旅をしたいのに周りが許してくれない! 作:どこにでもいる名無し
11月から音沙汰ナシだったにも関わらず、登録者が増えていたので投稿します。
いやほんと、すみませんでした。
スターピースカンパニーをご存知だろうか?
宇宙規模の貿易を推進し、銀河規模にその名を轟かせる巨大な財団である。
多くの星間公民曰く、ありふれた商品や目につくロゴ全てはスターピースカンパニーのものであり、まさに「貿易ある所にスターピースカンパニーあり」である。
事実、銀河におけるビジネスの全てはカンパニーの「信用ポイント」として扱われている。星間貿易を競技スポーツに例えるならカンパニーは他を圧倒するトップアスリートであり、様々なスポーツ、競技場やルールそのものである。
通貨を発行し、資源を独占したりする商業独裁組織的一面を見せるカンパニーは大衆からも陰謀を孕んだ独裁者という印象を与えている。
しかし、スターピースカンパニーは低俗なビジョンにこだわるようなことは決してない。何故か?それは創業から今に至るまで一貫して変わらない一つの理念があるからだ。
「お言葉ですが、この宇宙にクリフォト以上に進歩的な神はいるのだろうか?かの神は私たちのビジネス上の決定にすべて同意し、疑問を抱くこともなく、質問することもない――これはとても名誉なことで、この上ない信頼である!」——オスワルド・シュナイダー スターピースカンパニー・市場開拓部主務、P47級
カンパニーは「存護」の星神にすべてを捧げ、一切の見返りを求めない支援者である。
…
……
………
「えーと…依頼どおりにこなすならこれが最後の一人…か?」
ウェクトルは現在ヤリーロⅥの極寒地帯で、とある人物を探していた。資料である紙の束を吟味し、仕事のやり残しがないかを振り返って、今見ている紙に写っている人物がこの仕事の最終項目であるかを確認していた。
「サンポ・コースキー…」
ちょうどこの星の星核を取り除く作業を、連れと行っていた際に出会した人物。
常に下手に周り、立つ鳥は跡を濁さないと言うように捉え所のない男である。
道化、演者、或いは愚者か。方向性は違うが星の願いに合わせてその姿を変えるウェクトルにとって他人とは言えない人物だ。
「ふむ…」
景色は変哲も無い銀世界、隠れるにはあまりにも適していないこの場所で、ウェクトルは辺りを見回す。隅で盛り上がった雪、あれは違う。ならば朽ちて役目を終えた小屋、あれも違う。直感を頼りに、隠れ蓑にしそうなポイントを一つ一つ潰していく。
そこで最終的に目についたのは、ポツンと佇むゴミ箱だった。
彼は一瞥すると真っ先に近づき、その蓋を勢いよく開けた。
「………あまり長く籠ってるとゴミ臭くなるぞ」
「……あはは…」
そこには、サンポ・コースキーその人がいた。
「ふん!」
「いったぁい!!??」
ゴミ箱を勢いよく蹴り、サンポをゴミ箱から叩き出す。
ゴミ箱と共に吹き飛んでいくサンポはそのまま情けない格好で痙攣を起こして雪面に顔を埋めてしまった。
「…ちょっとぉ!?いきなり何するんですか!?いくら温厚な僕でも怒りますよ!」
しかし、そんな情けない姿も一瞬の出来事で、すぐさま蹴った張本人に抗議をする。対して興味なさげにサンポを見やるウェクトルは紙に表記されてる事項を確認すると頷いて話しかける。
「久しぶりだな、コースキ。今日は返済日ってことで返してもらいに来たぞ」
「…?あー…あはは、お久しぶりですウェクトルさん。僕、あなたに何かお借りした記憶はないのですがぁ…?」
「スターピースカンパニーの借金取り立て代行として雇われた。随分と溜め込んでるじゃないか、こりゃあ後に困るぞー?」
「えーと…星穹列車の乗員であるあなたが何故このようなことを?それに僕、たった今待ち合わせがなくなりまして…」
「まぁちょっとした小遣い稼ぎだな。金に縁がない人間はこうして他企業から派遣として雇ってもらわないと欲しい物も貰えない。
それと、雇い主からは何が何でも奴から取り立てろとのご命令だ。なんなら身に纏ってる衣服を剥がして質に入れても良いとの事だ。お前どんだけ滞納したんだ?トパーズがあんなに言うなんてよっぽどだぞ」
「トパーズさん?あぁ彼女ですか。確かにあの人からは貸しがたくさんあります。えぇ、ですがウェクトルさんはこんな極寒地帯で丸裸にしてやろうなんて鬼畜なことは致しません。…そうですよね?」
「さてなぁ、オレも仕事でこうして来てる訳だから返してもらわないと困る。ああ!そういえばベロブルグではベクターが協力して開いた博物館があったな。たまのボランティアも悪くないんじゃないか?」
「ちょっ!やめてくださいよぉ!ほんとに持ち合わせがないんです!手持ちなんてほら!もう無いんですよ!?」
「持ってるじゃないか。だけど足りないな。これじゃオレが怒られる」
自らの手持ちを見せて降伏の意を示すサンポにどこまでもドライな対応を示すウェクトル。
このままじゃまずいと思ったのか、サンポはここで一つの案を出した。
「あの、ここで僕から提案があるのですが、検討してみてもらえませんか?近々新たなビジネスがあるのですが…成功した暁にその取り分を分ける、というのは?」
「雇い主は今日しか許さないらしいぞ。後日返済しますとか言ってきたらぶん殴っていいと伝えられる位には。
それにお前、まだ持ってるだろ」
ここでサンポは笑みを形作ったまま固まってしまう。どうやら図星のようだ。ウェクトルも余力を残す暇があるのかと軽く嘆息する。
「……わかった、じゃあこうしよう。利子分はオレが払う。だから借りた分の金は今ここで払ってもらう。どうだよ?悪い話じゃないだろ」
「…それ、本当ですかぁ?あなたにメリットがないじゃないですか?あっ僕は構いませんよ!?ですが…商人の私としてはどうも裏がありそうで疑ってしまうのです」
「裏なんかない。ただ早く金を返して欲しいから妥協で言ってるだけだ。それとも何か?お前はこのままタダ働きで博物館の経営でもしたいのか?」
「いやいやいやいや!そんなの死んでもごめんです!…そうですね。では、お言葉に甘えてあなたの案を受けるとしましょうか」
案の定、サンポは利子を除いた借金を返す事が可能な額を拵えており、ウェクトルの責めるような視線を気にも留めずその金を渡した。
確かに受け取ると納得したように頷き、サンポに別れを告げて依頼人の元へ向かうのだった。
「と言う訳で、無事仕事は完了したから確認してくれ」
現在、彼は仕事を済ませたということで依頼主の所へ徴収した金と共に待ち合わせの事務室にいた。
依頼主である『トパーズ』は債務者の情報と手元にある金を照らし合わせその言葉が確かである事を理解したのか納得した様子で。
「うん、ちゃんとあるようね。
お疲れ様、今日は数が多かったからどうしても人手が欲しかったの、でも部下も繁忙期なせいか手を回せなくて、おかげで助かったよ」
「いつもお世話になってるからな、それに今は少しでも金は増やしときたいんだ」
「へー意外、君って金とかに拘りは感じない人だと思ってた」
「列車も人員が増えて、若手が頑張ってるからなぁ。何か欲しいものとか買ってあげられる金があっても困らないだろ?それにこうしてトパーズの手伝いもできる」
「相変わらずの奉仕癖ね。再三言ってるつもりだけどもうちょっと自分を労わるとかした方が良いと思うよ?」
トパーズとウェクトルは古くからの馴染みである。
ナナシビトとしての仕事をこなしつつ、彼は一日限りの仕事を熟すフリーランスのような生活をしていた時、スターピースカンパニーの派遣の業務を受けた彼の担当がトパーズだった。
信用ポイントもそうだが、依頼を達成すれば貰える報酬も多いことから気がつけばトパーズとはお互いタメ口で話すような仲になっていた。
「うーん、まぁ、善処するよ」
「それ、絶対やめないやつじゃん。はぁ…まぁいいわ、とりあえずこれで今日のノルマは完了です。給与はもう支払ってあるから」
言葉とは裏腹に、悩む表情も見せずそう話すウェクトルに対して、呆れの表情を隠さず、依頼完了の意を伝える。
「お疲れ様。いやー今日は大変だったな、これを他と並行して仕事するトパーズは凄いや」
「褒めてもボーナスは出ないよ?出して欲しいなら社員になってもらわないと」
「いやいや、カンパニーはオレが求める職場じゃないからいいよ、それにオレみたいな慮外者が応募しようものなら全身をバラバラにされて…なんて事もあり得るからな。
今はともかく、昔はカンパニーの邪魔をしてた訳だし?」
「あー、うん。私が入社したての頃は都市伝説みたいな扱いされてたのを覚えてるわ、指名手配書みたいにカンパニーの至る所に貼り出されてた時は驚いたよ」
ウェクトルはこの宇宙でも変わらず星々の願いを叶えていた。しかし、叶えるにあたってカンパニーにも影響を与えており、それは良いことでもあり悪いことでもあった。
当の本人は会社の事情なぞ知らんと好き勝手やっていたが故にタチが悪く、トパーズがカンパニーで働き始めた頃は目の上のたんこぶのような存在であったという。
「もちろん、君のおかげで惑星の環境が改善されて得られるものがあった時もある。けど、時期が違かったら君の体で事業拡大…なんて事があったかもしれない」
カンパニーはウェクトルの存在を鬱陶しく感じてはいたが、同時に利用価値は大いにあると思案していた。願いを叶える力、そんな子供の御伽話を体現したような存在を使えばどれだけ我々の理念をより強固なモノにできようか…と。
故に、一時期は専門の捕獲部隊なるものを作り上げたものだが、結果は見ての通り、ウェクトルは今も呑気にトパーズの下でカンパニーの派遣仕事を担っている。
「その時は得意の逃げ足で逃げるってもんさ。そうやって永い時を生きてた訳だしな」
「そう…だよね」
微妙な空気になりかけているのを察した彼は早々に話を切り上げ、話題を変えようとする。
「あぁ…そういえば、ベロブルグでなんかのプロジェクトを遂行するんだって?」
「え?あぁ、うん。昔にちょっとした件でね?でも、多分大変なことになるかも」
「借金だろ?そりゃ大変に決まってる。あそこはただでさえレギオンの強襲で一悶着あったんだ。そんな中で返済を迫るのは酷なもんだ」
「…そうなんだよね」
ベロブルグは七百年前、スターピースカンパニーが建創者たちに災害対策の資金を貸し付けたのだが、280年以内に返済するという約束があった。ところが、借りた後100年余りで、ヤリーロ-VIで大災害が発生し、スターピースカンパニーとの連絡が途絶えてしまったのだ。
そして今、カンパニーはベロブルグは滅亡せずに残っていることを知り、彼女を派遣して借金の返済を求めているのだ。
「困ったら頼ってくれよ、助けになれるかもしれない」
「いやいやいや、君にはいつも任せっきりなんだから、むしろこっちが頼って欲しいくらいだよ」
「いやぁ、それは…うーん」
近いうち、なのかとベクターの二人と共にカンパニーの事業に干渉するのだが、それは別の話だろう。
「それにしても、面白い生き物を連れてるなぁ」
「カブのこと?この子は自慢の相棒なの、可愛いでしょ?」
「可愛い、撫でたりするのは駄目か?」
すぐさま肯定し、愛でる許可を得ようとするが、その答えはすぐに返ってきた。
「勿論構わないよ。あっそれとね、カブはこうやって腹を吸うととてもリラックスできるの!」
トパーズは傍で待機してたカブを拾い上げてその腹に顔を埋めた。処遇『カブ吸い』を堪能するトパーズを見て微笑ましく思ったのか、隙を見て写真を撮った。
「ほら、良ければ君もやってみて?きっと満足できるから!」
「おぉ、じゃ遠慮なく…」
お言葉に甘えて、と心なしかぐったりしてるカブを受け取ろうとした時、トパーズは固まってしまった。
(あれ…ちょっと待って?さっき私、カブに顔埋めてたけど…これ、彼もさっきの私と同じことをするんだとしたらこれってひょっとして…)
間接キス
ふと頭によぎった一つの単語が彼女の思考回路を支配した。
長いこと業務で築き上げた関係は良好であるが故に、そういった事故に意識を向けるくらいにはトパーズは気恥ずかしさを覚えていた。
彼女は実力者ではあるが、乙女でもあるのだ。
「トパーズ どうした?」
「ぁ……えっと、やっぱりカブを触らせるのはダメ!こういうのはちゃんと順序を終えてから!」
「順序?さっきは良いって言ってたのに」
ウェクトルの言葉で現実に戻ってきたトパーズの頬はほんのり赤味が差していた。
こうして、急にカブを触らせることに拒絶を示したトパーズになんとか触らせてもらえないか説得する時間が続いたのだった。
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