旅をしたいのに周りが許してくれない! 作:どこにでもいる名無し
番外[キアナの場合]
世の中には摩訶不思議がありふれている。普段考えもしないような現象が起きることもある。まさに神出鬼没と言えるそれは誰にも防ぐことはできず、潔く受容する他ない。
そして、そんな被害者が哀れにもそこにいた。
「…あぁ」
気付けばそこにいた。いつからとか、事の経緯が全く説明できない。
目を閉じて目を開ける、気付けばそんな瞬きの間に起こった出来事に呆然としてしまった。
「ここはどこだ…?」
雪原、何の予兆もなく現れた銀世界に目を丸くしていた彼は思考を別のものへと返還させる。
「…とりあえず、散歩でもするか」
虎穴に入らずんば虎子を得ず、とも言うように何もわからなければしょうがない、ここは行動を起こして何か情報を得なければ。
彼はその考えに則りゆっくりと雪で塗れた大地を踏み荒らす。ほんのりと薄暗い情景の中には、一面の銀世界が映る。先を眺めてもそこには雪しかない。だがどういうわけか、彼は不思議と既視感を感じていた。
「月か」
何億年も生きた上で確信する。ここは過去に来たことがある。その時はこんなに風情がある場所ではなかったのだが、昔も昔、大昔なので変わることもあるかと納得した。
もしかすると知人がこの世界で過ごしているかもしれない。そんな予感を期待しながら歩き続ける。
「久しぶりだなぁ、みんな元気にしてるかな?」
思い浮かべるのは学園にいた頃の友人たち、今更帰ったところで自分のいるべき場所はないと理解しているので彼女たちの元に帰るつもりはないが、それでも想ってしまう。会いたいと考えてしまう。
「らしくないな、うん。らしくない」
他者に依存してしまった自分に思わず嘲笑して頭を掻く。過去の産物は過去に残され、あるのはぽっかりと空いたような空っぽの肉の器と泣け無しの虚数エネルギー、そんな生き物が地球で必要とされる場所があるのだろうか。
無いだろうなぁ…。
「…う、そ」
「…ん?」
不意に、後ろから声が聞こえた。
何か信じられないものを見たかのような声色を聞き取り、彼も自然と振り返る。そこには、一人の少女が唖然と己を見つめていた。
空のように青々とした瞳に純白の髪、彼の目にはかつて学園で共に青春を謳歌していた親愛なる悪友の姿が見えた。
不思議なこともあったものだ。まさか死ぬはずだった自分が、こうして親友の前にいられるとは。
「キアナか、久しぶり」
あっけらかんと放たれた言葉は、感動の再会というにはあまりにも淡白だった。
彼にはどうも夢現な状態で、出来事全てが夢の中と感じて仕方がないようだ。勿論、現実なのだが。
「…君、なの?なんで…?だってあの時」
「それって崩壊を取り込んだ時?それなら確かに死んだ、でもこうして生きている。世界は広いんだ、死んだ人が生き返っても不思議じゃないだろ?」
過去、心の臓を貫かれた時、彼は視界の暗転と共にこの世から消えた。それは確かだし、彼女だって見ていた。何なら彼女の手にはその手で刺し貫いた感覚が今も残っている。
どういう訳か、もしかしてまた元の世界に戻ってきたというのか。
…いや、戻ってきたのだろう。なんせ、目の前にこうしてキアナがいる訳なのだから。
「オレ…いや、俺は目の前にいるよ。なんだったら抱きしめ合って確かめるか?………なーんて、ただの冗だんぐぇ」
言い終わる前に強い衝撃が加わる。首に腕を回され右頬にきめ細やかな白雪を思わせる髪が密着した状態から察するに、彼女が踏み込んでぶつかるように抱きしめてきたのを理解した。
「本物…本物だ…幻じゃない」
「…あぁ、うん。流石に申し訳ないや」
しょうがなかったとは言え一方的で理不尽な別れ、関係も深かった為に植え付ける傷はそれなりと理解している彼はされるがままである。
事故だったとは言えキアナは大切な人を殺したのだ。そこに生じる悲しみの業はさぞや深く感じただろう。彼をキツく締めるのが何よりの証拠だ。
「って、そんなことしてる場合じゃない!今までどこに行ってたの!?」
ハッと気づいた様子で、今度は肩を揺さぶられる。彼は「わー」なんて情けない声を出しながらされるがままで何もしない。
ただ彼女に言われる質問に答えることにした。
「訳アリでな。星を転々と旅してたらヴェルトに会ったんだ。で、気付いたらここにいて…俺もさっぱりわからん」
「そうなんだ…」
安堵、歓喜、そして困惑。複雑に形作られた感情の渦によって顔を歪めるキアナに、彼は肩に置かれている手を優しく包み、思考に耽る彼女に語りかけた。
「それよりもさ、ここって月だろ?」
「…?そうだけど」
「だよな。ならせっかくだし一緒に歩こうぜ?世間話とかしながらさ」
近況報告も兼ねて、キアナと共に歩くことにした。
ーーーーーーーーー
「えーと…つまり、キアナは月を拠点に、ボロボロになった地球を修復してるってことでいいのか?」
歩くこと数分、彼はその辺の木を倒して椅子代わりに、少し身じろぎすれば肩がぶつかるくらいの距離で二人は隣り合っていた。
空に浮かぶ地球を眺めながら、二人はこれまでの経緯を共有していた。
「正確には手伝ってるが正しいかな。今の私が地球に残っちゃうと壊れちゃうから」
現在、キアナは終焉の律者としての権能が残っている。崩壊の力を色濃く宿した彼女が壊れかけの地球に居座ろうものならこれまでの努力が泡沫と消える。故にキアナは今も一人で地球とその星に生きる人々の安否を願っているのだ。
崩壊自体は彼の活躍もあって無くなっている為、キアナが地球に帰って来れるのも遅くはないだろう。
「なんか…神様みたいだな!」
「だ れ の せ い だと思ってるのかな〜?」
能天気にそんなことを口にしたせいか、キアナの額には青筋が立ち、笑みを浮かべながら文句を垂れる。目は笑っていない。
頰を強く引っ張られながらも、弁明を図る。
「えっいやいやいや。俺のせいになってるけど、ケビンだってめちゃくちゃだったんだぜ?あー確かに…やり方がアレだったし横入りもいい所なのは認めるけど、俺の稚拙な頭じゃアレしか方法が浮かばなかったんだよ」
「先生の時もそうだったけど、大切な人を失うのは酷く落ち込むんだよ…?」
「うぐっ……ここは生きてるから結果オーライってことにしてくれないか?」
出会った当初のなら絶対にしないであろう悲嘆の顔を浮かべるキアナを見て、罪悪感がグサリグサリと刺さっていく。
年の功という言葉があり、彼はそんな言葉に漏れない長命者の筈なのだが、キアナと接すると感情が揺さぶられてしまいどうも頭が上がらない。
早々に話題を変えたい彼は彼女の変わり様に目をつけた。
「にしても、ほんと凛々しくなったよ」
久しく見なかった彼女の姿は昔の面影を残しながらも磨きがかかっていた。その事実に彼は率直な感想を述べた。
爛漫さを残しつつ、落ち着きの払った様子は過去の彼女を知る彼にとっては目を見張るものがあった。
勿論、活躍は耳にしていたし影ながら見守ってはいた、終焉の律者とその存在を昇華させた時は親友として鼻が高く感じたものだ。
ここまで彼女を成長させたのは崩壊によって引き起こされる数々の試練と出会いと別れによる現実の辛酸だろう。
強く立ち上がり仲間と共にここまで来た。
その事実は、人間の唯一無二性を証明する何よりの証拠ではないか。
「キアナが崩壊の問題に当たってた時、俺…何もできなかったからさ。ちょっと顔合わせたくなかったんだ」
それは、彼がキアナにしか見せない弱さの一端だった。生物として長く生きすぎた彼は少年のような無垢さを持つがその実、あらゆる物事に対してあまりにも達観した感性を持っている。
人間というにはあまりにも超常的で、上位存在というにはあまりにも人間臭い。それが彼で、そんな彼にしてくれたのが紛れもなく地球の人間たち、そしてキアナなのだ。
「崩壊のせいでキアナの取り巻く環境も変わっててさ、そのせいで拒絶でもされたらショックだし、かける言葉も思いつかなかった」
「でも君は来てくれた」
「遅すぎたけどな、今まで大変だったろ」
「うん…。でも芽衣先輩やブローニャ、それにみんながいてくれたから」
「そっか、思えばアイツらにも迷惑かけちまったな」
「二人とも怒ってたよ?急にいなくなるし、探しても見つからないから」
「そりゃあ、こっちにもそれなりの訳があったからなぁ。いつか謝りに行けたらいいんだけど」
「…なんで?こうして帰って来たんだから私と一緒に会いに行けばいいじゃん」
彼の発言の中に理解し難い何かがあったのか、無意識に声のトーンを下げていた。キアナの都合上、まだ地球に降りる事はできない為、一緒に帰るとするならば今すぐは無理なのだが、キアナも彼を一人で行動させるつもりは更々ない、言葉の裏にはちょっとした独占欲が見え隠れしていた。
「いやいや、気付いたらここにいたんだよ。超常現象みたいな?感じで、アイツらだっていきなり消えたもんだから心配もするだろうし、こういうのって一通り満足したら元の場所に帰るのがお約束だろ?」
まだあの宇宙では成すべき事がある。暗に伝えるとキアナは彼の腕を強く握りしめた。
飢えた獣が、ようやく獲物を捕まえた事で愛おしく思いながらも支配欲と独占欲に駆られているような雰囲気を漂わせながら。
「ダメだよ」
ズグンッ!
左腕に異物が入り込む感触を感じた。見ればキアナが何処からともなく得物を生成し、根深く突き刺していたのだ。
この程度の痛みでは反応すら見せない彼だが、流石に仕掛け人が予想外だったために困惑の表情を見せていた。
ただ刺された。だけなら良かったのだがそれだけでは済まされなかった。
見れば刺された箇所から紋様が浮かび上がっていた。それは崩壊現象で崩壊エネルギーに侵食された際に浮かび上がる線と類似しており、徐々に彼の腕を軸に広がっていく。
「えっ何これ」
嫌な予感を察知したがもう遅い。紋様はすでに身体全体に行き届いており、侵食の終わりを知らせるかのように消えていく。代わりに刺された箇所から腕に巻き付くような刻印が出来ていた。
苦笑いでどう声をかけたものかと難儀する彼を他所に、キアナはとても満足気だった。
「今の私にかかれば、これくらいも造作の無いことだよ」
「言ってる場合か!?ちょっと待てこれって宿主の元から離れられないようにする印だろ、消してくれよ」
「しーらない。また私からいなくなろうとする君が悪いんだよ?」
「だとしても不便すぎるだろ。お前が雷電とかみんなと花咲かせてるのを傍目に一人寂しく眺めてなきゃいけないんだぞ。百合の間に挟まるのは宇宙規模の御法度なんだぞ」
「ちょっと何を言ってるのかわかんない…」
キアナの強情さは悪友として付き合っていた頃から痛いほど知っている。こうなった彼女はどう説得しようと聞く耳を持たないだろう。
割と一大事なのに、大した焦りを見せない辺り、まだ余裕はありそうだが。
「…はぁ、お前のハチャメチャ振りは健在か」
「当然!それが私だからね」
「ふふっそうだな」
凛々しくなっても変わらない部分はあるという事実確認に少し嬉しさを覚えた彼は身の問題を後回しにして、キアナの膝に自身の頭を預けた。キアナもされるがまま、いやかなり嬉しそうにしながらも彼の頭を撫でている。
「珍しいね、こうして甘えるなんて」
「働きすぎた。たまの褒美を要求する」
「欲しいならいくらでも」
そんな一連の流れを通して、二人は笑い合う。
時計の針も見れない雪原の世界で、ゆっくりと、しかし一瞬かと見紛う時間を謳歌する。それは青春を駆け抜けた二人が長らく得ることのなかった逢瀬の時間であった。
「これからどうしよっか」
「まずは家を造ろう。流石に野宿じゃ困る面も多いだろうし」
「造れるの?言っとくけど私にそんな技術ないからね」
「そこは心配ない、旅で培ってきた建築技術が牙を剥くぜ!」
「牙は剥かないでいいよ」
「へへっ」
沈黙が訪れた。
「…なぁ」
「なぁに?」
「少し…眠いや」
「…いいよ、このまま休んで」
「ありがとう…。おやすみ…」
「うん、おやすみなさい」
地球にはみんなが待っている。遠くない未来にキアナは帰るだろう。
二人でいられる時間は永遠ではない。だが、二人が離れる時間は永劫にない。
キアナは深い眠りに入ったのを見て、優しく微笑む。包み込むような母性を携えて、無防備に寝息を立てる彼を撫でる。
暗黒の宇宙で妖しく光り続ける星の如く、そして火口から流れ出た溶岩のように熱く、熱されたバターのように蕩けた瞳で彼女はこう言うのだ。
「もう離さないからね、ステム」
ステム
彼の本名はステムです。
崩壊3rd本編、ステムは崩壊エネルギーそのものを自身に閉じ込めて、跡形もなく炭すら残らないレベルで自害をすることで崩壊を消す選択を取りました。
しかしそこは幾人もの律者を生み出した最強エネルギー。なんの耐性も持ち合わせていないステムは身体の中に押し込めただけで風前の灯も同然の致命傷を負います。
しかしそんな事は理解していた彼は、崩壊を封印する為にやってきたキアナ達に殺してもらうよう促します。
結果は成功。
ステムは死んで、崩壊エネルギーは消費されるだけの残り滓となりました。
では何故ステムは生きてるのか、彼は大昔に別宇宙で自分にそっくりの人形を作っていました。
介錯を頼む間、彼は並行作業で魂を分離させ、万が一死んだ時に魂だけは残すよう細工を施そうとしていました。
それが成功するのは虚空万象がヴェルトに提案した律者エネルギーを万倍にも膨らませる例の提案でヴェルトが生き残る確率と同じくらいでステム自身もダメ元程度にしか考えていませんでした。
これも成功に収めて、ステムは崩壊スターレイル時空で以前と同じように人の願いを叶えながら旅をしていましたとさ。めでたしめでたし。
キアナ
姫子が死んで、大きな穴を開けられたところに芽衣先輩達に励まされ、強く生きる決意をした所に、学園当初から悪友やってたやつにまたどデカい穴を開けられた美少女。
でも生きてる姿を見て、もうなんか色々と情緒がめちゃくちゃになった結果、物理的に離れられなくする印を付けてしまった。
こう見えて結婚どころか付き合ってすらいないんですよコイツら。
スターレイル組
ウェクトル(ステム)がいきなりいなくなってパニックになるけど、ヴェルトはなんやかんや情報が届いて(あっ…南無)と遠い目をする。
月にいることをみんなが知ったら開拓そっちのけで向かうかもしれない。そうなったら戦争。
やめて!私の為に争わないで!(マジでやめてください)
ちなみにですが、ステムは四次元の壁を認知しています。
掲示板的な何か
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