旅をしたいのに周りが許してくれない! 作:どこにでもいる名無し
すごい期間空いてしまいましたけど、こんな小説を心待ちにしていただける方はいらっしゃいますでしょうか。
あたしの故郷はスウォームの攻撃によって存続の危機に瀕していた。
虫の潮の災い。スウォームの群れによって構築される災害に対抗するため,遺伝子改造を受けた戦士「鉄騎兵団」を作り出したが、それでも虫の勢いを止めることはできなかった。
「鉄騎兵団」の一人「AR-26710」のサム。数あるクローンの一人にして、使い捨ての雑兵。生まれながらにして戦士としてのレールを敷かれたあたし達は現在スウォームとの交戦でその命を散らそうとしていた。
『ハァ…ハァ…』
空を覆い尽くす程の蟲の群れ。止むことのない同士の通信を聞きながら、多くない体力を振り絞って拳を叩き込む。しかし多勢に無勢、いくら倒そうと頭目を潰さなければ無限に湧くスウォームに、やがて対処しきれず体当たりが直撃してしまう。
『立て、目標はすぐそこだ…。包囲を突破しろ!』
『はい!』
指令、あるいは激励か、その言葉と共に強い返事と共に戦地を駆ける。有象無象の虫を灼き、大元を潰すためあたし達は走り続ける。
そして、それはいた。
佇むようにして現れる山を思わせる程大きな虫、スウォームを束ねる指令にしてこの星を喰らう元凶。あまりの巨大に、本当に倒せるのか疑心を抱いていると。
『これを受けとれ』
『これは…』
渡された端末、あたしはそれに見覚えがあった。
『合図をしたら起動しろ』
何かを問う必要もなかった。この端末を渡す時の彼の雰囲気はこの戦場で誰もが抱く死に対する決意だ。
戦地へ赴く同胞を止めることはできず、気づけば手の届かない距離まで向かっていた。
「グラモス軍規第22条:死を含む己の一切を女王陛下に捧げるべし」一人の戦士として、サムは決死の覚悟を胸に抱き、戦場に望む。
その後ろ姿に、ただ手を伸ばすだけしか出来ずに…。
だが、決死の覚悟も誰もが予期しない乱入者によって霧の如く霧散した。
空気が変わる。虫に覆われた暗い空が更に黒く染まる。星が崩壊の訪れを祝福する。それは世界が変わったかのように星々が点在する宇宙へと変化するのを受け入れるように。
『…ッ!』
黒い渦、空間そのものに風穴を開けたようなソレへと大気が吸い込まれていく。蟲はちりぢりに、螺旋を描くように吸い込まれていく。
風が不規則に乱れ、宙は星空に包まれていた。突然の事で見上げることしかできなかったあたし達も自身に置かれてる状況を振り返り、最大限の抵抗を見せた。
このままじゃ、あの虫達のように吸い込まれる…!
鉄騎の出力を上げ、ブラックホールを想起させる渦から遠ざかる。呑まれそうになる同志の手を掴む仲間もいれば、逃げるので精一杯でそれどころじゃない仲間もいた。
虫との死闘も、原因不明の天災によって事態は急変してしまった。
『あれは何なのですか!?』
『恐らくですがっ一時的な災害の一種かと…っ!』
それはある種の懇願、そうであって欲しいと考えての根も葉もない推察。
しかし、それは違った形で裏切られることとなった。
『!?…穴から正体不明の外来種を確認』
『そんな…この非常事態に』
只ならぬ威圧感、底知れぬ怖気、およそ人智が理解を拒む形状をしている。スウォームよりも圧倒的な存在が舞い降りた。
八枚の不規則に蠢く翼、先端に開口部と思わしき形をした腕、宇宙をそのまま模ったかのような体色に、長い首に沿って規則正しく並び立つ無機質な丸い目。
簡素な見た目に狂気を内包したかの様な見た目、その姿は紛れもなく、龍そのものだった。
[るるるるるる……]
…勝てない。
あたしは瞬時に悟った。アレに歯向かってはダメだと。生き物としての格が違いすぎる。個体維持本能がこれでもかと警告するのを他所に、ただ私はその生き物がこの地に降り立つ様を眺めることしかできなかった。
黒い渦によってスウォームの数が多く減らされた。それは喜ばしいことだ、しかしそれ以上に目の前の存在は私達に立ちはだかるスウォームを遥かに上回っていた。
黒き龍は宙に留まり何もしない。スウォームも警戒してか、周りを飛び回るだけで何もしない。そしてあたし達も先の黒い渦による陣形の乱れを直す姿勢に入るだけで何もしなかった。
そんな停滞した時間も瞬で解け、スウォームの数匹が黒き龍に突撃をかます。
その鋭利なツノによる突進が巨躯に衝突する。
はずだった。
バヂッッッ!!
暴風の二文字が相応しい程の風が吹き荒れる。
襲いかかるスウォームを尻尾で追い払おうとしたのだろう。しかしその尻尾による一撃は余りにも殺意に満ちていた。
緩慢なようでありながら実際は俊敏、直撃した虫達はその衝突で地面に叩き落とされることもなく、原型を留めていない所か残骸の一つも残されていない、質量すら消しとばすだけの威力が備わっていた。
未だあの龍の行動原理は掴めない。虫を滅ぼす手伝いをしてくれるなら願ったり叶ったりだが、もし特に意味のない暴力を振るいに来たならば、あたし達はいよいよ死を覚悟しなければならないだろう。
『…か…しろ!おい、聞こえてるか、しっかりしろ!』
身体を揺すられ、気を取り直す。
『…すみません、呆気に取られていました』
薙ぎ払うのを皮切りに、例の存在は天に向かいその口を開く。
『ッ!!ヤツが動き出した!総員撤退!』
あたし達はその指示を聞いて言葉通りの行動を取る。しかし、突然の事態にパニックになり、それどころじゃない者もいた。
例の存在…いや、ここは黒い龍と称するべきか、ソレは裂けんばかりに開いた口から黒い球を生成していた。
『スウォームが…吸い込まれていく…?』
黒い龍を中心に渦が生まれる。空に浮かぶ雲すら螺旋状に渦巻き、周囲を飛び交う虫達は引力に引っ張られてその球に潰されていく。必死に抵抗しようとも、無慈悲に処理される光景は筆舌に尽くしがたい。
やがて、黒い球が生成した主と同等の大きさに変われば、黒い龍は使令に向かって無造作に放り投げる。使令は巨躯を用いて全力で回避しようとしたが、残念なことにその大きさが災いして着弾してしまった。
使令が黒い球と共に吸い込まれる。脱しようと踠いても叶わず、圧倒的な巨体が圧死潰されるように破砕音と共に吸い込まれていく。最後の足掻きなのか繁殖を試みるが、使令程の大きさを持たないスウォームは黒い球によってすぐさま吸い込まれては消えて逝く。
『まるで拷問ですね…』
スウォームはあたし達の敵だ。今までの被害を振り返れば到底許すことはできない。だが、ゆっくりとその身体が潰されていく拷問のような光景に、思わず哀れみの目を向けてしまった。
『…ご無事ですか…?』
『あっ…ああ、なんとかな』
横たわる同胞に言葉をかけ、安否を確認する。よかった、生きていた。
『アイツ…見た目の割に器用なことしやがる』
『それはどういうことでしょうか?』
『あの球…スウォームを吸い込んでいるが、俺たちは被害を被っていない。俺たちなんかより後方に位置するスウォームだって吸い込まれてるにも関わらずだ』
言われてみて、周囲を確認すれば、そこに黒い球によって吸い込まれていく同胞の姿は一人もいなかった。この行動に何の意味が含まれているのかは知らない。だが散らばっているあたし達をあの黒球から発せられる引力を自在に操作し、スウォームだけを取り込む芸当は、見た目にそぐわない聡明さと器用さを感じた。
それについて答えを出すならば、こうとしか考えられなかった。
『私たちの存在を認知している…と』
『じゃなきゃこの現状は説明が付かない』
そうであってほしいという欲も含めた解釈に、周囲は同調していた。
黒い球が宙に浮かんでいる。それは使令をも飲み込み、無数のスウォームすら凝縮させた命の球。
ソレに黒い龍は口を大きく開き、食す。此方を見向きもせず、ただスウォームを平らげるだけ、そこに感情の色はない。いや、そもそもあの造形に感情を表す機能は存在するのだろうか。
『どうやら…食い終わったようですね…』
平らげ、嚥下する過程を終わらせれば、黒い龍は何か探すような仕草で周囲を見渡す。お目当てのものが見つからなかったのか項垂れて、こっちを見た。
ゾワッ
視線を向けられただけで死を感じる。これは、スウォームの頭目を目にしても中々ない経験だった。
何かされるなら、いっそこっちから…。
そう考える鉄騎兵もいた。だが結果的に何もしない。できなかった。
『……』
ただ見つめるだけ、感情という機能とは程遠い無機質な頭部の宝玉のような紅い目がこちらを覗くように見ていた。そして長く見つめられる視線が、何故だかあたしに向けられた気がした。
『…あの!』
その視線の意味を知りたくて、絞り出すように声を出した。この子を前にすると怖い。それは勇気を出してる今も変わらない。でも気になる。どうしてか寂しそうにしていたから。
『助けてくれてありがとう…』
言葉が通じるかはわからない。それでも礼を言いたかった。
黒い龍は何をするでもなく、その翼を広げて空へと駆ける。まるで知りたいなら追ってみろとでも言うように。
嵐が過ぎ去る。その事実に安堵を隠さない人達の中で、あたしは何処かへと飛んでいくあの子を目に焼き付ける。
『あたし…あの子を追いかけるよ』
誰に言い聞かせるでもなく、その決意を語る。
ーーー
事の経緯を経て、ホタルは夢の地と呼ばれるピノコニーで星と行動を共にしていた。
「懐かしいなぁ、今頃何してるんだろうあの子」
「好きなんだね」
「当たり前だよ!故郷を、あたし達を救ってくれた大恩人なんだから」
昔話を語るホタルを見て、星はそんなことを呟く。
あの子を追いかける中で成長していくこともできた。故郷であるグラモスから抜け出すにはとても苦労したけれど、スウォームの件で組織体制は大きく瓦解したことで、群青の星空へと旅立つことができた。
ホタルはとても充実した人生を送っていた。
「おー、星。こんな所で何やってんだ?」
そんな二人の元に、思わぬ来客が訪れた。
「あっウェクトル」
「えっと、知り合い?」
星と行動する中で、見知らぬ男の人が現れた。
中肉中背、宇宙を思わせるような暗く…碧く、そして黒い髪。中性的な顔立ちの白と黒のオッドアイの少年。その肩にはやや大きめの手提げバックを掛けていた。
「うん。ウェクトル、私と同じナナシビト」
ホタルは星の発言で納得した。
カフカと銀狼が彼の名前を口にしていたのを思い出したのだ。確か仲間に引き込めれば脚本も大きく事が運ぶとかなんとか。
「あー…ひょっとしなくても邪魔だったか。悪いな、さっさと消えるわ」
彼は二人の様子を見て察したのだろう。すぐに去ろうとするが星が裾を掴んで離さない。
「私は気にしないよ。話したいことも山程あるけど、その前にそのやたらと大きいバックは何?」
「気にしないって…お前が気にしなくてもそっちの子が気にするだろう。あー…それでこのバックに関しては…まぁ、仕方なくだな」
手提げバックがもぞもぞと動き始めたかと思いきや、珍妙な生き物が顔を出す。長い首に根本まで続くツギハギの口、赤く丸い複数の目。
ホタルはその生き物に見覚えがあった。
「あーーーー!!!!????」
「わっびっくりした」
「素っ頓狂な声上げてどうしたの」
突如、叫声を上げたホタルにウェクトルと星は意識を向ける。しまったと恥ずかしさのあまりに口を押さえて黙ってしまったホタルだが、見てみれば顔も真っ赤だ、星の知り合いとはいえ初対面の人に自身の痴態を見せてしまったのだ、それも仕方ないだろう。
「あっ…えっと、…ごめんなさい、その子…」
「…あれ、ひょっとしてヴァルツェスの知り合い?」
ホタルの記憶の中に宿る黒い龍は、至大にして他を圧倒する殲滅力を誇る力の象徴そのもので、同時に巨躯に似合わないペットの様に愛嬌のある生き物だった。
それが今はどうした、目の前にいる彼の黒い龍は。人一人が抱けるくらいの小さなサイズでこちらを見ているではないか。
別の個体という可能性も視野に入れたが、そんな区別をホタルができるわけもなく、何より別の思考でいっぱいだった。
…抱きしめたい…っ!
例の一件で愛嬌も恩も感じている彼女の心境は複雑だ。
「驚いた。その子小さくなれるんだ」
「そういや星には言ってなかったな」
「かわいいね。ほら、エサあげる」
悩むホタルを他所に、星はいつの間に取り出したのか骨だけ残された魚をヴァルツェスに与えようとしていた。星のことだ、ゴミ箱を漁った際に拾ったのだろう。
ヴァルツェスは当然それを拒否。赤黒い靄のような吐息を吐き、魚の骨を塵へと変化させた。
「私のゴミフードが…」
「変なもの食わせるなよな」
相棒に対してゴミを食わされそうになり、不満を溢すウェクトル。この一件でヴァルツェスは星に対して苦手意識を持ち始めるが、そんなのこの場では知ったことではない。相変わらずだなぁ…なんて微笑むホタルも落ち着いたようで、自己紹介も兼ねて話しかけた。
「えっと、星がお世話になってます…でいいのかな?」
「おう、こちらこそよろしく」
「さっきは大声出してごめんなさい。それで、その子に関して聞きたいんだけど…」
「あぁ、ヴァルツェスの知り合いだっけか?」
「その子には前に助けられたから…」
ホタルにとって故郷から飛び立つ理由になったそれは恩義だった。スウォームから守ってくれた黒い龍に会うため、そしてロストエントロピーの病の解決の為、星から旅立つ際の問題は大変だったが、今となっては「サム」として作られた兵士は全員自由の身となり各々が違う星で余生を謳歌している。
あの星で生きる為に戦った兵士は皆ヴァルツェスに感謝していたのだ。
「あの時はありがとう…これが言いたかったの」
[………]
面と向い、礼を言えば、ヴァルツェスは首を伸ばしてスンスンと嗅いできた。
「驚いた。初対面の人には絶対にやらないのに、ヴァルツェスも君のことが気になるみたいだ」
「えっ!そ…それは…嬉しいな…」
「うんうん、オレも親として嬉しい限りだ。お父さん嬉しいぞ」
ヴァルツェスが自身を覚えていたことが嬉しくて、頬を赤らめていたホタルだったが、先の発言により場の空気が固まってしまった。ウェクトルから発せられた爆弾によってホタルは笑顔のまま硬直してしまったのだ。親と聞けば飼い主を想像するが、今のホタルは思いがけない再開に頭が混乱して思考が普段よりも下回っていた。
「……お父さん?」
「うん。お父さん」
情報の錯乱。短い時間の中で掘り起こされる情報の多さに眩暈を起こすが、なんとか言の葉を紡いでいく。
呑気なことに星は理解していないため、ただ塵と化した魚の骨のなれ果てに対して目尻に涙を溜めて合掌を送っていた。
「えっと、それは飼い主ってこと?」
「飼い主というか…生みの親」
「あはは、面白いジョークだね」
頭の痛くなる話に、ホタルは冗談として受け取ることにした。言われた当人は「そりゃ信じないか」と納得もした様子だったが。
彼は心底嬉しそうにヴァルツェスの頭部を撫でる。心なしか誇らしげだ。その姿を他所にホタルは呆気に取られていた。
行動理由の一つである出会いたかった存在が思いがけない場所で出会えたのはもちろん嬉しい。嬉しいのだが…些か情報が多すぎる。
ホタルは兵士として暮らしていた分、学がない。ゆっくりと迫ってくる情報の渦、故にこの時間で得られた情報に理解が追いつかず、やがてホタルは______。
「あひゅう…」
目を回して倒れてしまった。
「わっ!倒れちゃった!」
「ホタルどうしたの、ゴミ食べる?」
それは食べない。
ヴァルツェスにとっては食べ放題のバイキング気分でした。
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