Front Mission 5 ~Curse of the past~   作:。(くてん)

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05-1 Ready to Battle

 

 

 

 グレイロック───そこはO.C.U陣営の抱える、ハフマン島でもっとも商業の盛んな都市。

 

 6月28日。夕方、日の暮れてきた午後7時頃。

 

 その郊外の岩場にヴァンツァーを隠した俺達は、各々バックパックに詰め込んだ私物の中からロングTシャツやジャケットなどの服を取り出して着込み、軍人だと悟られないように変装をしていた。

 

「ウォルター、これからどうするんだ?」

「ああ。さっきも言ったとおり、これから()()()()()()というテロ組織を探し出し、そいつらと話をする。場合によっては協力関係も視野に入れることになる」

 

 テロ組織であるハフマンの魂がいつ頃から活動していたかは定かではないが、少なくとも第2次ハフマン紛争時には存在を確認されており、サカタインダストリィの関係者にしつこく攻撃をしていた事実がある。

 

 つまり、ハフマンの魂の中心メンバーがサカタインダストリィ事件の根本となる実験を目撃するという()()()が起きるはず。

 昔、フレデリックというジャーナリストが出版した暴露本を読んだことがある。詳しい内容こそ覚えていないものの、それによってU.S.NとO.C.U、ザーフトラ共和国の三国が共同で行っていた実験計画が明るみになったことは記憶に残っている。

 

 となれば、その実際の目撃者となるハフマンの魂のメンバーに会うことが出来れば、グレン達捕虜の収容されている実験施設に近付けるかもしれない。

 

 ヒントはもう既にそこにしかない。

 

 ランディとエルシャに向き直り、グレイロック市を指差す。

 

「見ろ、もうすぐグレンロック市に着く。U.S.N側からO.C.U側に俺達の情報が渡っている可能性もあると、さっき話したな? 全員、人前でお互いを呼ぶ時は、名前じゃなくファミリーネームで呼べ」

「わかったぜ、ウォ……フェン」

「……まあ、よし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日午後9時。

 

 グレイロック市は、かなり規模の大きい商業都市だ。それ故に、穴はいくらでもある。検問をくぐり抜ける事も、訓練を積んでいたからこそ余裕だったと言える。

 

 少なくとも、O.C.U兵に一方的に射撃されることはなかった。CQCの技術吸収の為に、前の人生でリンと格闘訓練を重ねておいて正解だった。まさか二回目の生で行使することになるとは思ってもいなかったが。

 といっても、兵士と閉所で正面からやり合った訳では無い。コソッとすり抜けるために隠れながら進んだだけだ。

 

「着いてきてるな、オニール(ランディ)ハヅキ(エルシャ)

「バッチリだぜ、フェン」

「こっちもです」

 

 守衛をすり抜けたおかげで、すんなりと街に入り込めた。O.C.U側の街には来た事が無かったが、文化の違いが街並みにも現れている。様々な文化圏が入り交じるO.C.Uは、主にアジア系が多く住む。繁華街にはいわゆる和風建築のような建物も少なくないし、普通のビルも勿論それなりに立っていた。

 

 ただ、ハフマン島への入植が始まってから既に70年ほどが経っている事も考えると、いくつかの建物が老朽化しているように見えた。

 

 街道を歩いている俺達は、軍服から着替えたのもあって市民に上手く紛れているように感じた。道行く人々はみな、似たような格好をしている。

 

 非番の軍人だろうか、迷彩シャツを着た厳つい男達が揃ってレジャー施設に入っていくし、道路を挟んだ通りの反対で何人かの主婦が談笑をしている姿を見ると、まるで戦時下とは思えなかった。

 

「フェンさん……なんだか平和な感じですね」

「あ、それ俺も思った。戦争中なのにな」

「ああ。ここで戦闘が起きる事は無いと楽観視しているんだろう」

「戦時中なのにですか?」

 

 エルシャとランディの疑問は当然のものだった。

 

「ここはハフマン島全土を含んでも、一番栄えている街だ。ここを攻撃するということは、商売人が行き来する両国の主要都市の片方を攻撃する事に他ならない。商人には国境線なんて関係ないからな。そのうえO.C.U軍事基地は街から離れている。そう思うのにも不思議は無い」

 

 何人もの民間人とすれ違う度に、まだヴァンツァーパイロットでさえなかった歩兵の頃を思い出す。ランディに連れられて、非番の日にフォートモーナスのファストフードを食べ歩いたこともあった。

 

 あの頃と比べると、俺は何もかも変わってしまった。

 一時は生き抜くため。一時は死に場所を求めるため。戦いの技術を磨き、実力を着け、対する相手には全て打ち勝ってきた。思えば、俺にとっての転機はランディとグレンの……二人を喪った時だったのかもしれない。

 

 やがて、ひとつの建物が目に入る。

 

「BARだぜ、フェン。……あ! 隣にあるの、パラダイスバーガーじゃねえか! 行ってきていいか!?」

「使いすぎるなよ。ハヅキはどうする?」

「あー……私もラン……オニールさんについて行きますね」

 

 ランディとエルシャがジャンクフード店に入っていくのを見届け、俺もBARに入った。

 

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 BARタイガーアイの中で酒を飲む人々は、仕事で疲れて癒しを求めに来たか、あるいは酒を嗜むために来たか。とにかく、それなりの席が埋まっている。

 

 適当に空いた席に座り、ウイスキーを注文する。

 

「すまない。ウイスキーを一杯くれ」

「ジャパニーズでよろしいですかな?」

「あー、アイリッシュかスコッチは?」

「生憎戦時下でしてね。出すと色々まずいのですよ」

 

 それを聞いて、仕方なしにジャパニーズウイスキーを一杯頼んだ。すぐにグラスに酒が注がれ、そしてキャンディの入った小皿が置かれた。

 

「つまみは頼んでないぞ」

「まあまあ。あなた、見たところ若いじゃないですか。ウチじゃウイスキーはキャンディと一緒に味わうんです」

 

 そういうものかと思いながら、ウイスキーを煽る。喉を通したあと、包みを開けてキャンディを口に放り込んだ。甘味が口に広がり、ウイスキーの風味と合わさってか、もう一口飲んだ時、自身で思うよりも味わい深さを楽しめた。

 

「どうです?」

「……美味い。昔はこんな飲み方しなかったな」

「それはよかった。で、お客さん。わざわざ酒を飲む為にウチに来たわけじゃないでしょう?」

「どうしてそう思うんだ?」

 

 マスターは、にこりと笑う。

 

「あなたの英語、アジア訛りではないですからね。後から英語を学んだような話し方をしなかったから、もしかしたらU.S.Nの方から旅してきた人かと思いまして」

「……参ったよ。確かに俺はフリーダムの生まれだ」

 

 対テロ特殊部隊バーゲストのメンバーとなるにあたって、敵地に単独潜入するシチュエーションすら想定した訓練を受けたし、実際にそうする経験もあった。だが、同じハフマン島の中の街だと思いそれらしい喋り方をしなかったのだが、まさか訛りだけで推理をされるとは思っていなかった。まだまだ経験が浅いのかと感じる。

 

「ふふ。こう見えても、私は若い頃にU.S.Nへ留学していましてねぇ」

「なるほど、それで。人生経験が豊富だな」

「ええ、そうですとも。この紛争だって早く終わればいいと思うんですがね。私にとっては、O.C.UもU.S.Nも故郷みたいなものだ」

 

 マスターは渋い顔をする。そして自分の言ったことを思い出したのか、こちらに向き直る。

 

「ああ、そうだった。それでお客さん。ただ酒を飲みに来たのでは無いのですよね。この街には何を求めて?」

「情報だ。ハフマンの魂というグループに心当たりは?」

「ハフマンの……魂? うーむ、無いですなぁ。その方達はさぞや、生まれ故郷であるここが好きなのでしょうな」

 

 尋ねごとに関しては知らなかったようで、マスターは呑気な事を言った。だが、それもきっと間違いではないのだろう。彼らの設立の理由は、ハフマン島を舞台にした非人道的実験の追求にあったのだから。

 

「ああ、きっとそうだと思う。ありがとう、邪魔をした」

「またどうぞ」

 

 提示された金額分の金を置いてBARを出る。有益な情報はまだ得られそうにはない。聞き込みを続けよう。

 

 しかし、あまり離れては連絡手段がない俺達ははぐれてしまうかもしれない。ランディたちを迎えに行こうと思い立ち、隣の店……パラダイスバーガーに入る。ランディ達はどこの席に座っているかと店内を見渡してみると、()()()()()()()()()()()()()()()()

 人集りが出来ており、嫌な予感を覚えつつも近づく。

 

「見てろよ、次は5カウントだ!」

「5!? 5秒なんて正気かよ!」

 

 聞き覚えのある声と一緒に、頼りなさげな可哀想な声が聞こえてくる。

 

「ラ……オニールさぁん……そろそろやめましょうよぉ……フェンさんにあまり使いすぎるなって言われたばかりじゃないですかあ……」

「大丈夫だってハヅキ、フェンのやつはきっと暫くは出てこない。俺の頭脳がそう言ってる。よし、行くぞ!」

 

 そして場が静まり、五秒間の咀嚼音が聞こえてくる。喉が大きく鳴る音と、一瞬の静寂の後に、その場は歓声に包まれた。

 

「おお、またやったッ!!」

「五個連続で食ってる! 正気じゃねえ!!」

「美味いハンバーガーあるところ、俺もまたあり。俺こそ早食いのオニー───」

 

「俺抜きで楽しそうな事をやってるな、オニール」

 

 俺が名乗り口上を口走りかけたランディに後ろから話しかけると、ランディは首が曲がらないかのように固まり、そしてゆっくりと後ろを振り向く。俺の顔を見た途端、あからさまに顔から汗が吹き出ているのがわかった。

 

「────ゲッ…………フ、フェン……」

 

 そしていくつかの説教を加えたのち、店にいる人の前に立って頭を軽く下げた。

 

「みんなスマン。こいつが騒がせちまった」

「いやいや、面白いもん見せてもらったぜ、ニイちゃん」

 

 思ったよりも好評だったようで、ランディを誉めそやすような言葉がいくつも投げかけられていく。ランディも最初こそ申し訳なさそうな顔を俺に向けていたが、最終的に気分を良くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランディ、エルシャを連れて店を出たあと、しばらく歩いていた時にランディが改めて話しかけてくる。

 

「フェン……ごめんな。俺、グレンを探すはずなのに浮かれちまってた」

「……もう気にするな。思えば、ああしてる方がお前らしいよ」

 

 もう何十年も前の、子どもだった頃を思い出す。俺とグレン、ランディの三人で馬鹿騒ぎしては、大人に怒られて、それでも反省せずにイタズラをやったりもした。グレンと別れてホーム(孤児院)に住むようになった後も、イタズラを重ねたり、ストッパーになったり、色々やった……。

 

「懐かしいな、ランディ。こうしてるとガキだった頃を思い出す」

「ああ。グレンがいた頃だな……。 グレン、どうしてるかな」

「グレンのやつは今頃、俺達が来るのを待ってる。早いところ見つけてやらんとな」

「リェンファもですよ。というか、悪い人に捕まっている人全員を、です」

 

 グレイロックの街を歩く俺達は、未だに有益な手がかりは得られていなかった。それでも、どこかにグレンはいると信じるしかなかった。

 路地を歩き、他に情報が集まりそうな場所を探していると、後ろから走り寄ってくる足音が聞こえた。

 

「……ランディ、エルシャ、前に行け。 後ろに誰かいる。振り向くなよ」

「わ、わかった」

 

 二人に先へ行かせる。俺なら拘束された状態でも敵を制圧できるが、二人は格闘訓練など受けていない。危険な目に遭うのは俺だけだ。

 更に近づいてくる足音に注意する。

 

「おぉい! あんた、さっきのBARの人だろ!?」

 

 その言葉と共に振り返る。強面風の男だ。確かにこんな風体の男がBARの中で飲んでいたような気がする。

 

「……ああ、そうだが」

「なんか探し物、してんだろ? BARじゃねえけど、知ってそうなやつを知ってる」

「……そいつは何処に?」

「アリーナだよ」

 

 そう言われてアリーナに関して思い至る。

 

 世界中にヴァンツァーが普及すると、戦闘目的以上に作業用・競技用としてのヴァンツァーの運用にも世間が注目した。

 中でもヴァンツァー同士の戦いをカメラ越しに拝める《アリーナ》は、かなり人気の高かった競技だった。

 

「アリーナか。だが俺は自分のヴァンツァーを持ってないぞ」

「それは大丈夫だ、俺のヴァンツァーを貸してやる」

 

 男はそう言うと、自分の持つガレージに俺達を案内する。俺達は疑い深くも、その男について行く他無かった。

 

 

 

 路地裏をいくつか曲がった先。ヴァンツァー用の道路が何本も通っている路面に接したガレージ……そこには作業用ヴァンツァーに武装や装甲をいくつか取り付けたようなものがあった。防弾式の風防が特徴的なそれは、シュネッケ製のものだ。

 

「テンダス……シュネッケの警備用WAPだな」

「詳しいってこたぁ、やっぱり軍人さんか。あんた、顔は若いのに体はよく鍛えられてるように見えたからもしかしたらと思ったが、正解だったぜ」

「……それで、俺に何を? フリーで貸出なんて美味しい話は無いからな」

 

 言いたいことはなんとなく察しが着いていた。

 

「なぁあんた、パイロットだろ。俺ちょっと最近負け越しててよ、最近強え奴がいて、そのせいで例の情報通に借金こさえてんだ。取り戻したくてよ。あんたは情報が貰える、俺は金が手に入る。どうだ、WIN-WINの関係ってやつだろ」

「……どうするんだ、フェン?」

 

 まあ、アリーナについて言及した後にヴァンツァーを見せられた時点で、大方そんなところだろうとは思っていたが、直接的に来るなと関心を覚える。申し訳なさそうに頼むかと思っていたが、見た目通り図太いようだった。

 

「……気に入った。いつ始まる?」

「よっしゃそう来なくっちゃな! 今からエントリーすれば、一時間後には間に合うぜ。俺が手続き全部済ませてやる」

 

 逸る男を抑え、頼み事をする。

 

「少し待て。俺は訳あって大っぴらに名前を明かしたくない。偽名で登録してくれ。そうだな……《ビリー・レンゲス》。それで頼む」

 

「ビリー・レンゲスだな? 分かったよ」

 

 男が去っていき、俺達だけが残された。先程の会話を受けて、ランディが俺に質問をしてきた。大方偽名の主の事だろうと思ったし、それは正解だった。

 

「なあウォルター、誰だよその……ビリー? って」

「知らん。適当に思いついただけだ」

「ええ……? ウォルターさんってたまに適当な時ありますよね……」

「かもな。しばらく待つぞ、あとでがっぽり稼いでやるさ。ランディ、お前の食費を一年賄えるくらいな」

「本当か、ウォルター!? 楽しみにしていいんだな!?」

 

 明らかに冗談だとわかるだろうに、こいつは本当に飯の事になると……。つい頬が緩んだのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、アリーナ選手控え室の中。軍用シミュレータでのアリーナは経験があったが、実際に機体同士をぶつけての賭け事は初めてのことだった。

 

 俺を雇った男が、話しかけてきた。

 

「改めて、ビリー。頼むぜ」

「任せておけ、報酬の配当は俺が3、お前が7で構わんな」

「7か……いや、確実に勝ってくれるんならなんでもいいぜ! とにかく頼むぞ!」

 

 男から頼まれ、俺は頷く。観戦席にはもう既にランディとエルシャの二人がポップコーンを両手に持って座っている。気が早いなと苦笑いしながら、ヴァンツァーの性能に思いを馳せた。

 

 

 

 シュネッケ製WAP、テンダス。

 

 同じくシュネッケ社製ヴァンツァーのシケイダシリーズなどを手がけた社の手になる機体だ。

 シュネッケはヴァンツァーの製造企業であり、歴史上ではヴァンツァーの前身となるヴァンダーワーゲン、通称WAWを、初めて試作運用する事に成功した企業でもある。

 

 言わば数十年以上も前から続く由緒正しき企業で、全てのヴァンツァーの生みの親、祖である。

 

 ……と言えば聞こえは良いが、型落ち品の中の型落ち、旧型もいいところ。それが今のテンダスの立ち位置だ。全体をある程度の装甲で覆うのが当然の軍用ヴァンツァーとは違い、これはあくまでも戦闘用としても転用可能な民間用に過ぎない。

 

 だが、ヴァンツァーはヴァンツァー。全てのWAPの先駆けとなった機種というだけあって、戦うための機能は備えられている。爪のようなマニピュレータを使い、格闘攻撃を行う事も可能だ。

 

 注目するべきは、あの雇い主の男が使っていたテンダスの武装だ。ショットガン・キャッツレイと左腕部の内部打撃機構(ハードブロウ)というシンプルな攻撃能力だけを備えたもの。

 使い方によってはこれでも軍用機を相手に立ち回ることも充分に可能だが……流石に風防を撃たれれば脆い。

 基本的にボディを庇いつつの戦闘となるだろう。

 

 

「ビリー、出番だぜ」

「ん? ……ああ、わかった」

 

 偽名を呼ばれて立ち上がる。そのまま控え室から格納庫へ向かい、ヴァンツァー・テンダスに乗り込むと、アリーナ会場へと歩を進めた。

 

 

 

 到着した俺を迎えたのは歓声だった。実際に他者の目に留まるアリーナに参戦するのは初めてだったこともあり、その雰囲気に思わず気圧されそうになる。

 

 風防から覗く対戦相手は、ヴェイパー。U.S.N軍に採用されるガストの派生機だ。特長的なのはガストにも受け継がれた腕部内蔵型マシンガンで、腕全体に機構を組み込めるため、通常のマシンガンよりもかなり性能の高いものとなる。

 

『さあ、本日14回目のグレイロック・アリーナのお時間です!』

 

 司会の声が聞こえる。

 

『レッドコーナー、勝率95パーセント越えの超新星!! オッズ1.09、クレイマン!!』

 

 クレイマン……その名には聞き覚えがあった。確か……。

 

『《ウォル……フェン、聞こえるか?》』

「ランディ? お前、どこから……」

『《その機体、例のおっさんが無線機取り付けてんだってよ。なあフェン。聞き間違いじゃなきゃ、クレイマンって言ってたよな》』

「ああ、聞き間違いじゃないさ。グレンの部下のひとりだ」

 

 そうだ。グレンの部下、クレイマン・アールノルト。彼と同じ名のパイロットが相手だ。

 聞きたいことは尽きない。どうしてここにいるのか。同じ捕虜はどうしたのか。グレンはどうしたか。

 

 だが、公の場でそれを聞くわけにはいかない。あとで、控え室かどこかで聞くタイミングはいくらでもあるだろう。

 テンダスの重心を低く落とし、交戦に備える。

 

『対するブルーコーナーは、実力未知数! オッズ3.12、ビリー・レンゲス!!』

 

 向こうもやる気は充分のようだ。クレイマンから話を聞くしかないだろう。それは全て終わったあとだ。

 

『READY……GO!!』

 

 司会の掛け声で、俺とクレイマンはほぼ同時に動き出す。クレイマンのヴェイパーが、まだ離れた状態でマシンガンを撃ってくる。それを狭いアリーナの中で回避しながら接近し、キャッツレイを構える。

 

 引かれた引き金とともに飛び出す無数の散弾は拡散しつつ直進、ヴェイパーを捉えて()()

 

「……!?」

「《ウォ……フェン!! なんだよ、今のあいつの動き!》」

 

 その一瞬で、ランディに返事をする余裕が無いことを悟る。キャッツレイが命中するはずだったヴェイパーは無傷。それは機動力ではなく、反射神経から来る凄まじい反応速度によるものだ。

 卓越したWAP操縦技術、能力の高いパイロットの証であるはずのそれは、不可思議なぎこちなさをさえ覚えた。

 

 ……似ている。リンやヘクター、グレンに。

 

 今名を挙げた三人には共通点がある。全員がS型デバイスの転換手術を受けているという点だ。

 もしそうだとすれば、あのクレイマンという男もバイオニューラルデバイスの被検体となっているという事に他ならなかった。となれば、強さと引替えに喪われる"記憶"。その影響が何処まで及んでいるかを見極めなければならない。

 

 キャッツレイを更に連射し、今度は一撃を与えることに成功する。ヴェイパーからの反撃がテンダスの左アームを削るが、それだけでは壊されない。そのまま接近し、テンダスの打撃機構で殴打する。軽装甲高機動型の趣が強いヴェイパーでは、三本の爪から繰り出される強力な一撃を受ければ、それこそタダでは済まない。

 

 案の定と言うべきか、ボディを大きく穿たれたヴェイパーは安定性を大きく欠き、後ろ向きに倒れた。マシンガンを足にするように支点にしてすぐに起き上がるものの、ボディの損傷は激しい。

 

 俺に対して更に反撃するため、ヴェイパーはローラーダッシュして距離を取り、マシンガンを撃ち込んでくる。

 両手から同時に射撃されれば弾幕も濃くなる。反撃がままならずいくつか被弾するが、テンダスのボディには未だ被弾に至っていない。

 

 さすがにケリを着けねば、ジリ貧で負けなどしていては情報も金も得られない。

 

 左腕を盾にボディとライトアームへの被弾を防ぎつつ突進する。射程距離限界ではショットガンはその威力を発揮できない。命中率を上げる目的でも、威力を高める目的でも、接近する必要があった。

 

 応戦のためばら撒かれるマシンガンに左をやられるが、右アームのショットガンとボディはまだ無事だ。

 脚さえ破壊すればこちらの機動力を大きく削げたはずだが、狙いを定めて脚を壊すよりもいち早く腕かボディを狙って無力化する作戦だったのだろう。

 

 ヴェイパーの眼前まで接近する。マシンガンはもう当たらない。キャッツレイをボディに向けて撃つ。コクピットブロック(コクピット保護層)には、いくつかの弾痕が着いた程度のダメージだが、ヴァンツァーにとっては致命打だった。

 

 ……仕留めた。

 

『し……勝者ッ、ビリー・レンゲス!!』

 

 キャッツレイを持たない壊れた左腕を頭上に掲げて勝利をアピールする。これであの男との約束は果たした。

 早速クレイマンに話を聞きに行こう。

 

 ヴァンツァーを格納庫に仕舞いに走った。

 

 

 

 

「クレイマン! あんた、グレンの部下だった奴だな?」

「あ……? 誰だ、お前は……」

 

 急いでクレイマンのいるだろう格納庫まで走ったのだが、そこで会えた彼は、どうにも受け答えが怪しい。顔合わせを一度しているはずだが、やはり転換手術の影響だろうか。

 

「俺だ。グレンの友人のウォルターだ。 グレンはどうした? 一緒じゃないのか!?」

「グレ……ぐ、うッ……? デ、デュバル……」

 

 クレイマンはそう言い、頭を抑えて(うずくま)る。グレンのことを覚えているということはまだ希望も残っている。

 

「いいか、落ち着いて思い出すんだ。まずは深呼吸をしろ、いいな?」

「…誰だか、知らんが………わかった…………」

 

 彼の背を支えてやり、ゆっくりと息を吐き出させる。何度かやると、少し落ち着いてきた様子だったが、受け答えの方はやはりと言うべきか、かなり不安定なようだ。

 

「で……あんたは、誰だ……」

「ウォルター・フェン。お前の言うデュバルの友人だ。お前はグレンと一緒に研究施設に運ばれたはずだ。その後お前だけが出てきた。そうだな?」

 

「……わからん………やめろ、誰だお前は……俺に話しかけないでくれ……」

 

「クレイマン、しっかりしろ!! お前はグレンから何か聞かされていないのか!? グレンは無策でいいようにされるやつじゃない、お前に何かを託しているはずなんだ!!」

 

 追求するが、クレイマンは頭を抱えて倒れそうになってしまう。それを両手で抱えるように支える。クレイマンはしばらく息が荒かったが……。

 

「…………!!!」

 

 明確な意志を以て俺を引き剥がす。頭を掻き毟るクレイマンだったが、やがて落ち着いてくると、こちらの両目を見てハッキリとした発声て話し始めた。

 

「……ウォルター!! そうだ……思い出した……仲間はルーピディスに……」

「ルーピディス……ルーピディスと言ったのか?」

「そうだ……俺はルーピディスで民間用ヴァンツァーを奪って逃げた。デュバルは見つけられなかった……追っ手が来ていたからヴァンツァーを捨てて、昔の伝手を頼ってグレイロックに……」

 

「そう、か……」

 

 恐らく、既に転換手術を受けさせられた後だろう。

 

「クレイマン、後ろを向け」

「ああ、わかった」

 

 頭を後ろに向かせ、耳の付け根を見る。リンやヘクターの装着していたものと違い、洗練されたデザインとは程遠い物々しい通信機器だったが、いくつかの細かい部品が組み込まれ、アンテナが立っている。

 さしずめ、S型プロトタイプといったところだろう。

 

「……適合、している訳では無さそうだが……廃人化する程でも無いというわけか?」

「適合ってなんだ……?」

「ああ……知らないか。 良いかよく聞け……。 S型デバイスは、適合する人間を選ぶ。これは俺が個人的に掴んだ情報だが、このS型に適合できない人間は人としての意識が死ぬ。お前は運が良かったんだ」

 

 喉の鳴る音が聞こえた。

 

 やはりS型デバイスの被験者になったことは間違いないようだが、ならばどうやって脱出できたのか。昔の伝手とは言うが、U.S.Nがそう易々と逃がすだろうか。

 末端の兵士に何かしらの理由をつけて追撃させる事も容易いはず。それがなぜ……。

 

「……考えていても、仕方がない。クレイマン、お前はどうする?」

「どうする、って……何をどうするんだ?」

「決まってる。グレンを助けに行く。お前は来るのか?」

「俺は………」

 

「言っておくが、S型デバイスに適性があったとしても、長期間の脳の酷使……つまり長いことヴァンツァーを動かしてると廃人ルートだ。それでもいいならだが」

 

 俺はクレイマンに聞く。

 U.S.Nと、下手をすればU.S.N・O.C.U両国とやり合うかもしれない道だ。戦力はあればあるだけ助かるというもの。

 S型のデメリットも加味した上で彼が来るなら、俺には断る理由は無かった。

 

「……わかった、行こう。 デュバルとは隊長と部下の関係以前に、紛争が始まる前からの仲だしな。あいつがよくわからん気味の悪い実験のエサになるのは我慢できん」

「わかった。お前が来てくれて頼もしいよ」

「ああ……これからよろしくな、ウォルター」

 

 手を握り、握手をする。

 共通の敵を得た部隊が、これによって完成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パラダイスバーガーのセットで買えるアイスクリームを食べる男がいる。どこからどう見てもランディだ。

 その隣にフライドポテトをチビチビとつまみ食いする女がいる。間違いなくエルシャだ。

 

「二人とも」

「ぎゃっ!!? ……ウ、ウォルターさ……あっ! フ、フェンさん! 後ろから声かけないでくださいよ、びっくりした……」

「エ……ハヅキ、俺は気付いてたぜ。まだまだだな」

「バカ言うな、お前にはさっきの無線機を通じて話しておいたろ。驚かせたくてエルシャに言わなかったな?」

 

 ランディはイタズラがバレた時のように笑う。エルシャもからかわれたとわかって、頬を膨らませつつも、怒ってはいなかった。

 

「……って、そういえば名前。その方はいいんですか?」

 

 エルシャが、連れてきたクレイマンを見ながら言う。

 

「ああ。こいつはクレイマン。グレン達の救出の為に共闘する事になった」

「この坊や達がウォルターの部下か? クレイマンだ。初めましてになるか?」

「いや、会ってるはずだぜ、なあウォルター?」

「……そうだな。まあ、それはいい。 これからルーピディスに乗り込むぞ」

「ルーピディス……って、フォートモーナスより奥じゃねえか!! しかも軍事施設も多いって聞くし……そんなところにグレンがいんのか!?」

「じゃなきゃ死ぬだけだ。クレイマンの情報だけが頼りだからな」

 

 エルシャが怪訝な視線をクレイマンに向ける。

 

「その人は信用できますか? リェンファを助けるには確実な能力を持っている人が要ります」

「そこは折り紙付きだ。こいつもS型、並のヴァンツァーには負けない。お前らが二人がかりでやっても倒せないだろうな」

 

「そんなに……」

 

 クレイマンが胸を張る。

 

「頼ってくれていいぜ。こう見えても昔はデカい紛争に……はて、なんだったかな」

「……第1次ハフマン紛争か」

「それだ! ……よな? とにかく、腕の方は信用してくれていいぜ。お前らが思う以上の働きをしてやるともさ」

 

 互いに挨拶も済んだところで、いよいよルーピディスに旅立つ事になった。だが、俺達のヴァンツァーは外にあり、クレイマンのヴァンツァーは中にある。どうするか……。

 

 そこでひとつ、案を思いつく。その為には、エルシャとランディには外に出ていてもらわなければならない。

 

「まず、作戦の概略を説明する─────」

 

 

 

 

 

 








 クレイマン・アールノルト
 Crayman Arnold.

 元O.C.U軍人。U.S.Nからの捕虜脱走者であり、潜伏の為に古い知り合いを頼み、グレイロックのアリーナに逃亡していた。
 S型デバイス転換済みだが、まだ脳の酷使による精神破壊が進んでいなかった為、中程度の記憶損失が認められる。


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