちに親友のひとりを殺めていたなどと、言うつもりは無い。20年前の惨禍を、ようやく記憶を取り戻してまともに話せるようになった親友に伝えたくはなかった。
グレンは物悲しそうな顔を一瞬だけ浮かべると、ポケットから葉巻を取り出し、その先端を壁に押し付けて火をつける。
「そうか────なあ、ここはいったいどこなんだ」
「SFの世界だ。ついでに言うと俺たちは助からん」
グレンは葉巻を堪能する。煙とともに息を吐く。
「悪かったな、尻拭いさせちまって」
「いいんだ」
消えたライターを見遣る。
「気にすんな。どうせ安物だ……それに───役割は果たした」
青い壁の発生源……リアクターを見てグレンは呟く。
「時間みたいだな。俺は先に行くぜ」
「グレン! お前、全部知って───」
光がより青く輝く。壁の向こうにいるグレンの姿が少しずつ朧げなものへと変わっていく。
「ま、どっかでまた会えんだろ」
「グレン……」
グレンがこちら側に手を伸ばす。青い壁を突き抜けることはできず、触れた腕が粒子分解を起こして消える。俺もそれに合わせるように手を伸ばした。また同じように腕が消えるが、痛みは無い。痛覚さえも消えるのか、あるいは神経が役割を失うのかまではわからない。
「お別れだ。またランディと、3人で馬鹿やろうぜ」
「────あぁ」
どうにか捻り出した言葉は、もうグレンには届いていなかった。リアクターからの光が爆発的に光量を増していく。それが眩しくて、俺は目を閉じた。
───リン、元気でな。
形を保てなくなった通信機に、呟いた。
薄れていた意識を、何者かが呼び起こそうとする。
「グレン? ランディ?」
「リン……リンか?」
その誰でもない。聞いた事がある声ではあるのだが。
「ヘクター……? エドワード?」
違う。もっと昔に聞いた……それでいて、つい一年前にも聞いたような声だ。
これは……。
『……番! 6番機! おい、聞こえないのか!?』
「───え?」
聞こえた声は、ずっと昔に俺がヴァンツァーのパイロットとして認められるための試験を担当していた教官のものだ。
『──ウォルター・フェン……貴様、ここまで優秀な成績を収めているというのに、気を弛めたか?』
「────は、いえ、教官どの」
『……まあ、いい。貴様もヴァンツァー乗りになるのなら、ここからが登竜門であるということを忘れるな。で、機体チェックは!?』
「は、機体チェック完了。オールグリーン。いつでも行けます」
とりあえず全ての確認を終える。20年以上共にあったヴァンツァー・フロストのものであるが、システムはそれ相応に旧型のものだ。無論忘れている訳もなく、全て問題無しであることを確認した。
懐かしい。この感覚───2090年の3月2日だった。初めてヴァンツァーに搭乗しての試験だったから、その日をよく覚えていた。
……なら、これは走馬灯というものだろうか。
『よし。まずは基本操作だ。ここまで移動してみろ』
そう言われてHUDに共有された移動ルートに則って、ローラーダッシュによって指定ポイントまで移動する。
こんなのもあったな、と懐かしんでいると、教官……デニス軍曹が次の目標を言う。
『上出来だ。次は無人ヴァンツァーを配置した。これを倒してみろ』
「サー・イエッサー!」
ローラーダッシュを駆使し、後ろに回り込む。ああ、体が軽く感じる。若い身体はこんなにも元気に満ちていただろうか。
フロストの武装は簡単なものだった。短射程の散弾銃ゲイルと、近接戦闘用のパイルバンカー・プレスニードルだ。手馴れた動きでプレスニードルを打ち込み、引き抜いた後に反転してゲイルをターゲットの無人ヴァンツァーに向け、
簡単に倒れたそれは、確か耐久性を引き下げた訓練用のものだったはず。慣れたスキルとはいえ、テロリストが用いていた専用ヴァンツァーに比べるとあまりにも脆いので驚き半分、懐かしさ半分といったところだ。
『ほう……やるな。では次! このポイントに移動し、敵ヴァンツァー、2機を排除しろ。次のは反撃するように設定してある。敵の攻撃可能距離に気を配れ』
それも全て、昔体験した通りだ。
……走馬灯にしては、ワンシーンが長い気がする。
確か、この後ランディが呼ばれた時にチョコバーを食っていたせいで訓練段階が第二段階に降格させられるんだったか。
ポイントまで移動し、安全距離からゲイルを撃ち続けて無力化する。残る最後のヴァンツァーも同じようにレッグパーツを破壊したあと、ボディにプレスニードルを二度打ち込んで破壊した。
リアクター内の戦場に比べれば、こんなのは朝飯前にも等しい。それどころか寝起きの欠伸ひとつで終わらせられそうな勢いだ。
『よくやった。だが最初に気を抜いたのはマイナス点だな。まあいい、貴様は第四段階に昇格! 次、14番機!』
ランディの番が来た。案の定チョコバーを平らげていたところで呼ばれたので、デニス軍曹からお叱りを受けて第二段階に降格されていた。
懐かしさを覚えつつも、どこか現実感のある光景だった。こういうのはもっと朧気ながらに見るものだと思っていたが。
ヴァンツァーを移動させ、格納庫まで運ぶ。誰の目から見ても明らかにしょぼくれていたランディが、俺の下に駆け寄ってくる。
「ひでぇよウォルター、お前だけ昇格で俺は降格ってよぉ!」
「フッ、試験時間中にチョコバーを食うのが悪い」
ああ、こんな事も確かに言った……言ったか?
少しばかり違和感が渦巻いてくる。
「なあ、ランディ」
「……な、なんだよ。言っとくけど、チョコバーなら俺がもう食ったぞ」
「馬鹿言うな。 ……お前、ストライク・ワイバーンズに入るつもりだったのか?」
「は……ストライク・ワイバーンズって特殊機甲強襲連隊の事か? バカ、俺無理だって、そんなところ!」
「そうか……」
ランディが戦死したあと、こいつの遺品をまとめていた時に見つけた書類の中に、特殊部隊ストライク・ワイバーンズへの入隊希望書があった。それが俺があの部隊に入るきっかけだったから、てっきりこの時点で入るつもりかと思っていたが……。
それに、今の答えでハッキリした。こんな会話、俺はした覚えがない。走馬灯かと思っていたが、それは違う。追体験かとも思ったがまた違うもののようだ。
俺は今、過去にいる。
非現実的だ。それはわかっている。だが、自分の発した言葉が俺の判断をどっちつかずのものにしている。
人間を構成するのは物質だけではない。
記憶は、思い出は、脳という媒体に残るのではなく、人の心という物質ではないものに残るのだと、そう考えている。だからこそこうして過去に飛んだのかもしれない。
これは、過去を追体験しているのではない。俺の意識自身が過去に移動したことで、2090年の俺にその意識が宿っているのだろう。
そう考えれば辻褄が合う。昔しなかった話に答えるランディ、培った技術を活かしたヴァンツァー戦。
……じゃあ、過去を変えることができるんじゃないか?
俺の中に、確固たる欲望が芽生えていた。
───
オリ主タグは次回から仕事します。