Front Mission 5 ~Curse of the past~ 作:。(くてん)
6月15日、午前11時。
信号が最後に発信された場所。そこはフォートモーナス近くだった。グレンたちは、O.C.Uに護送されるという扱いにしておきながら、実際にはU.S.N領の奥へと運ばれていたのだ。
しかし、フォートモーナスへ突撃でもしようものなら、自分からむざむざと捕まりに行くようなものだ。
どうすべきか。トラックの行き先を調べる手段はもうない。頼みの綱のグレンが、何かしらの原因で信号を送れなくなってしまったからだ。
『どうすればいいんだ。まさか、もうグレンは………?』
『リェンファは……グレンさんはどこに……』
行き詰まった事実を受けて、ランディとエルシャがネガティブになっている。
確かに、絶望的な状況だ。だが、頭だけは回転させ続けなくてはならない。情報は、ひとつずつ整理するべきだ。
フリーダムからフォートモーナスへ、その道が示す先は、グレンたち捕虜が必要な実験施設がU.S.Nにあったから?
だとすれば今から一年後、フリーダムを奪還するために動くO.C.U軍によって生まれるU.S.Nの捕虜は、一体何処へ行く?
……S型デバイスの被検体は、第2次ハフマン紛争の犠牲者をゆうに凌ぐ。そんな冒涜を許せない。何より、それがグレンを彼の意図しない戦いへ導いたのが、この怒りの理由だった。
だが、トラックの行き先を特定できなければ、ここまで来た意味が無くなる。
どうすべきだ。
トラックはもうない。つい昨日に発車したのが最後だ。向かう先を探る方法もない。だが、もう一度トラックが出ればそれは間違いなく施設へと向かうだろう。BD計画には、必要な被検体が多いはず。被検体を確保する機会があれば、食いつくはずだ。
トラックが出る時………それはつまり、U.S.NとO.C.Uの大規模戦闘が再び勃発する時。つまり一年後。
そんなに待てるか。その間にグレンは……。
思考がマイナスへ偏っていくのを無理やり止める。まずはモーガンの動きを考えるべきだろう。
モーガンはハフマン紛争中にも暗躍していた。それはつまり、U.S.NとO.C.U両国のハフマン島駐留軍の上級将校とも繋がりがあるという事になる。
そして、U.S.N軍の将校は空港と防御設備のあるフォートモーナスに、O.C.Uの将校は最終防衛線となるニューミルガン市に、それぞれ集中している。
更に、モーガンは自身の意識を別の媒体となる人間に移し替えることが可能だった。その技術がいつから生まれたものかは定かではないが、下手をするとモーガンはこの時代の時点から、媒体として用意された人間を世界中に散りばめている可能性がある。
頭の中で情報を整理し、また組み立てていく。
つまりあの男は、そのつもりになれば両国軍をある程度コントロールすることさえ可能なのだろう。
厄介なのは、モーガンには多くの手駒が存在しているということだ。直接戦闘を行う部隊、テロ組織グリムニル。
グリムニルメンバーをU.S.N、あるいはO.C.U軍人として潜伏させれば、それだけで軍内部に自身の指示で動く駒ができる。
軍に味方はいない。元から捨てたようなものだが。
テロ組織、といえばハフマン島では《ハフマンの魂》なる組織が存在していた。 地獄の壁を崩壊させたという伝説のO.C.U傭兵部隊キャニオンクロウに壊滅させられたと聞くが、それは第2次ハフマン紛争が終わって以後、ザーフトラ共和国が平和調停軍としてハフマン島に参入して以降の話だ。
ハフマンの魂はサカタインダストリィに根強い恨みを持っていたと報道されていた事を考えると、彼らの創立にはサカタインダストリィ事件が深く関わっていると思って良いだろう。
……サカタインダストリィ事件は、同名の企業が落ちぶれ、後続のイグチエレクトロニクスに買収されるきっかけとなった事件だ。そしてその内容は…………!
「………BD、計画……!」
……となると、ハフマンの魂は今の俺達がグレンへと近付く、唯一の道と言っていいはずだ。
当面の目的は決まった。
「ランディ、エルシャ、行くぞ。すぐにここを発つ」
『え!? せっかくフォートモーナスまで来たんだぜ、なのにか?』
「ああ、なのにだ。
二人は、膝を着いてエンジンを停止していたヴァンツァーを動かし始めた。とにかくO.C.U制圧下にある街へ向かい、情報を集めなければならない。今、O.C.U軍はU.S.N軍によるフリーダム市制圧の際に優秀な兵を多く失っている。
今なら、夜間など手薄な時間を突き、防衛網を無理矢理に突破して内部に潜入する事も可能なはずだ。
「O.C.Uに入り込むぞ」
6月21日、午前1時7分。
幾度かU.S.N軍の追っ手を躱し、フリーダム市街を大きく迂回する事に成功した。現在はO.C.U支配下グレイロック市へ向かうべく、フリーダム外縁西部を覆い尽くすロクスタ砂漠を横断している。
ロクスタ砂漠は、砂漠とは言いながらも本来はハフマン島隆起の際に海水の残っていた、湖のような地形だったという。それが更なる隆起のために、水が干上がり、海底にあった砂だけが輝く砂漠となったのだとか。
そしてそこを渦巻く冷風は、かつて水底であったはずの砂漠が、砂漠らしい存在となっている証左でもあった。
『……さみぃ……』
『ウ、ウォルターさぁん……寒いです…』
砂漠を横断する俺たちは、もちろん不意の交戦に備えてヴァンツァーに搭乗しながら移動している。そのため、余計な消耗は避けなければならない。空調を利かせるなどしていては、すぐに動かなくなることは必定だった。
「我慢するか、燃料電池の消耗を早めてヒーターをつけろ」
『い、意地悪だぜ、なあエルシャ?』
『ううぅ……さむっ……いじわるです……』
ヴァンツァーは、言わば閉鎖空間。ボディという暖房の中に閉じ込められるようなもの。だのに、夜の砂漠という0℃の冷凍空間は、ヴァンツァーを中身ごと凍らせそうな勢いだった。
「こんなの、アラスカと比べりゃ大した寒さじゃない」
『ウ、ウ、ウォルター……おま、お前、アラスカなんて、行ったことないだろ……』
「ある。もっと言ってやろう、今から一年後にパラダイスバーガー・フォートモーナス本舗は吹き飛ぶ」
『ババ、バカ言うな、U.S.Nは今優勢なんだぜ。 O.C.Uに押し負けたりす、するかよ』
「さぁな。確かなのは……おっと」
雑談に花を咲かせていると、レーダーに不審な機影を4機捉えた。位置は……東部、つまり俺たちの後方だった。
「アルファ-1より各機へ警戒、後方にヴァンツァー4機」
『こ、こんな寒い時に追っ手かよ』
『や、やですね……ううう……』
二人は戦意喪失のような状態になっている。
「シャキッとしろ、お前ら。グレンとリェンファを助けたくないのか?」
『う……うおおお、確かにそうだ!』
『そうだ……リェンファ!』
「……単純なヤツらめ」
ぼそりと呟く。幸運にも二人には聞こえていないようだった。レーダーが更に敵機の接近をアピールする。4機は更に接近してきている。距離3,000、2,800、2,500……。
「来るぞ! 距離2,000……1,500……迎撃用意!」
ランディがマシンガン・ラプターを、エルシャがライフル、イグチ5式をそれぞれ構える。……が、奇妙な事にWAPチームは距離500で止まった。無線機から呼び掛けが聞こえてくる。
『……ム、そろそろ聞こえるかな?』
『……うだろう? 聞いてみればわかるんじゃないか?』
『それもそうだな……あー、あー。こちらはU.S.N陸軍戦車師団フリーダム駐留軍。えーっと……あ、第84機動戦隊! そうだったそうだった』
目の前のヴァンツァー部隊は覚えて間もないのだろう部隊名を唱える。その声には聞き覚えがあった。
『えっと……ウォルター、俺だ。ダモンだ。なんで軍を抜けたんだよ。おかげで21期生チームをお前とランディとエルシャ抜きで組んじまう事になっちまった』
ナイトビジョンに映るヴァンツァーは4機。シャイアン、レクソン、ナムスカル、ウィスク。
ダモンにジェイミー、クリスティン、ジム……第21期生のメンバーの生き残りで、全員が俺と同じ部隊に所属していた。
かつての記憶が思い起こされる。全員がアラスカまで着いてきてくれた。少なくとも、グレン、ランディに並ぶ最大の友だった。
だが今や俺たちはU.S.Nの脱走兵で、向こうはU.S.N陸軍の正規兵。とどのつまり彼らは敵なのだ。かつては仲間であろうと。
「今更、何をしに来た。戦うつもりなら分が悪いぞ」
ランディとエルシャの前に立ち、おもむろにマシンガン・グレイブを構える。向こうでは今頃警告が鳴り響いているはずだ。ランチャーをやるダモンとガンナーのジェイミーを庇うように、クリスティンのナムスカルとジムのウィスクが立ち塞がる。
『やめろウォルター! 俺たちが戦う必要はないんだぞ!』
『そうだぜ。ランディもエルシャも、少し混乱してるんだよ。ウォルター、お前もさ。……そうだろ?』
ジェイミーとジムが説得を仕掛けてくる。もう遅い。
『ウォルター! 引き金を引くぐらいならアタシとタイマンしな! ストライカー勝負でアンタに勝つっていう目標がまだだからね!』
『……いや、戦う必要がないって言ったばかりだろ…』
クリスティンとダモンが話しかけてくる。そんなのは今更だろう。
『ウォルター、どうする? 出来れば戦いたくないけどよ…』
『……でも、リェンファを助けるためなら、私は……』
ランディとエルシャが交戦の意志を固めた。いくら同期とはいえ、今や敵だ。
双方が武器を構える。既に一触即発の状況であり、もう、いつ戦闘が起きてもおかしくない。撃たれるかもしれないという緊張状態が、誰かに引き金を引かせる。戦争の歴史が、それを物語っていた。
そしてその法則はここにも当てはまるかもしれない。
『ウォルター! やるのか!?』
『ウォルターさん……!』
『ウォルターよせ!』
『なんて馬鹿な真似を……!』
『諦めないぞ、ウォルター、ランディ、エルシャ!』
互いが睨み合う中、ジムだけが異変に気付く。
『……おい、待て! 西からヴァンツァー! 10……20!? O.C.Uの偵察中隊だ!!』
その言葉に、俺を含むアルファチームはレーダーを見た。確かに西側……O.C.U領からヴァンツァーの反応が複数機確認できた。
緊張状態が別のものに上塗りされたのを考えると、呆れなんかよりも、懐かしさから来る笑いが込み上げてくる。
抑えようと試みこそしたが、結局我慢できずに吹き出す。
「く……うくっ、ははははっ!!」
『うお……ウ、ウォルター?』
ランディが……ランディだけじゃない。全員が不思議そうに俺を見つめていた。
「いや……なんというか、ジム。お前は
『はっ!? お前、まだ言うのかよ!!』
一瞬だけ緊張の糸が解れるが、O.C.U軍WAP部隊の全容がレーダー上にて明らかになったところで、再び場に緊張感が訪れる。21機。奇しくも俺達21期生を象徴するような数字だった。
俺達アルファチームは振り返り、ダモンら21期チームと背を並べる。7対21。単純に考えれば三倍差だ。
「共闘だ、21期生チームでな」
『最初からそのはずだったろ、俺達で』
O.C.U軍機との距離が1,000を切った。
「ダモン! エルシャとジェイミーを連れて後ろに下がれ! クリスティンと俺とジムで前線を抑える! ランディ、誰かの腕が吹き飛んだら頼むぞ」
『わかった……!』
ランディの息を呑む音が無線越しに聞こえた気がした。
「みんな聞け! 同じ敵を
息を吸い、続けて言う。
「この隊を、緊急時につきアルファチームとして再編成する! 俺がアルファ-1、ランディが2、エルシャが3! ダモン、ジェイミー、クリスティン、ジムをそれぞれ4、5、6、7と呼称する! 復唱!」
『おい、そんなの聞いてな───』
『
『
『
『───え、オレもやる流れなの?』
最後まで間の抜けたジムを放置して、距離500を切った敵に対して、ダモンとエルシャ、ジェイミーがそれぞれミサイル・ドンキーとライフル・イグチ5式、ウィニーを射撃した。
敵ヴァンツァー、シンティラが集中攻撃を受け、一瞬にして大破する。ランチャー1、ガンナー2の火力集中は凄まじいものだ。しかし彼らにばかり任せてはいられない。ハンドサインを出し、前線部隊を前進させる。
クリスティンが2機目のシンティラに肉薄する。ジムのウィスクのバックパック、センサーEMPがクリスティンと睨み合う敵機へジャミングをしかけ、攻撃行動に待ったをかける。クリスティンがF-3ハンドロッドで殴りつけるのを見届けつつも、3機目のウォーラスと射撃戦を演じる。
4機目、ウォーラスのマシンガン・22SNレオソシアルがこちらを向いているのを見て咄嗟に機体を横にずらす。機のすぐ近くを速射弾が掠めた。
砂漠という戦場は、とにかく身を隠す場所がない。それはつまり、敵も味方も銃火の雨に晒されるということだ。そしてそれは敵同士、味方同士でも同じことだ。
5機目、シンティラのボーンバスターがボディに迫る。それを回避し、パイルバンカー・プレスニードルを打ち込み、炸裂させ、シンティラを無力化する。
クリスティン、ジム、ランディで集中攻撃していた2機目、シンティラが大破し、次のターゲットを3機目のウォーラスに定めている。
「
『なに、俺だってのか!? バカにするなよ、
『そりゃ射線に味方が居なきゃの話だろ!! お前に撃たれたの忘れてないからな!』
ジェイミーにジムが反論しながら、それぞれ見える敵を撃つ。ジムのフレイムスロワー・ウォーマがウォーラスを焼き、それに同調するようにクリスティンのハンドロッド、ランディのボーンバスターが挟み込むように4機目のウォーラスを殴る。そのまま2機がウォーラスを連続で殴打して叩き伏せた。
4機目のウォーラスも、俺が同じようにマシンガンとパイルバンカーの
次の分隊が接近してきていた。休む暇はなく、ランディが大急ぎで被弾数の多いクリスティンとジムのヴァンツァーを修理している。
俺は時間を稼ぐため、単機で突撃する。もちろん援護という頼みはある。単機では危険であることも十分に承知している。だがそれ以上に、修理して戦線復帰する時間が必要だった。
『アルファ-1! ひとりじゃ危険だ!』
「お前達がやられる方が危険だ。俺は大丈夫だから負傷機の心配をしろ」
ダモンの呼び掛けを受け流す。アサルト1機がダメージを受ける分には問題無いが、ガンナーがダメージを蓄積するのはまずい。メカニックは大抵アサルトやストライカーのような、敵と肉薄する機会の多い前衛を修理する為、前に出る。つまりガンナーやランチャーを修理する余裕が無いのだ。
『こちら第7戦車中隊! U.S.Nの小規模偵察隊だ、なんでもいいからとにかく援軍をくれ!』
混線しているのか、O.C.U軍機の通信が聞こえてくる。援軍を呼んだという事は、この先のグレイロック市にかなりの規模の駐屯軍がいるのだろう。
更に速度を上げ、目前まで迫ってきていた第二波、1機目の強盾にタックルをしかけ、2機目の炎陽にぶつけながら、強盾へプレスニードルを刺し込む。
その勢いを維持しつつ、強盾を文字通りの盾にしながら後ろの炎陽へマシンガンを連射する。
レオソシアルには連射数で負けても威力で勝るグレイブは、炎陽の装甲を容易く破壊する。ボディが機能を失い、炎陽は後ろに倒れ込んで爆発、大破した。これで6機目。
強盾の盾を存分に使い回すため、更に踏み込んで敵陣に突っ込む。敵小隊そのものをターゲットにし、強盾に二度目の近接攻撃を打ち込んで破壊すると、グレイブを構えて横向きに乱射し、ローラーを使うことで回転しながら小隊の敵ヴァンツァーを
連射こそするものの、どれか1機に集中した攻撃では無いため、戦果は敵3機中2機の小破に留まるが、それでもかなりの被害を与えた。ウォーラス、ギザ、強盾からの集中砲火を躱し、戦線を下げてクリスティンらのいる場所へ戻った。
『……バカかよ』
『いや、化け物だな』
ランディは今の間に修理を完全に終えていた。時間は十二分に稼いだと言えるだろう。
「アルファ-1より各機! O.C.U偵察部隊が増援を要請している、手早く片付けるぞ!」
『片付けるったってよ、アルファ-1。敵はオレらの倍以上いるんだぜ。普通は無理だろ』
『やれますよ、
『……否定できないんだよなあ』
ジェイミーの否定にエルシャが反論し、ジムが肯定する。
「いいか、敵の数は確かに多く見える。だが実際に戦う相手は小隊がひとつずつに過ぎない。大軍と小部隊のぶつかり合いは普通、大軍が勝つものだが、ヴァンツァーは的もデカけりゃ誤射だってしやすい。実際に相手するのは一個小隊がせいぜいだ」
『だからって……。 ………無茶苦茶だろ、あいつ』
『いつもの事だろ!』
ランディのエルドスが近付いてくるギザにボーンバスターを見舞う。心外だ、俺は勝てる戦いは勝ってきただけなのに。
ギザ、強盾のマシンガンとライフルが、ランディを目掛けて直撃する。エルドスのレッグが破壊され、クリスティンが庇う。
『
『悪ぃ、
エルドスが自機の損傷箇所にリペアバックパックの修復装置を宛てがう。その間、クリスティンの援護のためにジムが動く。ウォーマをばら撒き、ギザが容易に接近できないようにしている。
『やってくれ!』
『OK!』
ジムの合図にジェイミーが返答し、ダモンのランチャーとジェイミー、エルシャのライフルが集中してギザへと押し寄せた。耐えられるはずもなく、ギザは爆発する。8機目。
エルシャがもう一度引き金を引いた。それは側面から接近していた第三小隊を目掛けたものだった。
『挟まれてます! アルファ-1、対処は!』
「昨日やった通りだ! 俺と
『了解だ、ボス!』
ダモンがノリ良く返した。それとほぼ同時に、ダモンがジムのセンサーで捕捉された敵へランチャーを2発、放った。
ミサイル弾頭はそれぞれボディと右腕に命中し、敵ヴァンツァー・シンティラの腕を捥ぐ。それにリンクして、エルシャのイグチ5式がシンティラのボディを穿ち、破壊する。9機目。
『機動力があっても遠くからやられたんじゃ、ね……』
エルシャのセリフと共に、ジェイミーとダモンが次なるターゲットを選定している。向こうが残る4機を破壊する間、俺とクリスティンは眼前の8機を抑える必要があった。
『アンタ、地獄に女と連れ添う趣味でもある?』
「馬鹿言え、お前は女ってガラじゃないだろ。それにこんなのは地獄でもなんでもない。ぬるま湯だ」
ストライカーとアサルト同士、前線を張る人間同士のくだらない掛け合いと同時に後続のゼニス3機が、前線で損傷していたウォーラス、強盾を抜き去って高速で接近してくる。
武装は1機がライフル・ツィーゲ、残る2機がマシンガン・22SNレオソシアルとショットガン・キャッツレイX。ガンナー1とアサルト2のよくある編成だ。
アサルトがマシンガンを乱射して突撃、撹乱してくるのを、俺は同じマシンガンで、クリスティンは回避する事で応じる。射線上で挟み込むよう、射程内の俺達を囲おうとするゼニス3機。ツィーゲによる狙撃が俺を襲う。ゼニスアサルトと交戦していた為に回避ができず、せめて致命傷を防ぐためにプレスニードルを持つ左腕でボディを庇う。
着弾時の
ダメージが大きすぎる、次は受けられない、そう考えながら眼前の敵を撃ち、立ち上がる。ゼニスは装甲こそ薄いが、どんな戦況にも対応しうる汎用性を備えている。ガンナーにもアサルトにも成れるため、出力が低く役が絞られるフロストとは対照的で、ライバルと呼べる存在だ。
だからこそ、この3機は間違いなく
二対のヴァンツァーが引き金を引き合う。こちらはショットガンをどうにか避け、ゼニスも撃たれてすぐに機体を下がらせる事で被弾を抑える。
だが、そのままもう一度
ゼニスガンナーからの射線を防ぐため、アサルトを盾にする。
『サイラス邪魔だ、撃てん!』
『こいつ、俺を盾に!』
ゼニスからの無線が混線している。
「気を付けろ、無線が混線している」
『何の話よアルファ-1!』
「話を聞かれるということだ
『お前らU.S.Nの強襲連隊だな! クソ、こんなマネを!』
「さあ、案外軍を抜けた木っ端かも…なッ!」
軽口を叩いて、更にゼニスアサルトへとグレイブを連射する。二撃目は流石に回避ができなかったのか、ゼニスアサルトはボディから火を噴いて倒れる。
これで、10。
あとはガンナーを二人がかりで殴れば、厄介なゼニスガンナーは倒れ、残りは5機となるのだが……。
そう上手くは行かないのが戦場だ。追いついてきた3機のウォーラスアサルトが、弾幕を展開する。ゼニスガンナーはすぐに後ろへと下がってしまい、手の出しようがなかった。
『アルファ-1、どうするのさ!?』
「俺達の目的は殲滅じゃなくて足止めだ。やられなきゃいい」
『そんな事っ、言ったって……くっ!』
クリスティンと俺は、とにかく細かい機動を繰り返して被弾を最小限に抑える。同じマシンガンを持っているため反撃が可能な俺と違い、クリスティンは完全なストライカー。注意を少しでも逸らすため、マシンガンを撃ち続ける。
反撃を続けていく中で決して少なくない数の弾を受けるが、フロストの堅牢な装甲のおかげで何とか耐えられている。
不利な射撃戦を続けていた中、別働隊からの通信が入る。向こうの敵を全て、倒し終えたらしい。
『タンゴ………アルファ-1! こっちは片付いたぞ!』
「よくやった、
『任せろ!』
ジェイミーとエルシャ、ダモンの三人が、遠距離から敵ヴァンツァーへの攻撃を開始する。ジム、ランディの二人が駆けつけてきてくれたおかげで多少の注意が逸れ、アイテムバックパックの中からリペアを使用することが出来た。
『数で不利なのに、なんで2機も倒してんだ…』
「年季が違うからな」
『同期だろ!!』
ジムのツッコミをいなしながら、ウォーラス1機へ集中攻撃する。エルシャからの射撃で装甲が砕けていたボディは、マシンガンを防ぐことも出来ずに、また1機が倒れる。
これで敵の残りは5機。うち2機が損傷している。当初3倍の数だった敵が、今やこちらの方が多い状態だった。
あとは消耗戦に持ち込ませれば、勝手に倒れる。ガンナー二人の追撃を受けて、また1機ウォーラスが倒れ、ゼニスと肩を並べて射撃していた強盾がダモンのミサイルに破壊される。
残るウォーラス2機とゼニスへ全員で肉薄する。クリスティンが殴り、ジムか燃やしてまた1機。ダモンのミサイルとジェイミー、エルシャに撃たれてまた1機。最後のゼニスが俺とランディのマシンガン掃射で破壊され、全ての機が倒れる。
致命的な損傷を負ってなお一矢報いようと、倒れざまにゼニスが狙いを定め、こちらに一発撃ち込んでくるが、ツィーゲの破壊力は身に染みていた。咄嗟に後ろへ機体を下げて、弾道から逸れた。
『バカな……U.S.Nども、め………!!』
爆発と共に、最後のゼニスは沈黙する。黒煙を挙げるそのヴァンツァーを見下ろし、7人の同期達は立っていた。
砂漠に広がる数多の残骸。それら全ては、たった30分の交戦の末に生み出されたものであり、まるで勝利を掲げるように、そこに彼らはいた。
『なあ、ウォルター。U.S.Nに戻ってこい。お前のせいで俺がリーダーになっちまった。小隊長なんて俺はごめんだよ』
ダモンが言う。
「悪いな。でも良かったじゃないか。伍長から軍曹になったようなもんだ。お前ならやっていける」
『バカ言うなよ……。頼む、戻ってきてくれ。みんなでまた仲良くやろうぜ……』
そんな悲しげな声を出されても、俺の心は……
だが、何も知らないまま巻き込んでおいて。そんな扱いはきっとあんまりだろう。心の中に少しばかりの善意が蝕むのを感じて、俺は口を開いた。
「ちょうどいい機会だ。話しておいてやる」
俺は全機に向かって話し始める。
────俺は、未来を知っている。
突拍子も無い話だろうが、一旦真実だと仮定して聞け。
第2次ハフマン紛争終結時、犠牲者の累計数は3万2000人。歴史の授業を真面目に受けてるやつなら、これは国と国の紛争にしちゃ少ないとわかるだろう。
問題は、行方不明者の数だ。
12万9000人。約4倍。戦死者よりも行方不明者の方が圧倒的に多い。ふざけた数字だろう。
だが、俺はこの数字を知っている。
ランディ、エルシャ。お前らにも知っておいて欲しい。グレンも、恐らくはリェンファも、この行方不明者リストに含まれていた。
この行方不明者はどこに行ったか。答えは研究所送りだ。それも、U.S.N、O.C.U、ザーフトラ共和国の三大国家が手を組んだとある研究に使う実験体としてな。
ランディ。さっきフォートモーナスが侵攻を受けて、その時にパラダイスバーガーが吹き飛ぶ話をしたな。
あれは俺が知っている本当の話だ。しかもあの時にはお前と俺だけじゃない、グレンもいた。
そして、人体実験のせいで記憶を失ったグレンに、お前は殺された。そしてグレンは軍を脱走し、国際指名手配された。
エルシャ。お前はそもそも、俺の知る世界に存在してなかった。思うに歴史が変わったんだろう。お前がO.C.U領の中の、俺達の知らない所で暮らしていた可能性が高い。
俺は無理を通してグレンを助けたいんだ。この企みを阻止したい。その為なら、俺は故郷にだって弓引いてやる。その覚悟が、俺にはある。
「………話し過ぎたな。あまりにもバカげた話だと俺でも思うよ。全部忘れろ」
誰も返事をしない。国境線へ向けて歩き出す。
「ランディ。エルシャ。行くぞ。今のうちに国境線を抜けてO.C.U領に潜伏する」
『……まっ、待ってくれよウォルター! 聞きてえことが……』
『あっ、ま、待ってください!』
俺の後ろにヴァンツァーがつく。エルドスとレクソン、そして俺のフロスト。これから、この3人だけが信用出来る仲間だ。グレンを助けるまでは。
『待ってくれ、ウォルター』
「……?」
ダモンが呼び止めた。
『今司令部に報告するから。 こちら第84機動戦隊ブラウン-1。司令本部、応答を』
『《グレッグだ。ブラウン-1、ウォルター・フェンはどうなった。発見したか?》』
『いえ……ウォルターの機は発見できませんでした。しかし、ロクスタ砂漠に不審な機を発見し呼びかけたところ、攻撃されたため、これを撃退しました。O.C.Uのヴァンツァーであり、ウォルターではありませんでした』
『《そうか。事後処理のために部隊を割く。貴官らは戻ってこい》』
『イエス、サー』
そう言ってダモンは本部との通信を断つ。それは今、俺たちを諦めるという事になる。しかし、俺と同じようにダモン達もまた、覚悟を決めていたのだろう。
『ウォルター……。次に会う時は敵だな』
「だな。もちろん全力でかかってきてくれていいぞ」
『馬鹿野郎、お前とやり合ったら修繕費で財布が吹っ飛ぶ』
「ハハ……。 ……じゃあな、みんな」
馬鹿話を切り上げ、O.C.U領へと向かう。ランディが、俺のフロストの壊れた左腕を直してくれる。エルシャがバックパックからライフル弾を取り出してリロードする。
いつ死ぬかも分からない戦いに、再び身を投じるのだ。
『ウォルター!』
「……」
一歩前に踏み出てダモンが再び呼び止める。
『いつでも帰ってこい。U.S.Nは許してくれかもしれないが、俺達が頑張って匿うからよ』
「……それは、21期生のよしみでか? それとも、俺達をとっ捕まえて突き出すための口実か?」
俺の言葉に、ダモンは続ける。
『……友達だからさ』
俺は振り返ることなく進み続ける。一瞬立ち止まったランディも、すぐに歩き出す。
「……ありがとう」
その独り言は、きっと誰にも届くことなく消えていったと信じている。
12機のガストがそこにいた。彼らは19期出身のヴァンツァーチームだった。
『やれやれ、派手にやったなあ、ブラウンチームめ』
『まあ、たった4機で21機も倒したんだ。勲章ものだろ』
『しかしよく弾が持ったもんだ』
『ああ。話じゃほぼ全弾ボディに当ててるらしい』
『マジかよ……流石に、あのウォルターの同期───』
『おい、それ以上は言うな。
『あ、ああ……そうだったな』
『よし、片付けるぞ。終わったら報告だ』
『了解』
O.C.U第11戦車師団機動大隊 第7戦車中隊のみなさん
ウォーラス×8
シンティラ×3
強盾×4
ギザ×3
ゼニス×3
………合計21機
………被害総額、22,915H$(推定)
サイラス・ドミニク・ルイス
陸軍少尉 アサルト
ゼニスを貸与された、正規軍第7戦車中隊の副隊長。元駐留軍だったが攻撃の際に再編。U.S.Nによるフリーダム強襲を生き延びている。
有田 祐介(アリタ)
陸軍中尉 戦車中隊指揮官 ガンナー
正規軍第7戦車中隊の隊長。フリーダム方面支援軍の任務中、強襲するU.S.N軍WAPチームと交戦。生還後、中隊に再編されていた。