旅をしたいのに周りが許してくれない!   作:どこにでもいる名無し

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 行動に何かしら意味があるキャラクターを書くのは疲れますね。
 作者の苦悩すら愉悦として扱う花火はとても良いキャラ。


花火の場合

 

 星たちがピノコニーの問題に立ち向かっている最中、別行動をしているウェクトルはというと。

 

「さーて、次はどうしようか」

 

 呑気に時間を浪費していた。

 ピノコニーの名所を歩き回り、ある時は人助けをして、またある時は怠惰を満喫していた。

 ピノコニーは選ばれたVIPが集う場所だ、旅人として宇宙を流離っていた頃のウェクトルですら小耳に挟む程度には知る人物が山程いる。

 夢の中で貰ったサインって現実に持っていけないかな…。なんて思案している彼だが、奇妙な現場に直面した。

 

「あ、あぁあああっ!は…花火を殺してしまったのですかっ!」

 

 いつぞやで聞いたことのある道化の声。それも随分と焦りの色を乗せた声色に彼はクロックボーイの銅像が建てられた場所に目を向ける。

 そこにはサンポがメモキーパーに何かを問い詰める姿が見えた。

 

「よぉサンポ、こんな所で何してるんだ」

 

 せっかく会えたのだ。あいさつの一つくらいしないと失礼というもの。サンポ自身が揶揄いがいのある人物な為、少し揶揄ってやるかと邪な気持ちで接近する事にしたウェクトル。

 

「おやぁ、これはこれは。我が親友ウェクトルさんじゃないですか。あなたもこちらにいらしてたんですね」

 

「今は単独行動で好きにやらせてもらってるよ。所で…何事?」

 

 ここでサンポがよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの勢いで話し始めた。

 

「いや、その子生きてるだろ」

 

「なんと!ではどうしてそのような考えに至ったのか説明をしていただけますか」

 

「安直だけど、まず証拠がなさすぎる。出血もなければ何か手を加えた痕跡もない。じゃあ辺りに細工でもあるのかと思えばそんなこともない。仮にメモキーパーが記憶を弄るにしても、それで死ぬことはないこの夢の地でそんな芸当ができるとは思えない。するメリットがない」

 

「しかし…それは些か短慮ではありませんか?」

 

「見ず知らずの人間を一瞥しただけでそこまで解明できるわけないだろ…じゃあ、今からこの子が死人のフリをしてる可能性を暴く方法を見せてやろうか?」

 

「えぇ、できるならば」

 

「…そういやぁ、サンポって同業者のこの子に対して散々な言いようだったよな。『変装が得意なだけで役にのめり込めてない。見様見真似の猿芝居もいいところです〜』って」

 

 間を置いて、ウェクトルは白々しい口調で身も蓋もない事を言い始めた。

 

「ちょ!?そんなこと一言も言ってませんよ僕ぅ!?」

 

「あらあら、仮面の愚者も陰口を言うのね…」

 

「ちょっと待ってください誤解ですよぉ!ウェクトルさんもいい加減なこと言わないでくれません!?」

 

「サンポちゃん、私の事そんな風に思ってたの?」

 

「ほら起きた」

 

 ウェクトルの誠か嘘かわからない発言により、サンポはてんやわんやの大騒ぎ、そんな先程までの張り詰めた空気も破裂してしまうような雰囲気の外側から、声が聞こえてきた。

 

「死体も、登場人物の一人だったということね」

 

「屁理屈染みてるけどな」

 

 ブラックスワンは察した様子で呟く。ウェクトルもその言葉に賛同した。

 

「いやぁ、アハハ…。僕があなたをそんな風に言うわけないじゃないですか、花火さん」

 

 むすーと明らかに『私、不機嫌です』を顔で表現しているその少女は紛れもなく、先程まで死体としてその身体を停止させていた花火張本人であった。

 

「ゲームはこれでおしまい?」

 

「はぁ、もういいや。サンポちゃんは罰として仮面の居場所教えてあげなーい」

 

「なっ!そんなぁ酷いですよ花火さん!」

 

 サンポと花火は何やら取引していたようだ。花火は八つ当たり気味にサンポに言い渡すと不満を漏らす彼を無視し、ぷいっと顔を逸らしてしまった。

 

「どおしてくれるんですかウェクトルさん!?」

 

「知らん、樽の中でも漁ってみたらどうだ?」

 

 事の発端となったウェクトルに非難の声をあげるが、当の本人は知らんぷり。いや、サンポの慌てぶりを見て内心ほくそ笑んでいた。

 

「それじゃ、気を取り直して…。どうだったメモキーパーちゃん!楽しんでくれた?」

 

「無理矢理感のある印象付けではあるけれど、で…このサンポさんは?」

 

「あぁ、えぇ、綺麗なお姉さん、僕はたまたま友人に手紙を届けに来ただけのサンポですよ」

 

「なるほど、どうやら、最初から愚者の罠にかかっていたのね」

 

 サンポの返答に対して僅かな時間を使い、ブラックスワンは事の状況を理解した。

 ウェクトルは完全な部外者な為、美女と少女の間にある他人のような距離感を察知しても実情までは理解していない。気まずい雰囲気を誤魔化す為に、目を彷徨わせるサンポを見つめることにした。

 

「君は「記憶」を、花火は「愉悦」を、お互いから必要なものを手に入れた。これって、気が合うってことだよね?それに君も花火も独り…だからさぁ、花火と一緒に行こう、2人でダンスしない?」

 

 花火は語る。今ピノコニーではかつてないショーが始まろうとしている。しかし、そのステージに上がるのが間に合わない人間は、舞台裏に身を退くしかない。

 そのショーを心ゆくまで楽しみたいのなら、舞台に立ち、スポットライトを浴びながら、当人の取り巻く一部始終を眺めるのが一番なのだと。

 ブラックスワンは花火の誘いを断った。

 

「メモキーパーちゃん…無事にここから出られると思う?」

 

「あら、ダメなの?」

 

「……アッハッハッ、驚かせてごめんね。そのうち答えが分かると思うよ!今日は初めましての挨拶だと思って。いつか気が変わったら「パブ」に会いに来てちょーだい。見つかればの話だけど、ひひっ!」

 

 含みのある発言を残して、花火は誘いの話はその時でも待っていると語り、その場から去ろうとする。

 

「行こう…サン…ポ…?

 あれ…サンポって、誰だっけ…?」

 

「おや、僕は…ベロブルグにいたはずでは…?」

 

 急に様子がおかしくなった二人を残して、ブラックスワンはそこから消えてしまった。メモキーパーの力を使い、二人の記憶を操作したのだろう。

 今ここにいるのは、自身の記憶の食い違いに困惑する二人と、人群れに紛れていくブラックスワンを眺めるウェクトルだけだった。

 

「あいつ…オレの記憶も覗こうとしたな」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーー

 

 ウェクトルは現在、路地裏にいた。

 死の匂い、鼻に付く気配を辿り、気づけばそこにいたのだがそこには何もおらず、ただ物憂げな雰囲気が漂っているだけだった。

 

「あっ!探したよウェクトル」

 

 聞き慣れた声が背中から聞こえ、彼は後ろに振り返る。

 声を掛けたのは三月なのか、路地裏なんかとは合わなそうな少女がウェクトルを見つけては一目散に追いかけてきた。

 

「こりゃまた、似合わない人選だな。どうした?」

 

「それはこっちの台詞だよ、こんな所で何やってるの」

 

「ちょっとした探しモノだな。最近のピノコニーは物騒だから、パトロールしてたんだ」

 

 彼の発言に嘘はない。事実、ピノコニーには多くの問題がある。

 管理者であるサンデーはその問題を公言せず、直隠しにしている。ロビンが生きている事実も理解してはいるがその内心も穏やかではないだろう。

 自己満足の域でしかないが、ウェクトルはこうして自警をかって出ているわけだ。

 

「そう言えば、今二人だけだよね…」

 

「そうだなぁ…」

 

 何やらなのかの様子がおかしい。もじもじと身体を動かしながら、恥ずかしそうに下を向いている。

 やがて、意を決したかのようにウェクトルに近づいて、上目遣いで迫り始めた。

 

「そのね…せっかく二人きりになれたし、ここでしかやれない遊び…ヤろ?」

 

 なのかは胸元の服に手を這わせ、ゆっくりとずらす。その顔は扇情的で、ずらされた服からは見る者を釘付けにしてしまうような豊胸の谷間が見えている。いつもとは変わって蠱惑的な彼女に、ウェクトルは目をパチクリさせていた。

 

「ウェクトルは…ウチとヤるの…イヤ…?」

 

 潤んだ瞳で上目遣いをするなのかに対して、彼は嘆息すると。

 

「あー…自分の身体は大切にしろ。さっき会ったとは言え、オレ達はまだ赤の他人に近いんだから」

 

「……ふーん、気付いてたんだ」

 

 なのかの姿は消え、そこには仮面の愚者の一人『花火』がいた。

 

「演者は台詞の傀儡だ。どれだけ役に成り切ろうと、中身まで本人になることはできない。外見は完璧だけど、内に秘めた願いまで変えるのは無理だったみたいだな」

 

「それ、便利だよねー。ひょっとして、花火のお願いもわかるの?」

 

「わかる。けど、お前は少し特殊すぎるな。どれも何かになりたい夢で形成されてるけど、あまりにも数が多い。強欲な人間でも100超えないのに」

 

「そこまでわかるんだ。うら若い乙女の内側を覗くなんてえっちなんだぁ〜」

 

 花火という少女はその性質が故に人と話す際、おちょくるような態度で迫ってしまう。地頭も良く、口も回る為に彼女と進んで関わろうとする人間はそういないが、ウェクトルにとってもそれは同じなのだろうか。

 

「本当に君が願いの申し子なら、花火のお願いを叶えてよ」

 

 彼女は挑発の笑みを浮かべてウェクトルを煽る。さぁどうすると、私にどう思うと、未知に足を踏み入れる好奇心旺盛な子供のように。

 

「じゃあ、その張り付いて取れなくなった仮面を取ってあげようか?」

 

 暗い路地裏の空気が変わった。

 いつもと様子の違う彼は花火との距離を縮めるように歩を進める。距離が極限まで狭まると花火の後退を遮る壁に手を付ける。顔は影によって隠されていた。

 

「どの自分が本当の自分なのかわからなくなった今の君が。この広く、そして窮屈な世界で持ち前の仮面を取られてしまったらどうなるのか、想像はできないか?」

 

「……」

 

「無闇な自由の中で、正気に戻ってしまった少女が犯してきた業によって狂気に苛まれてしまう。それも一つの愉悦だとは思わないか…?」

 

 静寂が二人を包む。花火は何も言わず、影によって隠れた彼の顔を眺めるだけ。そこにどんな感情があるのかはわかるはずもなかった。

 

「…なーんて、冗談。そんなことオレにはできないよ」

 

 戯けた様子で、壁から手を離しその場から離れる。

 

「愉悦を味わいたいのはいいけど、やり方は考えてくれよ?他の人間だって楽しみを選ぶ権利はあるんだから」

 

 なんて、言っても無駄なんだろうな…。と内心期待せずに忠告をしたが、花火は反応を示さない。暗い路地裏と前髪の絶妙なバランスによって見えなくなった表情も相まってその様子はいつもの花火とは違った。

 

「じゃあな」

 

 これ以上関わる必要もないかと、ウェクトルはその場を後にする。

 願わくばもう会わないことを願うよという意味合いを込めての『じゃあな』果たして花火に伝わったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「……アハッ♡」

 

 

 

 

 

 …

 ……

 ………

 

「やっぱ夢の中ってとことん合わないなぁ、何でも手に入る場所において無欲な人間は傍観するしかない」

 

 ウェクトルは広場の片隅にあるベンチに腰掛けていた。

 早くもこの地に飽きてきた彼はそろそろ列車に戻ろうか考えていた。

 

「だーれだっ」

 

 不意に視界が塞がれた。目元に柔く華奢な指の感触が当たる。

 

「……じゃあなって言ったばかりの筈だったんだけどなぁ」

 

 ウェクトルの目を覆ったのは花火だった。愉快な様子を隠しもせず、今度は首の周りに腕を回してきた。会って間もないというのに随分と距離が近い。ウェクトルの慌てる姿でも見て愉悦を覚えようとしているのだろうか?

 

「私は別れの言葉なんか言ってないけどなー。それにぃ、さっきのアレ凄かったよ?あんな情熱的に責められたの花火初めて〜」

 

 先刻、彼は冗談混じりに圧を掛けてみたが結果は意味をなさなかったらしい。見ての通り彼女は様々な愉悦を味わう為に趣向を凝らしており、むしろ彼の内を覗き見た事で気に入ってしまったらしい。

 

「お前が何をしようとしてるのかわからないけど、どうせこの場を客観的に見てる奴等の為にエンタメを用意してるんだろ?仮面の愚者のやる事はどれも奇奇怪怪だな」

 

「確かにそれも大事だけど、花火は花火自身の愉悦を大事にしてるからやってるんだよ?それに君だって私達と同じように裏から表舞台を操作してる、違う?」

 

「夢の中で得られる幸せなんて一時の悦楽でしかない。人は時が経つにつれ平等ではなくなるけど、それでも君達には進める足があるんだってここにいる人間たちに教えてやりたいんだ」

 

「ふふふ、諸人の願いを叶える流れ星くんにも夢はあるんだぁ。でもいいの?芦毛ちゃん達は今もこの舞台の秘密を探ろうと必死になってる。もしかしたら死んじゃうかもしれないよ」

 

「アイツらは…主役だから大丈夫だろ。最低限の保険はかけてるけど、一先ず舞台装置を作らないといけない」

 

「……アッハッハッ、流れ星くんって結構薄情なんだね、花火と案外気が合うんじゃない?」

 

 会話の中で自身と似た部分を感じたのか、花火は実に嬉しそうだ。仮面の愚者の中でもこだわる愉悦が並よりも逸脱した彼女だ、同じ趣味で語らう人間はいないだろう。だからこそこうして嫌悪感も抱かれず対等に話し合える彼の存在は稀なのだ。

 そんな二人の時間を裂くように鐘の音が響く。鐘の音が鳴り終わればまだ花火はやりたい事があったかのか実に不満気だ。

 

「そろそろお別れの時間だね。花火としてはもうちょっと遊んでいたいけどぉ…ざぁんねん。やらなきゃいけない事もたくさんあるから、今日はここでおしまーい」

 

 名残惜しさを感じる声と共に、ウェクトルの首に回された腕が解けていく、背後にいた彼女はこの広場から立ち去る為に彼の前に立つ。

 

「あっ…あと、お近づきの印にこれあげる」

 

 そう言って、花火は完全に油断し切ったウェクトルに何かを装着させる。

 髭の付いた眼鏡、公衆で付けようものなら一目置かれるような浮世離れした巫山戯たアイテム。

 

「またね、次会ったら一緒にダンスしよ、約束だよ〜」

 

 満足した様子の花火は、軽い足取りでその場を去ろうとする。

 

「はいはい、会えたらな」

 

 自由奔放な彼女に、ウェクトルは手を振りながら見送りをする。姿が見えなくなるのを見届けた所で、手を振るのをやめた彼だが、別の場所から躍り出るように顔だけ出した花火が現れた。

 

「絶対だからね!」

 

 そうして、今度こそ花火はこの場から消えた。一つの嵐が来たかのような忙しさにウェクトルは重苦しい疲労感を感じ、天を仰ぐ。

 空は夜のように暗い。まるで当事者の明日を阻むかのように。

 

「さて、オレも頑張るか」

 

 最弱のナナシビトは舞台の裏側から列車の皆んなを見守る。この夢に住まう民衆に眠る『人間讃歌』の心を焚き付ける舞台を整えながら。





 ウェクトル
 脅すつもりが、返って気に入られた人。
 ホタルと星がお空のランデブーを決め込んでる間、花火とダンスする事が決定付けられた。

 花火
 無敵の女。
 自分の愉悦を肯定も否定もしないウェクトルをいたく気に入ってしまった模様。普通の人ならマジ勘弁。

 ブラックスワン
 探偵ごっこに巻き込まれたお姉さん。
 花火に騙されて、ブチギレて記憶の力使ったと作者は見てます。

 サンポ
 相変わらずの不遇枠。
 ダメ元でウェクトルの助言通りパブの樽を漁ってみたら仮面を見つけてご機嫌な男。

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