旅をしたいのに周りが許してくれない! 作:どこにでもいる名無し
お前(愛が)重いんだよ!
そんな奴らの話。
彼は旅人である。数多の宇宙、数多の星、数多の人と出会いと別れを繰り返している。
彼は複数の名前を有している。時代の風景、状況に応じて合う名前を駆使する。だが勘違いすることなかれ、全ては真名であり決して偽名などではない。
彼は人との出会いを何よりも尊重している。その為時折り旅ができなくなる選択肢を選んでしまう時がある。
さて、そんな彼は次の文明でどのような巡り合いをするのだろうか…。
旅をしたいのに周りが許してくれない!
…
……
………
「旅がしたい」
「旅なら今もしているだろう」
ネゲントロピーの元盟主にしてこの星穹列車の一員であるヴェルト・ヨウは彼の願いにそう返す。
「星核なんてよくわからない物を求めて各地方を巡ることを旅とは認めない」
「…また難儀なことを」
駄々をこねる子供に頭を悩ませる父親のように、ヴェルトは額に手を当ててやれやれといった様子だった。
ここは星穹列車内部、万界の癌である星核を巡り、あらゆる星を旅する人たちで固められた組織が住むアジトのような場所である。正確には列車組と呼ばれるのだが、ヴェルトはその中でも古参に近い。れっきとした大人として今を謳歌する彼は過去に何度も並行世界を救った英雄でもある。
「そろそろ一人で旅がしたいんだよ」
「…ウェクトル、君には伝えなければならない点が3つある」
ウェクトル…とは、この雑談のきっかけを作った張本人の名前である。少年に例えられてもおかしくない中性的な顔立ちに堅固な意志を宿した瞳、そんな見た目とはそぐわない壮年な雰囲気を醸し出すのが彼だ。
ヴェルトとは古い仲である。学園では色濃い思い出を作ったり、時に騒ぎを起こす厄介人でもある。地球の崩壊現象により衰退した人類が願ったことで現れた彼だが、共に戦うこともあれば敵対することもあった。
そんな腐れ縁にも近い彼らだが、今はこうして同じ場所で時を同じくしている。
「一つ、俺はこの列車の主人じゃない。だからいくらここから出たい旨を伝えたとしても叶えることは不可能だ」
「二つ、君は星核ハンターに狙われている。理由はわからないが『星核を食す』なんてめちゃくちゃなことを可能とする君だ。一度手に渡ってしまえばどんな最悪な結末が待つか…」
「そして三つ目…これが一番重要だが、君がここから出ていくことを彼女達が許すとでも?」
ウェクトルは膝から崩れ落ちるように倒れた。どうしようもない事実に茫然自失としてしまう様は可哀想を通り越して憐れだ。
だが、それでも認めたくないのかヴェルトの膝にしがみつき必死に説得を試みる。
「頼むよ!頼れるのはお前だけなんだ!姫子に頼んでも断られたし丹恒は協力的じゃないしパムはまぁ…無理として、挙げ句の果てにはベクターも三月もたまに怖い目で見てくるしこんなのもうオレ耐えられない!」
「君の気持ちがわからないわけじゃない。だがそれでも無理なものは無理だ。それに…このくだり何回する気だ?」
プライドのプの字もない有様にヴェルトは思わずため息を溢しつつ、無情にも彼を突き放す。
「くっそー、わかってるさ。でもこうでもしてないとゲシュタルト崩壊するというか…役目ができない毎日に不安を覚えるんだよな」
「……願い、か」
「ああ、人の願いを叶えるのは俺の存在意義そのものだ。だから旅をしてる訳なんだけど、お前も知ってるだろ?」
「……あぁ、よく…知っているよ」
ウェクトルは旅人であると同時に、生まれながらにして役目を持っていた。それは『願い』。彼にとっての存在証明であり、願われれば何よりも優先すべき事項として動かなければならない。それは他人にとっては酷く可哀想に思えて、ヴェルトもまた、そんなウェクトルの生き方に哀憫を覚えていた。
不便にも感じるが彼にとってはそうではないらしく、事を済ませれば自己満足の達成感と感謝がとても嬉しいらしい。
まぁ…中には願いのせいで旅が永遠にできなくなりそうなものもあるのだとか。
「さってと、満足したしパムと戯れてこようかな」
ヴェルトは何か思う所があったのか思案する様子を見せていたのを他所に、ウェクトルは車内のメンテナンスを行っていたパムの所へ向かってしまった。
気付けば一人、心寂しく感じたヴェルトは窓を覗き見る。
様々な人生を歩んだ彼にとって、こうして旅ができるのは感慨深いものだった。新たな土地、新たな知見、そして新たな発見と。まだ見ぬ冒険をこの歳になっても胸躍らせている。
「ayuy……いや、今はウェクトルだったな。同じ旅路に彼がいるのは妙な気分だ」
中でも、ウェクトルという存在は自己での行動を重視した人であるため、元いた世界でも共に行動するのは数える程しかなかった。故に、一緒に星核探しの旅ができるのに対してらしくもなく嬉しく思っている。
恩人であり恩師でもある。ヴェルトにとってウェクトルという存在は言葉では言い表せない重い感情の対象なのだ。向けられてる本人は欠片も気付いていないが。
「彼女達が手放さないのと同じで、俺もこれ以上自己犠牲で傷付くのは見てられないんだ。…約束でもあるが」
思い浮かぶは天真爛漫でわがままなおてんば娘。騒がしくも実りある一時を思い出し、自然と頬が緩む感覚を自覚する。
「願わくば、この旅に群星の導きが在らん事を…だな」
ベクターは女です。
女性サイドを書く場合、どんな感じ?
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重めの病み
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