Front Mission 5 ~Curse of the past~   作:。(くてん)

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 ⚠︎オリジナル要素を多分に含みます。⚠︎





03-1 Eye for an eye

 

 

 

 

「フリーダムか…」

 

 そう独り言ちる俺に、ダモンが心配して声をかけた。

 

『確かフリーダムの出身なんだったか。 久しぶりの帰郷がこんな形になっちまって残念だが……』

 

 その名は、俺の故郷の名であり、始まりの地であり、もしかすると全てが決まった場所だったのかもしれない。

 

 ……だが、既に覚悟は決まっている。持てる全ての技術、記憶、能力……あらゆるものを駆使して、全てを良い方向に導く。

 

 ランディを殺させない。グレンをS型の被検体にさせない。それらは全て通過点に過ぎない。最終的な目的はただ一つ。

 

 モーガンの殺害。

 

 今にして思えば、この時から全ては始まっていたんだろう。かつての()()()は無知にも等しかった。

 

 だが今は違う。戦うために必要な全てが揃っている。知識、技術、経験……そして記憶さえ。

 

「───グレン。今度こそ……」

 

 決意を胸に秘め、俺達の分隊はフリーダム郊外地区へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 6/11という今日は、あの時と変わらず晴れていた。

 

 タンゴチーム各機は現在フリーダム郊外に位置する市住宅街全体に、広く展開していた。昨日と同じくフリーダム市街からの敗走組を撃破するという任務である。

 

『タンゴ1より各機、状況を知らせろ』

『タンゴ2、クリア』

『タンゴ3、クリア』

 

 デニス機からの通信が入る。それに次々と答えていくタンゴチーム。俺の番が回ってくる。

 

「タンゴ6、クリア」

 

 異常はこの時点では発生していない。目の前に広がる民家、疎らに聳える木々。それらは全て、過去に一度見た風景だ。懐かしい記憶に思いを馳せる。思えば今は、記憶を引き継いだ時間も計算に入れれば、大体45歳以上なのか。そう思うと少し気が滅入る。

 

 この報告が終わってから数時間後に、市街からヴァンツァーチームが来る。グレンの率いた、デニス軍曹曰く強者チーム。かつての敵として、越える必要のある壁として……グレンチームは確かに強敵だった。

 

 グレンの駆る強盾が1機、ウォーラスが2機、炎陽が1機。

 総勢4機のグレンチームは、当時のO.C.U軍がU.S.N軍の攻撃を長く耐えられる状態で無かったことを踏まえても相当の戦果を挙げたというものだった。

 

 少数の部隊で遊撃に当たり、U.S.N軍ヴァンツァー部隊に対しそれ相応の損害を与えたという戦績は、積極的に対ヴァンツァー戦術が研究されていた当時の観点からすれば見事だった。

 

 ともすれば、このグレンチームに俺たちタンゴチームもまた、為す術なく倒されていた可能性もある。

 

 あの時は運が絡んだのもあったろうし、それ以上にグレンと俺が1対1の決闘(射撃デュエル)に持ち込めた事も理由だろう。

 相手は軽装甲で、敵攻撃を回避をするための機体へのレスポンスが良くないかわりに射撃能力への補正が高い強盾。対するこちらは、重装甲ながら機動性にも一日の長があるフロスト。

 

 離れればグレンが、近づけば俺が、それぞれ有利だった。

 

 ヴァンツァー同士の戦闘は機体性能や相性に左右されるが、それだけでは無い。パイロットが成熟するにつれ、ヴァンツァーを体のように扱えるようになる技術。無意識下での機体制御こそがその真髄である。

 ヴァンツァーは自身の肉体の延長線上にある。何をするにも疲労(AP)というコストが伴うWAP(ヴァンツァー)同士の戦いにおいて、グレンと俺は拮抗していた。

 

 きっと最後まで。

 

 

 

『タンゴ1よりタンゴ6』

 

 デニス軍曹から呼び出される。もう時間か。

 

「タンゴ6」返答する。

 

『フリーダム市街3区からの残存部隊がそちらに向かっている。いずれも()()()()()()()()()()()。タンゴ14、タンゴ15が援護としてそちらに向かっている。対応できるか』

 

 これは……と嫌な予感が脳裏を過ぎる。

 前回は虫の息、そう説明されていたはず。それが何を意味するか、分からないほど察しが悪いわけではない。この現在は、俺の知る過去ではない可能性がある。

 

 例えば、本来なら存在するはずのない同期パイロット。例えば、俺が持つ記憶。

 

 ───エルシャ・ハヅキがタンゴチームに所属しているという点は、前の記憶にとって差異ではあった。

 

 だが、これほど明確に現れたのは初めてだ。

 これはもう単純なニューゲームでは無くなっていると考えた方が良いだろう。

 

 バタフライ・エフェクトというものを聞いた事がある。蝶が羽ばたくという些末な出来事によって、到底想像できないような大きな事象が発生するというものだ。

 俺が記憶を持ってやり直しているという多勢にとってほとんど意味の無いようなことでも、それが理由となってエルシャの存在やグレンチームなどといった影響を与えているのかもしれない。

 

「タンゴ6、了解。タンゴ7、後ろに下がって援護の用意」

『了解』

 

 タンゴ7、ダモン機シャイアンが後退していく。このあとに来るグレンチームに対して俺は前回と同じように警告と降伏勧告をする予定だ。

 が、それもまた前回と同じく上手くいかないだろう。

 

 四の五の考えている暇はもう無いようだ。眼前の敵WAPチームを倒す。本来ならば20年以上も前の交戦記録なんて思い出すのもやっとだが……。

 微かに残った記憶通りならグレンの駆るヴァンツァーは強盾。ずっと昔から機動タイプのガンナーだったのを覚えている。

 

 足音が聞こえてくる。相手のWAPチームが、木々を抜けて郊外へと敗走してきた。降伏勧告を呼びかける。

 

『停止しろ。我々はU.S.N軍だ。この市街一帯を含む全域は、我々が制圧した。逃走はできない。諦めて投降しろ』

 

 そうして呼びかけている間に気付いた。よく見れば、先頭の青いヴァンツァーは強盾ではない。ゼニスだった。

 O.C.U側の日系企業サカタインダストリィが、同じ日系企業のイグチへとWAP関連の技術提供を行い、それに伴う業務提携を約束。

 その後イグチの手によって生み出されたのが強盾である。当時の観点から見れば、欠点こそあれど優秀なWAPだった。

 

 だが、そこに立っているのはジェイドメタル・ライマンの代表作たるヴァンツァー、ゼニス。

 O.C.Uが採用する現行機の中でも特に汎用性が高い、軽装甲高機動のWAP。

 

 ……ここでも差異が生まれている。

 

 それに、呼び掛けも結果としては意味を成さなかった。

 先頭のヴァンツァーがライフルを構える。コクピットに警告音が響き、ローラーを後方に動かすことで射線を外れて弾道から逸れた。弾も機体を掠ってはいない。ダモン機も同じく回避出来ていた。

 

『呑気に降伏勧告してる場合か? 前にも聞いたが、お前達の国では()()()()()()()んだろ?』

「何、前にも? ………ああ、実力でだ!」

 

 グレンの声と共に襲う違和感。確かにそんなセリフを言っていたような気もする。だが、何かが違う。

 

 更に警告音が鳴り響く。どうやら、もう考えている時間はなさそうだ。

 

 グレンのゼニスとウォーラスが2機、炎陽1機の、合計4機チームとの撃ち合いになる。対するこちらはフロスト、シャイアンの2機のみと数で劣るうえに、元々向こうは市街からの敗走組で、機体装甲もかなりボロボロだったはずだったものが、まったく損傷を受けていない状態なのだ。味方が合流してくれるとはいえ、このままでは不利であることに変わりは無い。

 

『ど、どうするんだ、タンゴ6』

「決まってる。やるしかない」

 

 民家を盾に、木々を影に、それぞれ隠れる。ダモンが身を乗り出して向こうの炎陽に二基、ミサイルを叩き込む。WAP用のミサイルなどですぐに決着が着くほどヴァンツァーは脆くは無い。

 シャイアンも、フロストにこそ及ぶべくも無いが、それでもある程度の装甲を有すに至っていた。

 

 アサルト・ウォーラスが距離を詰めてくる。2機とも素早く迫ってきているうえ連携も取れているように見える。

 ダモンの機シャイアンは、ミサイルランチャー・ドンキー以外を装備していないため、近距離まで来られたらフロスト単機で戦うことになる。複数機から同時に撃たれる事になると、かなり悲惨な事になるのは身に染みていた。

 

 ダモンにターゲットを移してウォーラスを攻撃するよう指示しつつ、建物と狭い道路を使って上手く立ち回る必要がある。

 

「タンゴ7! 後退しろ、援護する! 距離を取ったらウォーラスを撃て、どっちでも構わん!」

 

 指示を聞いて、タンゴ7がローラーダッシュによって距離を取るべく下がる。それを追おうとするウォーラスの前に立ち、足止めをする。

 出し惜しみはしない。ヴァンツァーの持てる弾薬には限りがあるが、どの道フリーダム郊外を制圧すれば弾薬は補給できる。ここで2機ないし1機だけでも倒せれば俺もダモンの負担も大幅に下がることに違いはない。

 

 右手に装備したショットガン・ゲイルを、直線の道路に誘い出されたウォーラスへと撃つ。数発は外れるだろうが、ショットガンの利点はダメージがバラける事にある。バラけたダメージは各パーツへと均等に蓄積され、そしてそれはボディよりも装甲の薄く、破損しやすいアームやレッグへ有効ということで。

 

 ウォーラスがマシンガン・シージュを用いて反撃してくるが、ボディを逸らしてほとんどの弾道を回避する。数発が装甲を掠めたが、有効弾には至らず、跳ねた弾が彼方へと消えていく。

 

 更に奥からもう1機が射撃するのを確認して、パイルバンカー・プレスニードルを持つ左腕でボディを庇いつつ突進する。手前のヴァンツァーへ、自身の機をターンさせて勢いよくプレスニードルを叩き込み、パイルを引き抜いて直ぐにゲイルによる追撃(ダブルアサルト)を行う。

 運悪く、ウォーラスのボディをプレスニードルが貫くことは無かったが、それでも右腕、左腕へパイルとショットガンが命中し、それぞれが対応する腕部を破壊する。手前の敵機はこれで無力化した。

 

 ───そう思っていた。

 

「……何ッ!?」

 

 両腕がもがれたウォーラスがローラーダッシュでボディごと体当たりを仕掛けてきたのだ。思いがけない行動のせいで咄嗟に回避できず、そのまま後方の建築物に機体を押し付けられてしまう。

 

『デュバル隊長、クレイ伍長、やってください!』

 

 全員に聞こえるようなスピーカーからの声で、そのWAPの中の人間がかなり若い新兵だとわかった。

 グレン機のゼニスから放たれたライフル・スラブの弾丸が、ウォーラスのボディが覆っていない場所……つまりフロストのレッグを的確に撃ち抜いた。

 まだ破損こそしていないが、このまま撃たれ続ければまともに身動きが取れなくなるのは明らかだった。

 

「ッ……タンゴ7!!」

『タンゴ7!』

 

 ダモンが復唱する。

 

「あのゼニスを抑えてくれ! ミサイルでも何でも、気が惹ければいい!」

『了解!』

 

 2ブロックほど東へ移動したダモンが、ミサイルランチャー・ドンキーをゼニスへと向かって射出する。ゼニスは住宅に身を隠してミサイルを躱そうとするが、2発のうち1発がアームへと命中する。

 ゼニスが隠れると同時にダモンへと3基のミサイルが飛来する。炎陽の装備するミサイルランチャー・ピズ3だ。炎陽がウォーラスの援護に駆けつけ、最も脅威と認識したダモン機へと攻撃したのだ。

 

 ダモンは堪らず身を引く。

 フロストとウォーラスとの取っ組み合いになっているのを見て、もう1機のウォーラスがダモンのシャイアンへと肉薄した。シャイアンは迎撃の為にさらに1ブロック東へ後退し、まだミサイルの射程内に残っていたウォーラスを捉えて射撃する。

 

 ウォーラスは咄嗟に右のアームでボディを庇い、致命傷を防ぐが、その代償にウォーラスは右腕を失っていた。ミサイルの次弾装填に時間がかかることを見越し、敵が更に突進し、遂に左腕のマシンガン・シージュの射程にダモンを捉える。

 

 

 一方、かなりの接近戦を強いられていたウォルターは、フロストの腕を大きく振り被り、ウォーラスへと叩きつける。拳を突き出す動作が出来ないほどの至近距離のため、腕を振る事で引き剥がすことを試みる。

 

 ハードブロウを受けたウォーラスは怯み、たたらを踏んで尻もちをついた。その隙を狙ってボディ目掛けてプレスニードルを打ち込もうと、腕を引いた……。

 

 その瞬間、フロストの左腕が吹き飛ぶ。

 

 衝撃を受け、ボディに攻撃が当たらないよう右腕で庇いつつ、ローラーダッシュを駆使して遮蔽の裏に隠れる。攻撃の正体はゼニスからのライフル射撃。建物の裏から半分だけボディを出していた。

 

 ゼニスから放たれるライフル、炎陽から飛んでくるミサイルランチャー。どちらも脅威ではあるが、当たらない可能性のあるライフルと違い、ロックオンして発射するというプロセスを踏むミサイルは、必中と言ってよい。

 

 どうにか隠れることが出来れば射線を遮る事も出来る。だがそうすればどうなるか。炎陽の照準とその注意は、一時とはいえダモンに向く。

 

 炎陽からミサイルが放たれようとしていた………。

 

 

 

 だが、重々しくも鋭い発射音と共に炎陽の右腕が突然吹き飛んだことで、敵はミサイル攻撃を中断せざるを得なかった。今のはライフルの射撃音。つまり、味方が来たのだ。

 

 

『こちらタンゴ15、到着しました!』

『タンゴ1、無事か!』

 

 タンゴ15、エルシャ機レクソンから撃たれたライフル・ウィニーの弾丸が腕を穿ったのだ。その後、少し遅れてエルドスが走ってくる。タンゴ14エルドス、ランディだ。

 

「ナイスタイミングだ、タンゴ14、15!」

 

 その言葉と共に建物から飛び出し、両腕の無いウォーラスを集中攻撃してボディの機能を破壊し、撃破する。ショットガンではコクピットの隔壁を破ることは出来ないし、わざわざここでパイロットを潰す必要もあるまい。

 そう思い、無力化に留めた。

 

『1機やったぞ!』

「油断するなよ、まだ3機残ってる」

 

 敵機を破壊し、その足でランディのもとへと駆け寄る。失った左手を向け、直すように伝える。

 

「俺はあのゼニスを抑える。タンゴ14、お前はタンゴ7と15を連れて、炎陽とウォーラスの2機を抑えるんだ。倒せそうだと判断したら、ウォーラスからやれ」

『わかった。よし……直ったぞ』

「頼むぞタンゴ14!」

 

 左腕とプレスニードルが完全に戻ったのを確認し、建物を使ってゼニスへと接近する。何発かが飛んできていたが、回避するかそもそも当たらないかで、結局有効弾は出なかった。

 

 少しずつ追い詰めていく。遂に建物ひとつを挟んで向かい合った。どちらから飛び出そうか、はたまたどちらから飛び出てくるか。警戒していると、通信が入ってくる。

 他のタンゴチームからの通信では無い。身元や所属が不明の、いわゆる秘話通信回線が独自に開かれており、それを介して何者かが語りかけてこようとしている。

 

「こちらはU.S.N軍。何者だ、今は戦時中だぞ」

『よう、こちらはO.C.U陸軍だ。生憎とこっちも戦時でな』

 

 その冗談の織り交ぜられた返答と、聞き間違えようのない声。それこそ、目の前の民家を挟んだ先に立つグレン・デュバルで間違いなかった。

 

「グレン! お前、何をしてるんだ、今は戦闘中だぞ!?」

『まあいいから聞け。今から話すのは大事な事だ。怪しまれないように銃は足元に撃っておけ』

 

 その言葉に頷くように、ゲイルを地面に撃ち込む。

 

『よし、まずは聞きたい。俺が貸したライターはどうなった?』

「どうって……そりゃあ、お前………───」

 

 消えた、そこまで言おうとして、接敵直後から感じていたグレンへの違和感の正体がわかった。

 

「……お前、持ってるのか? 記憶を……」

『その様子だと、お前もみたいだな。理由はあのリアクターの暴走に巻き込まれてか?』

「わからん……」

 

 ゲイルを2発、グレンがスラブを1発、それぞれ撃つ。

 

「いいかよく聞け、お前がS型デバイスの実験体にされた経緯は覚えてるか?」

『………トラックだ。確か、輸送車に乗せられた先が、奴の実験施設に繋がってた。O.C.U側の兵員輸送車と全く同じだった』

 

 手口は、昔にヘクターから聞いた通りだ。

 捕虜の受け渡しを装い、自身の根城へ連れ帰る。単純だが効果的。これが理由で、ハフマン紛争では戦死者より行方不明者の方が多いとさえ言われていた。

 

『……戦闘を中断しよう。最悪はそれで、この小隊は助かる。そっちの上官殿には、敵が投降したとでも言い含めてくれりゃいい』

「俺としてはそれに異存は無い。だが、俺は根元を叩こうと思っている。モーガンを殺すことで、事件に終止符を打ちたい」

 

 ゲイルを1発撃つ。

 

『……確か、捕虜に会いに行くのは自由だったよな?』

「こっそりとならな。グレン、何をするつもりだ?」

 

 スラブが1発撃たれる。

 

『俺が捕虜として、モーガンのいる施設に行きゃいい。トラックに発信機でも仕込めば、位置の特定くらいはできる』

「お前、それが失敗したらまた二の轍を踏むことになるんだぞ! そんなのを見過ごせるか?」

『そん時はそん時だ。おかしくなる前に俺を探し出して、助けてくれよ。親友だろ?』

 

 ゲイルとスラブが、それぞれ1発。

 

 ……それで決意は固まった。

 

「……わかった。伝達する。《各員、攻撃中止! 繰り返す、各員攻撃中止! 指示があるまで撃つな!》」

『助かるぜ……《俺だ! デュバル隊は射撃停止! U.S.N軍への攻撃を一時禁止する! ラミーヌ伍長、デリク上等兵を助けてやれ》』

 

 戦場は、互いの困惑と同時に銃声が止み、戦場とは思えない静寂さが一時訪れた。遠方では射撃が続いているが、ここばかりは戦いが終わったあとであるかのように静かで、平穏だった。

 

 

 

 

 

 

 

「タンゴ14、O.C.Uのヴァンツァーを直してやれ」

『え!? で、でもよ、ウォル……タンゴ6! O.C.Uは今敵じゃないのか?』

「今は違う。お前もきっと驚くぞ」

 

『わかった……じゃあ、直すからな?』

 

 ランディのエルドスが、破損した炎陽を修理しにかかった。

 ダモンとエルシャが近くに歩み寄ってくる。今の状況は、確かにさっきまで命を懸けて戦っていた3人からしたら意味のわからないものだろう。

 

『なあ、タンゴ6……戦わなくていいのか? タンゴ1から下された指示は残敵掃討のはずだろ?』

 

 俺のヴァンツァーの近くに機を着けたダモンは、思ったままの事を聞いてくる。エルシャもそれに同じ疑問を抱いていたようで、ダモンを肯定する。

 

『そ、そうですよ。こんな事してて、もし向こうから撃たれたら…』

「安心しろ。こう言うのもなんだが、あそこにいるゼニスのパイロットは俺の親友だ」

 

 二人に言い含めた途端、ランディが炎陽への修理の手を止めて、こちらに聞いてきた。

 

『おい、ウォルター! それって、グレンってことか!?』

「そうだ、タンゴ14。話すか?」

『お、おう、もちろん話してぇ! ……あ、っとと』

 

 炎陽の修理がまだ終わっていないのを思い出したのだろうランディは、もう一度炎陽に向き直る。

 

『あー、その、行っていいか? あ、えっと……』

『ラミーヌよ、U.S.Nの兵隊さん。どうぞ行って?』

 

 炎陽のパイロットに許可を貰ったランディは、俺を連れてグレンの元へと向かった。ゼニスの足元では、既に降りていたグレンが俺達が降りてくるのを待っていた。

 俺とランディはヴァンツァーを降り、グレンへと近づく。

 

「止まれ、お前たちは誰だ?」

「ひ、ひでぇな、俺だよ! ランディとウォルターだよ!」

「まあ待て」

 

 逸るランディを手で制する。

 

「俺はフェン。お前にライター一個の貸しがある。こいつはオニール。WAPの中でメシを食う事にかけてはプロだ」

「おぉ、もしかしなくてもウォルターとランディか。最近物忘れが激しくてな」

「縁起でもないぜ……」

「……まったくだ」

 

 

 三人で冗談交じりの……うちひとりは翻弄されていたような気もするが……談笑をしていると、完全に修理されたウォーラスと、何とか動くようになった程度のウォーラス、合わせて2機が近寄ってくる。

 

『おい、やめとけってデリク、痛い目見るぜ』

『いいえ、俺は我慢の限界です、クレイ伍長!!』

 

 ウォーラス2機のうち、ボロボロの方はかなり気が立っているらしく、近付いてすぐ俺とランディにマシンガン・シージュを向けた。グレンが俺達の前に立ち、その射線を阻んだ。

 

『バカ、デュバル隊長に向けるな!』

『どいてください軍曹! そいつらはU.S.N軍ですよ!?』

「頭冷やせ、デリク上等兵。こいつらはU.S.Nだが、今は講和の最中だ。また戦いたいか?」

『U.S.Nは先にラーカスを襲った卑怯者です! O.C.U加盟国全ての敵ですよ!!』

 

 U.S.NとO.C.U間紛争の引き金となったラーカス事件に言及するなどして、徐々にヒートアップしていったデリクとデュバルの口論は、次第に激しさを増していく。

 

「デリク、いい加減にしろ。お前は無抵抗の人間を撃つように訓練されたのか?」

『ですが軍曹! こいつらのせいでフリーダムで何人の仲間が死んだと!』

「それをやったのはこいつらじゃないだろ。周りを見てみろ」

 

 デリクが辺りを見回す。騒ぎを聞きつけたダモンとエルシャがデリクのウォーラスに武器を向けている。それどころか少し離れた場所にいたはずの炎陽さえ、彼を窘めるように近付いていた。

 

『なあ、デリクよ。お前はどうかわかんねえが、俺達は連戦続きで疲れてんだ。どうせなら休みてえんだがな』

『……クッ!』

 

 ウォーラスが乱暴に銃口を下ろす。

 

 一触即発だった場の空気もどうにか抑えられ、双方がほっと一息ついた。ヴァンツァー用火器など、生身の人間が受ければ余程の超人でも無い限り死が確定する。恐ろしい思いだ。

 

「部下の教育がなってないな、グレン」

「馬鹿言え、あれでもパイロットとしてはいい線行きそうでな。もう少しのんびり教えたいところだ」

 

 二人に諭されているデリクを一瞥しつつ冗談を言う。はあ、とため息を吐きながら頭を搔くグレンの軍服の胸元から、三枚のドッグタグが顔を覗かせた。通常が二枚のはずのドッグタグがなぜ三枚あるのか。気になっていた俺の視線に気付いたのだろう。

 グレンがタグを取り出し、それらを見せてきた。一番上のタグには、ス・リェンファなる人物の名が刻印されている。

 

「恋人なんていたのか?」

「いや、俺の小隊のメンバーだった。戦闘前に手渡されてな。もっともフリーダムで死に別れちまったが…」

「それは……悪かった」

 

 気にすんなよ、とグレンが言う。ランディも、無念そうな面持ちを地面へと落としていた。

 

「……っと、そろそろ迎えのようだぜ」

「え? ……あ、あぁ……」

 

 俺達の後ろから、数人の歩兵がやってくる。U.S.N陸軍の歩兵連隊だ。このエリアの後詰を任されていた部隊で間違いないだろう。

 

「動くな! 両手は頭の上に!」

「おい、そんな事しなくていい。このO.C.U軍ヴァンツァーチームは、既に投降している。丁重に扱うんだ」

「は? は、はぁ……」

 

 グレンが両手をひらひらと舞わせる。

 

「ジュネーブ条約と赤十字を忘れるな」

 

 やはり冗談と、そして僅かに皮肉が入り交じった言葉を残して、護送トラックへと載せられていくグレン。

 その光景を見て、ランディは安堵のため息をついた。

 

「これでグレンは死なないんだよな? よかったぜ……」

「そうだな……あとは、俺達が生き残れば完璧だな」

 

 もちろん、そんなはずはない。

 

 これからは全く未知の路を辿っていく必要がある。その先が行き止まりか崖かなど、誰にも分からない。俺とグレンだけが知る未来を回避するために、俺は改めて命を賭けることを決意した。

 

 

 

 

 

 






 O.C.U軍グレン小隊

 グレン・デュバル
 Glen Duval.

 階級は軍曹。
 ウォルター、ランディらと生き別れた親友。ウォルターらが歩兵だった頃、グレンは既にヴァンツァーパイロットであり、冗談が好みで、彼らに厚着を薦めていた。
 ウォルターの知る未来では、モーガン・ベルナルドに意識を完全に乗っ取られた悲惨な状態で、ウォルターの前に度々姿を見せた。
 搭乗機は強盾(ゼニス)


 クレイマン・アールノルト
 Crayman Arnold.

 階級は伍長。
 部隊のお調子者で、最年長でもある。第一次ハフマン紛争を歩兵として生き延び、グレンとは入隊時からの付き合いだった。
 グレンと共に捕虜となるが、その後の消息は不明だった。ウォルターが手に入れた、S型デバイス被験者リストの中に、死亡したクレイマンの名が記載されていた。
 搭乗機はウォーラス。
 現在はグレンと共に捕虜としてフリーダムに拘留中。


 ラミーヌ・フォン・ドミネク
 Ramine von Dominic.

 階級は伍長。
 部隊内を纏める、気苦労の絶えないしっかり者。グレンと共に小隊メンバーとなって二年目の若手パイロット。
 フリーダム近郊での敗北後に小隊を離脱し、本隊へ帰還して機動戦隊に編入されるが、U.S.N陸軍第64機動戦隊、通称地獄の壁と交戦し、フリーダム侵攻の際殉死。
 搭乗機は炎陽。
 現在はグレンと共に捕虜として拘留中。


 デリク・ウェスト
 Derick West.

 階級は上等兵。
 U.S.Nに対する並々ならぬ殺意を抱いている。パイロットになってから日が浅く、技術が低いものの、小隊員からは可愛がられていた。
 ラミーヌ伍長と共に戦線を離脱し、機動戦隊へと編入されていた。地獄の壁を突破し、U.S.N軍ヴァンツァー隊と交戦するが、弾の当たり所が悪く、戦死している。
 現在はグレンと共に捕虜として拘留中。

 ス・リェンファ
 Su Lieng Fa.

 階級不明。
 U.S.N陸軍戦車師団 第1機甲大隊 第7機動戦隊を含む、大規模なヴァンツァー部隊と交戦、戦死している。

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