旅をしたいのに周りが許してくれない! 作:どこにでもいる名無し
誤字報告ありがとうございます。
報告の数見てみると、結構書き間違いが多いですね。
ウェクトルは現在、奇異な目に合っていた。
一人の少女を横向きに抱え上げ、両腕でそれぞれ胴と脚の部分を持ち上げるように支える抱き方、俗に言うお姫様だっこと呼ばれる抱え方で、後ろで群れを成している追ってから逃げていた。
「なんでこんな事になったかねぇ」
「ごめんなさい…。こんなつもりはなかったのだけれど…」
「謝る必要はないよ。これも有名人の宿命だ」
何故こうなったのか、それは数時間前に遡る。
…
……
………
「折角の休暇なのにする事がない…」
ピノコニーの寂れた場所にあるバーにて、ウェクトルは今後の活動について思案していた。
「夢の地なんて言うけど、金は取る…やっぱ世の中金かぁ」
現在彼の所持金は雀の涙程しか無い。日銭を稼ぐために芸でも披露しようかと考えたが、自身の状況を把握すれば、その選択は得策とは思えない。ヴェルト達にでくわすのは第一優先に忌避すべき事項だ。見つかってしまえば最後、正座で列車組による集団説教を喰らうだろう。
夢の地ピノコニー
そこは確かに人の願望を叶える場所ではあったが、不運な事にウェクトルとは相性の悪い場所であった。
「はぁ、夢の中でも世知辛い。俺もこの歌手みたいに自由に旅をしたいよ」
彼が手に持つ新聞には天環族の美女がマイクにその美声を以って、民衆に歌を届けている姿が写真として写っていた。
ロビン
歌手として圧倒的な人気を誇る歌姫。その名を知らないのは生まれたての赤子程度のもので、「傷つく誰かの心を守ることができたなら」は彼女の代表曲である。
「今頃は、ヴェルト達があの二人に関わってる所かな」
夢の地ピノコニーの運営の一人であるサンデーの妹である彼女はどうやら近日開催される調和セレモニーのために故郷であるこの地へ帰ってきたのだ。ウェクトルもその事実を知っているせいかそんな独り言をぼやいていた。
「はぁー、こんな暇になるなら強がんないで同行すれば良かった」
本来なら、丹恒と共に列車内で待機する筈だったのだが、何の気まぐれか、こっそり抜け出してこの地へ訪れたのだ。
だからこそヴェルト達に会うのは控えたい訳で、かと言って今の彼は八方塞がり、あまりにもすることが無くてテーブルにうつ伏せで倒れていた。
「相席、よろしいかしら」
時間を浪費していた彼にふと、横から声が聞こえてきた。
端的に述べられた言葉でも鼓膜に送られる声音は優しく、品性に溢れていて、聞くものに安らぎを与えてしまう程に美しかった。
声からして女性だろう、黒柄の丸いサングラスをかけて、マスクをつけた姿は変装した有名人を彷彿とさせる。
「ん?あぁ…いいけど。なぜ」
なぜ、とは彼が疑問を抱いてしまったのには理由がある。
このバーは寂れた場所に建てられているため、そもそも人が少ない。室内にいるのはせいぜいバーテンダー含め彼と彼女くらいのもので、スペースなんていくらでもあった。
「こんな場所で会えるのは運命的だと思うの。折角だからあなたの話を聞きたいわ、流れ星さん」
オレを知ってる人だったか。
すぐに察したウェクトルはそれならばと了承する。
「ふふっありがとう」
「本当は奢りの一つでもやるべきなんだろうけど、生憎所持金が…」
よよよ…と弱ったふりをして戯けて見せる。マスク越しなせいでその顔は見れない。笑っているのかさえ不明瞭だ。だが感じ取れる雰囲気は至って温厚だ。
「いいのよ、むしろ私が奢りたいくらいだから」
「へぇ、どうして?」
「あなたに助けられたからよ」
そうして、顔を覗かせるようにサングラスを外して見せる。左頬には特徴的な泣きぼくろ、宝石にも負けないスカイグリーンの瞳、顔を半分見せただけでもわかるほどの美貌を持つ彼女は、ウェクトルが手に持っている新聞に写っている宇宙規模でその名を轟かせる歌姫『ロビン』その人だった。
「あぁ、てっきりしがない女性客として扱われたかったのかと思ってたけど」
「ありがとう、でも気遣いは無用よ。お世話になったのはこちらだもの」
「助けたなんて言うけどさ、あれは結果的にそうなっただけだ。不吉な概念が彼方此方動き回ってるもんだから、気になって尾行したら殺しかかってるときた。夢の中とはいえ見過ごすのはオレの美学に反する」
「それでも、今こうして私は夢の地で歩くことが出来てる。それはあなたのおかげよ」
助けられたというのは、ウェクトルが列車組のみんなには内緒でピノコニーに入って間もないタイミングで起こったことだった。
彼が夢を感じ取り、その星に降り立つように、彼自身にはそういった目に見えない何かを察知する能力が備わっていた。
記憶域ミームと呼ばれる存在がこの夢の中で自由に動いているのを理解した彼はその後を追うようにして行動、そして記憶域ミームがその牙を向いた相手がロビンだった。
昔の彼ならそのまま行動不能にすることは容易だったが、今の彼は虚数エネルギー、そして消化不良の星核エネルギーを持っているだけの非力な生き物に過ぎない。故にロビンを逃し、命からがらその場を後にするので手一杯だった。
追跡を危惧したが、どうやらアレは頭が悪いらしい。こうして顔を隠しているロビンがいることが何よりの証拠だ。
「じゃあさ、歌を聞かせて欲しい。目の前でかの有名な歌姫の声が聞けるなんて滅多にないんだから」
「まぁ、そんなことでいいの?」
「頼む。君の声が好きなんだ」
どうしてか知性を感じさせる子供のような無邪気な笑顔にロビンはきょとんと惚けた顔を見せるが、やがて頬を微かに赤らめて「…えぇ」と頷く。
「何かリクエストはあるかしら」
「お?じゃあ君の代表曲でも頼もうかな」
「えぇ、喜んで」
そうして、二人は静かな時間を楽しむ。歌姫は歌い、観客は賛美する。両者にとってかけがえのない時間であった。
…
……
………
「いやー、今日は楽しかったー!」
時刻は半システム時間。ネオンライトに輝く街とは外れた場所で、ウェクトルは満足した様子だった。
「ふふっ楽しんでいただけたのなら良かったわ」
傍にはロビン、二人はつい先程バーから出たばかりで、今は余韻に浸っていた。
宇宙でも名を馳せる歌姫とのワンマンライブ、ウェクトルにとってこのピノコニーに来て初めて夢を見れた時間なのではないだろうか。
「それじゃあ、またいつか会いましょう?」
彼女は変装を施して、人が栄える場所へ足を進める。
「君は有名人だからまた会えるかはわからないけど、またな」
その別れに応えるように彼も見送れば、その姿も消えていった。
さて、それじゃあ自分も活動を再開しないとなと意気込みをかけるのも束の間、不穏の種になりそうな発言が耳に入ってきた。
『えっと、勘違いならいいんですけど、ロビンさんですよね?』
『えっ…いや、その…えっと』
『え…ロビンって、あのロビン?』
『おいおい嘘だろ、俺大ファンなんだよ』
『結婚したい』
「その…私はロビンじゃ…」
遠目から聞こえてくる声が徐々に近くなる。
騒がしさに視線を向ければ、そこには人の群衆が後ずさるロビンを追い詰めるように囲っているではないか。その数は止まることを知らず、次々と増えていく。
突如、ロビンがその場から逃げ出したかと思えば、一人の男の裾を掴んだ。
ウェクトルだ。
「…ごめんなさい、助けてほしいの」
「わかった」
申し訳ない気持ちで溢れた表情を見たウェクトルは特に迷う様子も見せずに了承する。
「あいよっと!」
ウェクトルはロビンをお姫様抱っこで抱え、追ってから逃げ始めた。
『男が攫ったぞ!捕まえろ!』
有象無象の中の一人が高らかに指示する。その声に応えるかのように『うぉーッ!ロビンー!』と各々が鼓舞するかのように声を張り上げた。
なんという事だろう。別れのムードから一転、ピノコニーを舞台にした逃走劇が幕が開けられた。
「なんでこんな事になったかねぇ」
「ごめんなさい…。こんなつもりはなかったのだけれど…」
「謝る必要はないよ。これも有名人の宿命だ」
変装はしていたが、それでも溢れ出るカリスマ性が祟ったのだろう。すれ違い様にロビンの雰囲気を見抜き、その正体を感知するとはとんだファンもいたものだ。
ウェクトルはロビンの身体に負担がかからないよう細心の注意を払いピノコニーを走り抜ける。
弱体化したとはいえ、常人よりは遥かに強者な彼は、人を抱えているハンデを感じさせない足捌きで障害物を避けたり、人々の距離を着実に離していった。
頃合いを感じた彼は建物の壁を己の脚を使い駆け上る。
「空の旅を体験したことは?」
「えっそれって…?」
やがて屋上に到達する所を彼はそのまま止まるのではなく、大きく踏み込み、フワリと空を舞う。
このままなら自重によって墜落してしまうだろう。だが、そうはならなかった。
「これって…」
空を踏んでいた。
飛ぶ、ではなく。空を踏んでいる、ウェクトルは目に見えない足場を踏んでいるかのように歩いていた。
一体これはどういうことだろう、とロビンは心の内側にある疑問を露呈する。
「オレの持つ権能のちょっとした応用さ。こうやって空間に固定することで足場にもできる」
ウェクトルの足場には虚数エネルギーによって形成された踏み場が佇んでいた。それは踏まれているにも関わらず微動だにせず、彼は次々と自身の進行経路に踏み場を創り、歩んで行く。
彼の腕の中ですっぽりと収まっているロビンも、置かれている状況に気恥ずかしさを感じながらもウェクトルの顔を見つめていた。
「まるで…王子様みたいね」
ロビンは叶えたい願いを多く持っている。その一つ一つが彼女にとっては大切で、切り捨てることができない代物なのだ。
私だけの救世主。
これも彼女の数ある願いの一つだった。ロビンは歌手として宇宙に名を馳せる偉人とも言える人物だ、有名になればなるほど、その身に課せられる重りは増していく。数多の願いが遠ざかっていく。だからこそ、そんな自分の枷を壊してくれるような存在が来てくれるのを願っていた。
そして今、彼女は眼に映る存在に流星のような特別を感じていた。
ゼンレスゾーンゼロ、リリースしましたね。
自分はスマホの容量でやれませんが、やれる皆さんはどんなストーリーが展開されてるのか…とか、このキャラクターが凄い!…とか感想でぜひ書いてください!ちなみに自分はキャラクターの中で一番アンビー・デマラが好きかもしれないです。
なんだったら、キアナの話みたく運命の悪戯で新エリー都へ飛ばされるウェクトルの話を、番外編で書くのもアリかもしれませんね。
掲示板的な何か
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書かないで欲しい