Front Mission 5 ~Curse of the past~   作:。(くてん)

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03-2 Everlasting betrayal

 

 

 

 6月12日。

 

 ペセタ市からフリーダム近郊と、二日間もの緊張状態を保ち続けた第21期のヴァンツァー部隊は、たかが二日とは言えど睡眠も食事もろくに摂れなかったためにかなり疲弊していた。

 そして多量の軍備品移動に伴い、21期生はフリーダムに存在する、接収済みの軍事基地へと駐留する事となる。

 

 俺はというと、先の戦闘での功績がデニス軍曹に認められ、臨時小隊長という立ち位置を受けることとなった。待遇としては小隊長=軍曹と変わりないものだ。

 

 捕虜の扱いも記憶と変わらず、衛星からのIDを付与する事で常に監視が可能となる、馴染みのシステムを使って捕虜を監視している。

 グレンも同じように監視しているはずだ。

 

 それまでに起きた事や考えを纏めながら格納庫で軍内ネットワークのヴァンツァーショップを覗いていた俺は、自分のヴァンツァー・フロストの整備を居合わせた整備兵に頼み、食堂へ向かう事にした。

 そこに先んじてランディが向かっていたからだ。

 

 

 

 廊下を歩いていたその時に、エルシャとすれ違った。お互いその事に気付いたようで、全く同じタイミングで振り返って話しかけた。

 

「ウォルターさん」

「エルシャ、奇遇だな」

 

 てっきり落ち着くために食堂に行って飯を食っているものかと思ったが、そうでもなかったようだ。

 

「ですね。 あの、グレンさん?でしたっけ。 今は捕虜になってるんですよね」

「ああ。グレンがどうかしたのか?」

 

 そう聞くと、エルシャは少し悩むような素振りを見せ、意を決したように視線を向けてきた。

 

「あの……私、グレンさんと話がしたいんです。まともに話せる唯一のO.C.Uの人ですし、もしかしたら、私の友達のこと知ってるかも、って」

「そうだな……会って決めよう。着いてきてくれ」

「! はい、ありがとうございます!」

 

 エルシャの目的は二日前に話していた彼女自身の友人についてだろう。軍人ではないと話していたはずだが、グレンはその事を知っているのだろうか?

 ……今はとやかく考えていても、仕方がない。ランディを迎えに行って、グレンに会いに行こう。

 

 食堂の扉を開いた。

 

 

 

「むぐ……もぐむぐ……」

「わあ。ランディさん、また沢山食べてる」

 

 ランディは珍しくまだ食べている途中のようだった。大盛りのシチューを一分以内に平らげるようなやつがまだ食っているなんて……と思ったが、よく見たら食堂のメニューを総なめしそうな勢いの量を完食しようとしていた。

 

「すげぇぞランディ! あとはブリトー三本だぜ!!」

「こいつ一人でフリーダムの財布が空っぽになりそうだ!」

 

 飯を頬張るランディを取り囲むのは21期生の面々だ。同期の仲も良く、ランディは特にマスコットのような扱いを受けていたのを覚えている。

 

「ランディ、よくそんなに食えるな」

「むぐっ!? ……んぐ、ウ、ウォルターにエルシャか、頼むからあんまり脅かすなよ」

「何をそんなに驚くんだ?」

「そりゃ、お前……あっ、そうだグレン!」

 

 そう言うと、ランディはそれまで以上のペースでブリトーを平らげ始めた。一本丸々口の中に消えていく姿を見た瞬間恐怖を感じた。流石にヤバい。

 しかし、こいつの早食い癖は死ぬまで治らなかったので、きっと一生付き合うものだろう。

 

「し、信じられねぇ…ブリトー三本を10カウントだ……」

 

 ……化け物を見るような目で親友を見ないで欲しい。それはそうと、グレンが待っているという事をランディも思い出したらしく、直ぐに支度を整えていた。

 

「よし、行こうぜウォルター。 何ボーッとしてんだよ?」

「……お前の方がビックリだ」

「まあな。俺も多少は成長してるってことだ」

 

 冗談なのか真面目に言っているのかわからないが、とにかくグレンのことでやる気を出してくれたようで何よりだ。ランディは逸る気持ちを抑えきれないようで、食堂を出たあとも早足だった。

 

「なあ、グレンは元気かな?」

「元気だろ、今のところはな」

「なんか……ツーンとした言い方だなぁ、久しぶりに会えたんだぜ? もっと嬉しく行こうぜって!」

「……そう、だな」

 

 そうだ、ランディは知らないのだ。二十と余年に及ぶ、諦めきれない俺と体を乗っ取られたグレンの戦いを。互いが望むわけもない、血みどろの戦いを。

 しかし、それを今からランディに説明したって信じてもらえるわけもない。

 

「ランディさん、ウォルターさんとグレンさんって、三人で親友なんですよね?」

「ん? おお、そうだぜ。フリーダムで昔よく遊んだっけなぁ。でも、俺達の国籍はU.S.Nで、グレンだけO.C.Uだった。そのせいで俺達だけU.S.N領の孤児院に引き取られちまった。ヤな話だよなあ」

「そう、ですか……実は、私もそうなんです」

 

 歩きながら、エルシャは話し始める。

 

「私も元々、O.C.Uの軍人一家の出なんです。O.C.U日本からハフマン島に引っ越してきたのが、三歳の頃……リェンファともそこで知り合いました。あ、リェンファは私の友達で───」

 

 その『リェンファ』という名前には見覚えがあった。

 グレンが持っていた、三枚目のドッグタグ。その名前が刻印されていたのを見た記憶がある。

 

「エルシャ、話が変わった。お前もグレンに会いに来い」

「え? えっ、いいんですか?」

 

「多分、グレンはそいつの事をよく知ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリーダム市内の、寂れたオフィスビル。4階のとある室内に男はいた。そのネームプレートにはC.Katoと書かれている。カトウという男がそのオフィスの主だった。

 

 三度ノックをして、室内に入る。男は葉巻を吸っていて、ノックの音を聞いてこちらに向き直った。

 

「サインくれ、カトウ部長。それで俺たちの給与は三倍だ」

「フッ、いいだろう。ケツ出しな」

 

 バカみたいなジョークを言い合い、俺はグレンと握手した。ランディも同じように握手し、固く握りしめた。

 

「よう、ウォルター、ランディ。4時間ぶりだな」

「グレン、仮眠も取れてないのかよ。目に隈がある」

「ん? ああ、これか。まあちょっとな」

 

 そう言われて見てみれば、確かに目の下に隈ができている。不眠だったのだろうか。

 

「で、そっちの嬢さんは? まさかお嫁さんって訳でもないだろう。名を名乗りな」

「へ? あ、エルシャ・ハヅキ伍長です!」

 

 グレンはエルシャの名乗りを聞くと、クツクツと笑った。

 

「くっはははっ! 捕虜とはいえ敵に名前を教えるなよ、ハヅキ嬢? ふむ……で、ウォルター。例の件だが」

「ああ。スマンがランディ、エルシャ。席を外してくれないか? すぐに呼ぶ」

 

「なんだよ二人で……まあいいや、少し飯行かねえかエルシャ、俺少し小腹が空いちまってよ」

「えっ、さっき食べたばっかり………」

 

 二人は話しながら席を立ち、部屋の扉を閉めて街へと向かっていった。さて、と本題に入るべくグレンへと向く。今までろくに話もできなかったが、今度こそまともに話せるようになった。

 

 作戦会議と行こう。

 

「モーガン・ベルナルドの名前は知ってるよな、グレン」

「ああ、よぉく覚えてるとも。奴を殺すのが目標か?」

 

 最終的には。そう首肯し、続きを話す。

 

「お前のプラン、概ね賛成だが欠点がある。俺は今軍属、つまり勝手に動けば軍規違反で厳罰だ。兵を勝手に動かすだけの権限も今は無い」

「それは……どうするか。お前の方で何とかならないか?」

「馬鹿言え、そう簡単にどうにかなるか。せっかくなら俺が中佐だったら良かったんだがな」

 

 そう言って思い出すのは、特殊部隊バーゲストにいた頃。個人の裁量で部隊の作戦指揮を下せる権限を持っていたことを思い出し、今中佐だったならどんなに幸運な事かと考える。

 

「どうしようもないな……早速どん詰まりか」

「チッ……あ、いや待て。心当たりがある。こっちで動いてくれそうな奴だ。少し待ってくれ」

 

 そう言うとグレンはメモ帳とペンを取り出し、書き付けたページを一枚千切り、こちらに手渡してくる。個人へ宛てたメールアドレスが記載されており、それの持ち主だろうことが容易に窺えた。

 

「ロイド・クライブ。O.C.Uの元大尉だ。……いや、まだ大尉か。とにかく、彼なら動いてくれる可能性がある。もしもの時はここに連絡しろ。連絡手段は何でもいい」

「O.C.U軍大尉って、お前……俺はU.S.N軍属だぞ、話をまともに聞いてくれるとは思えない」

 

 グレンは反論する俺を抑える。

 

「いいから聞け。彼は今大尉だ、それは間違いない。だが、いつだったか再会した事があるんだが、ロイドは傭兵部隊の隊長になってた。つまり不名誉除隊か何かで軍を離れていた時期があるんだ。しかも、ヴァンツァーの腕は鈍ってない。とくれば、だ」

 

「………フリーの時を狙って連絡すれば、手を貸してくれるかもしれないってことか」

「アタリだ。戦力は一人でも多く欲しいだろ?」

「まあ、戦力の件はそうだな。だが本題が解決していない。俺は軍人だ、勝手に出撃できないし、させる権限も無い。そこはどうする?」

 

 そうだ。せっかく戦力を用意できても、それを動かせなければ意味が無い。軍隊にいるから、動きようがない。戦力を動かせなければ……。

 

「…………軍隊にいるから……?」

「どうした?」

 

 それは、あまりにも突拍子のない考えだった。そんな事をするなんてありえない、そんなのはバカげている。

 ……しかし、それでも。そんな()()()()()()などという考えだとしても、一度頭に浮かんだ妙案というのは、切っても切れなくなる。補給を受けられない、整備が不可能、常に追跡される、両軍から攻撃される可能性さえ……。

 

「なあ……軍を抜けて、俺とそのロイド大尉だけで向かうのはどうだ?」

「わからんが、研究機関か何かが相手だ。ならヴァンツァーは山ほどあるはずだ。足りなさすぎる」

「………ああ、だろうな……」

 

 一瞬浮かんだ案だったが、すぐにその線は消えた。そもそもたった2機だけで数さえ分からない部隊を相手にする発想がおかしかったのだ。

 

 ……だが、今はそれ以上に有効な手立てが思い浮かばない。

 

「……ランディとあの娘を連れて行けないか?」

「二人を? 馬鹿言え、巻き込めない」

「そんな事言ってる場合か、ウォルター。あのジジイを殺したいんだろう。 なら使えるものは全部使え、お前らしくもない」

 

 確かに、ガンナーとメカニックが戦場にいれば、それだけで連携を取ってより多くの敵を相手取れる。だが、二人はこの件に関わりがない。巻き込むわけにはいかない。

 

「それに、お前の話を聞いて思い出したんだよ。リェンファの死についてだ。あいつのヴァンツァーが爆発して応答が無くなるまでは知ってる。だがそのあと、どうなったかわかっていない。遺体の収容も聞いていないしな」

「リェンファ……そのタグのか」

 

 そう聞くと、グレンが胸元から一枚のタグを取り出す。名前からして大漢中からハフマン島に来た中華系の人間だろう。

 

「部下だったからな。だが、戦後処理を請け負うはずのU.S.N側からリェンファの名を聞けてない。親切な奴が教えてくれたよ、名簿リストにその名前は無いってな。だから俺と同じように、何かしらの手段で連れ去られた可能性がある。リェンファもな」

 

 グレンがそう言うや否や部屋の外で物の入った袋が落ちるような音が聞こえた。俺とグレンは揃って扉の向こうを見る。エルシャが土産の入った袋を落としたのだろう。遅れてきたランディが、袋を拾い上げていた。

 

「誘拐……されたんですか……?」

「おっと、ちょうど聞かれちまったか」

 

 とぼけるグレンに掴みかかる勢いで、エルシャが部屋に入ってくる。

 

「教えて下さい、グレンさん!! リェンファちゃんは誘拐されたんですか!? そもそも軍人のあなたが何故、あの子を知ってるんですか!!」

 

 俺やランディが知っている今までの内気なエルシャとは違う、切羽詰まったような表情を浮かべ、感情を隠そうともしていなかった。彼女から聞いた情報を繋ぎ合わせていくと、リェンファは民間人。確かに軍人であるはずのグレンが知っているのは不自然だろう。

 

「落ち着けって、一つ目の質問の答えは、《まだ可能性がある》ってだけだ。それに、もしそうだとしてもリェンファを放っておけない。二つ目の質問の答えだが、あいつは俺の部下だからな」

「部下……あの子は結局、軍人になったんですね」

 

 エルシャはグレンの言葉を聞いて少し落ち着いたらしく、力なくソファに座り込む。俺はグレンに向き直り、伝えた。

 

「俺がエルシャを連れて来たのも、その件が理由だ。お前ならエルシャの望む答えを出せるかもと思ってな」

「結果はこの様なわけだがな。で、どうする? ランディとハヅキを巻き込むのか?」

 

「むぐむぐ……んぐっ、おい、何の話だよ?ウォルター、グレン」

 

 後から部屋に入ってきたランディは、どこかの店で買ってきたのだろうハンバーガーを齧っている。

 

「いや……ダメだ。グレン、俺やお前はともかく、エルシャやランディは()()()()()。まだ新兵もいいところだ」

「し、失敬なやつだな……」

「……………」

 

 ランディはあからさまに落胆するが、エルシャには表情の変化は無い。俺のその発言に、グレンは反論を重ねた。

 

「だがなウォルター。どんなのが相手であれ、ヴァンツァーなら多少はやり合える。連れて行って損は無い。それにお前は小隊長としても一流だろ。上手く使ってやればいい」

 

 その説得は、甘い蜜のようだった。連れていくことでランディを死地に迎えたくない、そう考える自分と、リスクを背負って全てを片付けたいと、そう考える自分とがせめぎ合っている。

 

「まあ、それを決めんのは俺じゃない」

 

 グレンは席を立ち、オフィスの外へ顔を向ける。

 

「もう行け。 ……ウォルター、覚悟決めとけよ。やるんなら、どっかから発信機くすねて俺に渡せ。上手いことやってやる」

 

 グレンがそう言うのでようやく思い出したが、確かに俺達とグレンはかたやU.S.N正規兵、かたやO.C.U軍の捕虜という立場だ。このまま一緒にいると怪しまれかねない。やるならグレンだけでなく、ランディとエルシャの二人まで危険に晒すかもしれない。やらないなら、グレンは確実に助からない。

 

「……お、おい、行っちまうのかよ?」

「行くぞランディ、エルシャ。俺は少し考え事がある」

 

 グレンに顔を向ける事が、今だけは出来そうにない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方。グレンを含む大勢のO.C.U軍捕虜が、フリーダムを挟んで向かい側のO.C.U領へと送還される……建前上では。

 実態は違う、今から彼らが向かうのはO.C.U領ではなく、どこにあるかも分からないバイオニューラル・デバイスの研究施設だ。そしてその実験で、ほとんどの人間は命を落とし、僅かな人々は心を喪失する……。

 

「あっ、グレン……」

 

 ランディが指を差す。その先には、大量の捕虜達に混じってグレンの姿があった。グレンはこちらをちらりと一瞥すると、そのまま乗り込んでいく。

 

「なあウォルター……よかったのかよ?」

 

 そう聞かれても、俺にはそれ以上の選択肢は思い浮かびそうになかった。軍備品から一つくすねた信号発生器を、グレンに握らせた事。

 それはつまり、俺だけでなく俺に賛同する全員を巻き込むことになるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 10時間後。

 

 6月13日の午前1時。とっくにほとんどの兵は消灯時間の為、短い睡眠を摂っている。兵舎をこっそりと抜け出した俺とランディ、エルシャの三人だけが、WAP格納庫隣の資材保管庫に隠れている。

 

 ランディとエルシャを20分おきに交代で見張らせながら、俺はグレンに預けた子機からの反応を必死に追っていた。

 

 グレンに着けられた捕虜管理タグを、衛星ネットワークからリンク照会してみる手も考えたが、そもそもが軍事衛星を使う都合上、一兵士に許可が下りるとも思えない。

 これは仕方の無い判断だった。

 

「なあウォルター」

「ん?」

 

 見張りを終えてエルシャと交代したランディが、話しかけてきた。その表情に緊張は見られない。それどころか、どこか浮き足立っているようにも見える。

 

「懐かしいなぁ、こういうのって。ホームの先生にバレないように、こっそり抜け出してハンバーガー食いに行ったよな」

「お前……フッ、一体いつの話だ、もう何十年も前じゃないか」

「何十って、言うほどだろ。13歳の頃だから……まだ10年前だ」

「あぁ、そうだったか。 ……懐かしいな」

 

 一応、覚えてはいる。だが、それは本当に何十年も前の記憶だ。比喩表現など一切していない。ランディとの認識の差が、越えてきた年数の違いを嫌でも感じさせた。

 

「ランディ、これから話すことは、間違いなく突拍子もない、受け入れ難い話だ。いいか?」

「……あぁ、わかった」

 

 ランディの喉が鳴る音が聞こえた。

 

「実は…………────ッ!?」

 

 息を呑む。信号が遮断されたのだ。

 グレンに渡した発信機からの通信が途絶えた。それはつまり、グレンが信号発信に失敗したという事実だけが残る。

 

「……ダメだ、完全に途絶している。見失った」

「ま、待てよウォルター、じゃあグレンは……!?」

 

 グレンを追う信号の反応。それが消えたということは、すなわちそれ以上の細かい位置の特定は困難であるということに他ならない。

 

「……クソッ!」

 

 拳を床に叩きつける。ここでグレンの足跡を追えなければ、また歴史が繰り返されるのだ。しかし、大地はハフマン島全土どころか、世界中に及びかねない。中東からアジア、アメリカ最北部に至るまで、どこにモーガンが潜んでいるかもわからない。

 

「ウォルターさん、ランディさん、見張りが来ました!」

 

 倉庫内に隠れている俺たちに向かって、エルシャが声を抑えながら伝える。正直、もうこの信号受信機からは有益な情報を引き出せそうになかった。

 

 作戦を、決行しよう。

 

「聞け。俺が合図を出したらヴァンツァー格納庫に走れ。見張りは俺が先行して気絶させる。フラッシュライトの点滅三回で合図だ。いいな?」

「わ、わかった」

 

 そう言い残すと、俺は扉を静かに開き、倉庫の陰まで走った。もちろん哨戒に見られないタイミングを見計らってだ。

 やがて開いている扉に気付いた見張りが、扉を調べようと接近するのを確認して、一気に背後まで迫る。

 

 至近距離まで近づくと流石に足音でバレるが、そこからはあっという間だ。柔道(ジュウドー)の容量で腕と胸倉を引っ掴んで背負い、地面に思い切り叩きつける。

 下は芝生では無い。コンクリートにぶつけられれば、痛み、あるいは衝撃によって一時的に気絶する。

 

 倒れた見張りを倉庫の陰に隠し、ヴァンツァー格納庫へと走った。格納庫内はいくつものヴァンツァーが並んでいるが、自分のヴァンツァーの位置は完璧に覚えている。

 WAP格納庫はひとつではない。ひとつの防衛拠点に数十から数百近くの機を収納している基地もある。

 

 だから、より新しく新設された格納庫に、俺達のヴァンツァーはあった。

 

「中には居ない……よし」

 

 振り返り、ドアの隙間から倉庫へ向かってフラッシュライトを三回明滅させる。ランディ、エルシャが一斉に走ってくる。

 ヴァンツァーに乗り込む前に、二人を呼び止めた。

 

「これで俺達は、U.S.Nを裏切ることになる。俺達の中では裏切ったつもりはなくとも、重大な軍規違反が裁かれないというのは、世論にとっては裏切り者として扱われる事に他ならないわけだ。

 

 その覚悟が、お前らにあるか?」

 

 エルシャには、もはや迷いはなかった。ランディは、一瞬思案こそしたものの、直ぐに覚悟を決め、その瞳を真っ直ぐと俺に向けてきた。

 

「もともと、O.C.U側の人間です。覚悟は出来てます」

「これが……グレンを助ける道なんだろ? 俺もやるよ」

 

 その言葉を受け、深々と頭を下げた。

 

「スマン。一生の恩に着る」

 

 その言葉を皮切りに、俺達は一斉にそれぞれのヴァンツァーに乗り込み、エンジンを始動した。

 メンテナンススタッフがしっかり整備してくれていたせいで、俺達は完全武装のまま基地を出ていく事になる。彼らには可哀想なことをするが、仕方ないと割り切る。

 これからあまりにも多くの人々に迷惑をかけるだろうことが、容易に想像できた。

 

 それもこれも、全てモーガン抹殺のためだ。

 

 

 

 

 

 

 

 警報機が鳴り響く夜。

 

 緊急発進したヴァンツァー6機。

 ストライカー・ナムスカル2機、アサルト・フロスト1機、ランチャー・シャイアン3機が破壊され、3人のパイロットと3機のヴァンツァーが姿を消した。

 

 







 U.S.Nハフマン島駐留軍フォートモーナスヨリ
 ハフマン島ニ展開スル全部隊ニ入電

 以下ノ三名を射殺、或イハ生キタママ捕エヨ
       ───駐留軍陸軍大尉

 Walter Feng Randy O'Neill Erusha Haduki



 ウォルター・フェン
 Walter Feng.
 脱走兵につき速やかな処分を検討。しかし訓練成績及び実戦における戦績が優秀であるため、可能ならば確保すること。検体としての運用が望ましいか。

 ランディ・オニール
 Randy O'Neill.
 脱走兵につき速やかな処分を検討。

 エルシャ・ハヅキ
 Erusha Haduki.
 脱走兵につき速やかな処分を検討。

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