旅をしたいのに周りが許してくれない! 作:どこにでもいる名無し
悲報です。
私の持つスマホが、スターレイルの容量に耐えきれなくなりました。
元々怪しかったんです。リリース当初から少しプレイしただけで熱を持つようになり、お陰様で今となっては起動しようしただけで尋常じゃない熱を発し始めたんですよ。
故に、プレイできない事で生じる情報の乖離は計り知れないと思うんです。もしこの作品に矛盾が起こりましたら謝罪します。
一応、動画等で聞き齧ってはいるのですが…。
「君がオレを呼んだのか」
寂れた荒野に一人の男が佇んでいる。雨の音、不快な気候の中で傘を
布と木の枝で出来た簡素な家があり、そこに住んでいるのだとわかる。過酷な環境でここまで生きることができるとは、素晴らしい意志の強さだ。
エヴィキン人、他にはない綺麗な目を持った民族。地母神を崇拝し、己が身を削ってでも供物を捧げる献身の心を持った人間たち。
カティカ人によって搾取され続け、今となってはご覧の有り様、砂漠のような所で侘しく暮らすしかない生活を送っている。
「誰か…いるの…?」
雨が降る中で、命の滴を地面に垂れ流し、今にも死に体で伏している少女は掠れた声を溢す。
「喋らなくていい。君は生きる事だけ専念してくれればいい」
男は優しく諭す、その身に備えているバッグから携帯食の飲料を取り出せば、それを少女の口元に寄せる。
「……ぁ…」
力無く倒れる少女を支える手からは豊穣の力が溢れている。小さな変化でしかないが、あちこちに付けられた傷は瘡蓋が張る程度には治癒しており、食を通す体力は形成されていた。
栄養を補う為の携帯食が少しずつ口へ運ばれていく、中身はゼリーと補給水が合わさった物で、少女はそれをゆっくりと味わうように咀嚼し、喉の奥へと送る。
やがて携帯食が空になると、彼は懐にしまい、少女の様子を見守る。
「君を襲ったのはカティカ人だね?危険は取り払った、だから今は安心しておやすみ」
「………ありがとう………」
か細い、しかしはっきりと聞こえる声で少女は御礼を述べる。そして安堵したのか瞼をゆっくりと閉じ、寝息を立て始める。余程疲れたのだろう、睡眠を取りはじめたのは一瞬だった。
彼も、少女を起こさないようにゆっくりとおんぶの形で背負うと、歩き始めた。
…
……
………
「スターピースラジオが本日のニュースをお伝えします。カンパニー市場開拓部のスポークスマンによると、無主星区ツガンニヤで小規模な反乱が起きたとのこと、現在、状況はコントロールされている模様ですーーー」
「反乱を起こしたのは『カティカ』と呼ばれる部族で、この部族は長い間カンパニーに対して不満を抱いており、市場開拓部の現地での活動にも深刻な悪影響を与えていましたーーー」
「『カティカ』はカンパニー保護下にある『エヴィキン』族に大規模な襲撃を仕掛け、判明しているだけでも6728人が死亡、345
「スポークスマンは、この『深刻な人道的災害』に深い哀悼の意を示すと共に、全星間市民に向けて本件に関する重要なスピーチを行いましたーーー」
「最後、彼は『私たちが生まれながらにして持つ基本的権利を守るため、生死、種族、思想にかかわらず、存護の大槌はすべての生命に振り下ろされるでしょう』とのべました……」
「そして現在、襲撃を行った『カティカ』人は
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ピノコニーと呼ばれる夢の国に向かうこととなった列車組とは別にウェクトルは列車内に留まることを選んだ。
今回はベクター、三月なのか、姫子、ヴェルトの四人が調査に向かうことになっており、ここに彼も加わると人員が多いと判断し残ることを選んだ。
というのは嘘である。
列車に残るもう一人の人物「丹恒」には何も言わず、個人としてピノコニーに侵入した彼は現在、未曾有の境地に立たされていた。
「腹が減った…」
夢境に入るのは至極簡単であった。夢とはもう一つの現実。ウェクトルは己が存在を虚数の繭で包むことによって侵入することに成功した。
そんな彼であるが、絶賛食に飢えていた。
夢の中でも腹は減るんだな…。
世知辛いことに彼の腹の虫は今も鳴り続けている。とは言っても手持ち無沙汰で金も無い。夢も買えるこの夢境の世界では、必要最低限の金も持っていない者には、夢の舞台に参加する資格も与えないのだ。
「このままじゃゴミを漁りかねないな」
何を訳のわからないことを言っているのやら。
しかしこの状況は芳しくないだろう。夢の中である為、最悪死ぬという事態はないだろうがこのまま飢餓に苦しんでいけばゴミ箱を漁る事態になりかねない。
「スラム街でゴミ漁ってたりしたなぁ」
昔も昔、大昔の話ではあるが、ウェクトルは人に騙されスラム街まで堕ちた時期があった。もちろんその頃は力もあったしいつでも脱する事はいつでも出来たのだが、彼はその地に住まう住民の願いを叶える選択肢を取った。
良い思い出とは言い難いが、それでも貴重な出会いはあったのでウェクトルは未だにその記憶を大切にしていた。
「おやぁ?こんな所で何をしてるのかな、ナナシビトの流れ星くん?」
ふと、見知った声が聞こえてきた。顔を向けばスターピースカンパニーの戦略投資部の上役『アベンチュリン』が見下ろす形で彼を見ていたのだ。
この二人はあまり接点がない。ウェクトルが派遣先でトパーズの指導の下働いていた時にたまたま出会い、顔見知り程度に親睦を深めたくらいだ。アベンチュリン自身も、かの上司が目の上のたんこぶのように扱う姿勢からどんな人物か気になっていたのもあるが。
どんな運命の巡り合わせか、二人はこうして再会を果たしたのだ。
「おぉ、久しぶり。…あー、敬語の方がいいのか?派遣とはいえカンパニーで働いてた訳だし」
「別に構わないよ、今の君はカンパニーで派遣社員として扱われる存在ではなく、星穹列車で宇宙の開拓を担うナナシビトだ。礼儀にも違いがある。所属の違う僕らに上下関係なんてものは存在しない」
「そっか、ならそうさせてもらう。ところで、何のご用で?」
腹も減っているせいか、対応がおざなりになっている彼に対して、アベンチュリンはさして気になる様子も見せずにいる。
「話したいことは山程あるけど、こんな場所じゃ周りの目も気になってしょうがない。どうだい?ここは共に時間を共にするというのは?」
「あー…それもいいんだけど、一つ条件がある」
「へぇ…その条件は?」
ウェクトルは神妙な面持ちで一つの方向に指差す。
アベンチュリンも用心したように示された方向を向けば、そこには屋台があった。香ばしい匂いが此方まで漂っている。
「………奢ってください!」
その姿は願いの申し子の二つ名が付くとは到底思えない情けない男がそこにはいた。
「うぉーありがとう!このまま何も食べてなかったら飢え死んでところだ」
口いっぱいに食べ物を頬張り、食を楽しむウェクトルはアベンチュリンに礼を言う。
「アハハ!礼には及ばないさ、これは僕とキミの些細な出会いに対するお礼として受け取ってくれて構わない。そうだ、この後賭け事をするんだ、よかったら出席してみないかい?」
「ん?まぁ助けてくれたから断らないけど」
アベンチュリンの怪しさ満点の誘いに何の疑いもなく彼は了承した。
「いいのかい?随分と安請け合いするようだけど…。僕が君を利用しようとは考えないのかい?」
実を言うと彼はつい先程、列車組の面々と相まみえたばかりだ。優待客として招かれた列車組のチェックインに問題が起きた際、時間のロスが発生した時に彼は現れた。「時計屋」の招待を受けた客であり、その場での宿泊客でもあった。
そこで一悶着あった話の説明は省くが、アベンチュリンはスターピースカンパニーのエリートとして活動をしている。その身に纏う胡散臭さは他と一風変わった雰囲気を齎しているが、ウェクトルは微塵も警戒していなかった。
「…しないだろ。オレは君をあまり知らない、人を駒にするとか、地母神に齎された運でのし上がった狂人とか、色々と噂があるのは聞いてるが…君の願いはいつだって献身的だ」
ウェクトルの瞳は真っ直ぐで輝いている。永い時の中で人という存在を誰よりも見てきた彼が、目の前の存在の善性を疑う事はなかった。
そして、ウェクトルは彼の願いを理解していた。
「…君、○○の弟だろ」
名前を聞いた途端、アベンチュリンの表情が変わった。
「……何故、君がその名前を知っているんだい?」
それは遠回しな肯定であった。理解したウェクトルは屈託のない笑みで懐から紙切れを取り出し、アベンチュリンに渡す。
「その紙に書いてある場所を訪れるといい。そこに君の求める者がいる」
「質問に答えてくれないかな?君が何故、僕の姉の名前を知っている。答えろ」
アベンチュリンの心中は穏やかではなかった。まさか弄んでいるのか、僕を騙そうと言うのか、そんな疑心の心が溢れかえって止まらない。余裕を伴った口調は消え、怒気を含んだ声色で問う。
「そりゃあ、オレが助けたからな」
ウェクトルは気にした様子もなく、あっけらかんと答えた。
「カティカは皆殺しにしたよ。あの氏族の死を望む願いは多かったからな、でもオレが助けられたのは君の姉だけ、カンパニーに目をつけられるのは面倒とは言え、エヴィキン人を諸共救えなかったのはオレのミスだ」
「それを信じられるとでも?」
「信じて欲しいからその紙を渡したんだ。彼女は今も生きている、生まれ故郷じゃ都合が悪いからその星に滞在させているんだ。ツガンニヤのような不便を強いる場所ではないから是非会ってその顔を見せてやって欲しい」
アベンチュリンは酷く悩んでいた。だが、それも数秒で終わる。
「…そうだね。君の言葉を信じよう。だが、もし嘘を吐いていたら、その時は覚悟してもらう」
「約束するよ。もし彼女が死に目に遭っているようなら、オレは自ら命を断つよ」
もし、彼の言葉が本当ならば、アベンチュリンの方針は変わるかもしれない。
幸運という牢獄に囚われている彼は生きるという行為に意味を見出せないでいる。だが、もしも実の姉が生きているのだとしたら?
暗がりに差し伸べられた光がアベンチュリンを照らすだろう。
「……これは、賭けだね」
コインを取り出して、指の中で転がす。
「景気付けだ。此処での勝利を、地母神に捧げよう」
そして、二人はカジノへと潜り込むのであった。
…
……
………
「♪」
カジノでのアベンチュリンは絶好調であった。元々運の良い彼はこういった賭け事で負けた事は一度もないが、なんの根拠もない自信が湧いて止まらないのだ。
どういう訳か左手の震えもない。これならどんな賭けも勝てる。ここまで心地の良いギャンブルをするのは初めてではないだろうか?
アベンチュリンは溢れ出る気分の良さから鼻歌まで歌い始めてしまった。
「ご機嫌だな」
アベンチュリンのすぐ隣にウェクトルがやって来た。様子を見るに彼もコツコツと勝ち続けているらしい。
「悪いなぁ、賭けに使う為の金まで貸してくれるなんて」
「構わないよ、僕からすればその程度の金は貸した事に入らない」
ウェクトル自身、カジノに入っても観戦するだけに止めるつもりだった。だが「それじゃつまらない。せっかくのギャンブルなんだ、君もひりつくゲームを楽しんで行きなよ」と金を渡されてしまった。
それならと、ある程度増やしたら返す方針でギャンブルを楽しむことにしたウェクトルは見ての通り、勝ち星を増やしていた。
「君も随分楽しめてるようだね」
「おかげさまでな。これも歳の功ってやつかな?」
僕より若い見た目の君が何を言ってるんだか…。アベンチュリンは次に行われる賭けに手を動かしながら、心の内で吐露する。
積み重ねられたチップを全て動かそうとする。アベンチュリンの十八番『オール・イン』だ。
しかし、その行動ら横からチップを差し出された事によって阻止される。
ウェクトルが参加し、その全額をアベンチュリンに渡したのだ。
「俺の命だ。損在に扱ってくれよ?」
「……フッ。アッハハハ!こんな事にオールインなんて、しかも見ず知らずの人間に全財産を預ける?君はひょっとしたら僕が思う以上に単純じゃないようだ!」
「さっき飯奢ってもらったからな、借りは返さないと」
「お釣りが帰ってくると思うけど?」
たかだか腹の虚しさを抑える程度の金しか賭けていないにも関わらず、ウェクトルは先程の賭けで勝ったチップを全部渡したのだ。
さしものアベンチュリンも全幅の信頼を寄せられ半ば苦笑いをしている。
この人、何の疑いもなく連帯保証人になって捨てられそう。
アベンチュリンの中で、根も葉もない固定観念が生まれそうなほどのお人好しなウェクトルに、さしもの彼も心配してしまった。
「自分の勝ちを信じて疑わない。だから、オレもアベンチュリンを信じる」
まただ。またあの真っ直ぐな瞳だ。エヴィキン人のような特殊な眼を持つでもない。まるで宇宙を内包したような果てのない闇夜を宿した眼光がこちらを見つめていた。
異様な信頼。過去に何度か顔を合わせた程度、赤の他人とも言えるような間柄にも関わらず、彼は全財産を明け渡した。と言ってもその金もアベンチュリンのものだが。
短い時間でも嫌にわかる。彼はあまりにも他人を疑わなさすぎる。腕を差し出せと言われれば了承の二文字で即座に差し出しそうな雰囲気に、アベンチュリンはからの内側の深淵とも言える部分を垣間見た。
ウェクトルは、アベンチュリンの手に余る。
「負債は俺が背負おう。オール・インだ」
一つのカジノで、小さな伝説が生まれようとしていた。
…
……
………
「今日は楽しかったよ。君のおかげで愉快な一日を体験できた」
「いや、それはオレも同じだ。賭け事はあまり好きじゃなかったけど、たまのギャンブルも悪くないな」
カジノから出た二人は、互いにこの時間で起きた出来事の感想を述べていた。
アベンチュリンは大勝ちした。懐にはこの地にやってきた時以上の金が入り込んできた。彼自身が持つ財産と比べれば小粒程でしかないが、この時間を通して、確固たる自信を身に付けた。
「次会う時を楽しみにしているよ、ブラザー」
「あぁ、また会おうぜオールド・スポート」
二人は別れる。アベンチュリンが去るのを見送り、姿が消えるまで手を振り続ける。
ウェクトルはいつだって見送る側だ。
「……………まいったな。彼を利用できる程、僕は非情になれないようだ」
山のように重ねられた死体の束に、肉の塊が放り投げられる。
血の海、腐臭が発せられる異様な光景の中で、その中に一人の漢が立っていた。
手には虚数エネルギーによって造られた獲物が握られており、その切先にはどろりと粘着質な血が垂れている。
「奪ったなら、その分奪われないと不公平だろう?」
積み重ねられた「カティカ」人を見て、男は意味もなく呟く。
生き物を殺すのは初めてじゃない。ここで起きた死は男にとって些事に過ぎない。男は死の余韻に浸る気持ちは無かった。
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