旅をしたいのに周りが許してくれない!   作:どこにでもいる名無し

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 新年明けましておめでとうございます。
 私は新年早々幸先悪くて小説書くのも怠くなってました。
 でも書きます。好きですから。


オンパロスでの一日

 

「これより!第○回腕相撲対抗オンパロス一大会を開催する!」

 

 腕相撲、それは男が男たらしめる部分を競う純粋な競技。己を磨き、他を喰らう精神性で以って行われるこの戦は、今此処で新たな幕を開けようとしていた。

 

「何故こうなった」

 

 一面野郎どもの中で、丹恒は当然の疑問を口にする。彼が来た頃にはこうなっていて、周りの喧騒は彼の心情などつゆ知らず騒ぐだけ騒いでいた。

 

「優勝した方にはなんと金のゴミ箱像が贈呈されます!売れば懐も温まること間違いなし!」

 

 司会者が示した先には、透明なガラスケースに囲まれた純金のゴミ箱、しかしそれはただのゴミ箱にあらず、人の手足を有し、雄々しくも勇ましい姿で世を魅了するポージングをとった世に二つとない金色のゴミ箱である。

 

「今あの司会者売るって言った?」

 

 観客とは別に複数人が座る席には星が聞き捨てならないといった様子で立ちあがろうとする姿があった。

 

「何故お前がそこにいるんだ」

 

 当然の疑問を口にする丹恒だが、正直な話予想は付いているのだろう、呆れと諦観の表情を浮かべていた。

 

「それはオレが呼んだからだよ」

 

 いつの間にいたのか、横に並んだのはウェクトルであった。

 今回、こうして開かれた大掛かりな腕相撲は彼がオンパロスで行われている娯楽を話に聞き、せっかくだからと自分の希望としてアグライアに頼み込んで開いた祭典であった。

 結果は大盛況、色んな人たちが集まり、その行事を楽しもうと熱を上げていた。

 

「怪我人もヒアンシーに頼めば治してもらえるから安心して暴れられるよ」

 

 彼女の性格も相まってすぐに了承してくれたのは助かった。実際は「なんでもするから」の言葉に負けたヒアンシーだったのだが。

 

「用意周到なのは結構だが、星を甘やかすのはあまり…」

 

「いいじゃん」

 

 この催しにどれだけの意味があるのかは知らないが、星の自由行動には他者を引かせるような問題行為もあるのだ。この場の熱気に当てられて何かやらかさないか気が気でない丹恒は諌めるように話すとウェクトルは自らの言葉で止めさせた。

 

「紛争続きでみんな辟易してたんだ。たまには息抜きできる機会がないとどっかでその鬱憤が爆発しちまうよ」

 

「ウェクトル…」

 

「だからさ、丹恒も一緒に参加しようぜ?そんでオンパロスに俺達の実力を自慢するんだ!」

 

 そう言って、彼は手を差し伸べる。

 相変わらず引っ張るのが得意な人だ…と何処か浮つく感覚を覚える丹恒。しかし、一つだけ疑問に思う部分があった。

 

「司会者側じゃないのか」

 

「ふっふっふ…丹恒、男には譲れない戦いというのがあるんだよ」

 

 暗に「ウェクトルに誰かと腕相撲できる力はないだろう」と語る丹恒に彼は得意げな顔でそう語る。

 

「男と生まれたからには誰でも一生の内一度は夢見る『地上最強の男』!それを証明するためにこの大会を開いたんだ!」

 

 時折り見せる奇行が発揮したのだろうと丹恒は目を伏せて眉間に手を当てる。こうなったウェクトルは止まることを知らない。止めてもいいが、こうして馬鹿をやるあの人を見るのも悪くないかと目を瞑ることにした。

 

「それじゃ、水分補給してくるからまたな〜」

 

 そうして、ウェクトルは飲み屋で売り子として働いているなのかの元に行き、雑談をし始めた。その光景を遠巻きに見ながら、丹恒も意を決したように自身の手の平を固く握りしめる。

 

「地上最強の男…か」

 

 その眼はいつも通り冷淡冷静怜悧な様子を見せている。

 だがどうにも、彼も男だというのがその先の行動を示していた。

 

 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 大会の流れは円満かつ、つつがなく進んでいた。優勝景品はアグライアの金糸による全方位の警戒網によって常に見られてる上、ウェクトルの半身が見張っていた。これにより物理的な接触はおろか、概念的な方法での入手はヴァルツェスが探知してその首根っこを掴みに行くだろう。どっかの泥棒猫に金色のゴミ箱が盗まれることもなくこの大会はお互いを称賛し合う男気溢れる場と化していた。

 その様子を微笑ましく笑う看護師もいれば、首の後ろを黒い龍に掴まれた状態でうんざりしてる泥棒もいた。

 同様に、この大会を開いた張本人ものほほんとした顔で眺めていた。

 

「いや、流石に呆気なさすぎない?もうちょっと頑張ってよ!」

 

「そんなこと言われても、なのかも見てたろ?アレが俺のザマです」

 

 わかっていた、という諦観もあったがまさかそこまでとは。ジト目で睨むなのかに、自身の情けなさを悲しく思いながら、誰が勝つのか予想をして楽しむウェクトル。

 

「流石に女の子に負けるのはどうかと思うよ」

 

「あんなかっこいい大鎌振るうだけあって強かったなぁ」

 

 …

 ……

 ………

 

 それはウェクトルが大会に参加して始まる第一試合、対戦相手はこのむさ苦しい男衆の中で珍しい美少女の参加者であった。その名はキャストリス、触れれば死ぬので腕相撲では無類の強さを誇る彼女だが、その対戦相手もその権能が効かない人間だ。

 筋肉自慢の男達もこのマッチに息を呑んで見ていた。主にウェクトルが勝ってくれないとこの大会自体が破綻する、という意味で。

 

「ふっふっふ、キャストリス。悪いが君にはここで落ちてもらう」

 

 不適な笑みを浮べて、その土俵に上がる。そう、ウェクトルには確固たる勝ちを予測していた。彼女の権能の影響を受けない自分なら彼女に勝てると。

 

「ウェクトル様…負けません」

 

「準備は良いか?それでは…始め!」

 

 そう、その考えは正しい。

 だが、そもそもの前提条件が大間違いだったのだ。

 

「あっあれ…」

 

「………」

 

 ウェクトルの腕は、本人がいくら力を入れようともびくともしない。動かざること山の如し、キャストリスの細腕からは想像のつかない重さがウェクトルの進行方向を妨害していた。いくら力を入れても華奢な腕は進行方向に曲がることはなく、ただ彼の手を力強く握るだけ。

 彼女の顔は至って真剣だが、自身に握られている手を見て離さない。

 

 はっとした顔で握る手から視線を離せば、そのままゆっくりとウェクトルの手を倒していく。それはさながら処刑を執行される囚人のようで、外野も「あぁ…」と嘆きの声を露わにしていた。

 

「あっ…アーーーー!!」

 

 あっけなく敗北、情けない姿を晒したウェクトルも倒れ伏し声を上げる。しかしどれだけ彼が行動を起こそうとこの勝負における勝敗は決まっている。負けの印を押された人間は潔く受け入れる他ないのだ。

 

「……」

 

 キャストリスはその手に残る温もりの余韻に浸っていた。ステュクスの生まれとして孤独を強いられられた彼女の人肌に対する執着は並ではない。その中で何の気兼ねもなく触れてくれるウェクトルの温かさはキャストリスに小さくない依存心を宿していた。

 この度の腕相撲だって、キャストリスはもっと早く終わらせることができたにも関わらず、少しでも長くその温もりを感じていたいが為に、懸命に腕に力を込める様子を眺めながらその手をにぎにぎしていた。

 

「あっそっかぁ…いくらキャストリスの権能が効かなくてもそもそも力がないから勝てないや…」

 

 その事実に彼は意気消沈し、暗い影を残して項垂れる。

 

「ふんっあれだけ息巻いてこの様とは、とんだ拍子抜けだな」

 

「こらメデイモス、親友に向かってその口ぶりはないだろう?彼なりに奮闘したんだ、そこは評価しようよ」

 

「お前ら聞こえてるからなぁ?」

 

 モーディスとファイノンの小言に反応して食ってかかる。

 

「そもそも、キャストリスに勝てたとして、その次の試合で負ける可能性は考えなかったのかい?」

 

「うっ…うるせぇやい!誰も勝てないキャストリスに勝てればそれで最強なんだよ!」

 

「うわっ発想が幼稚」

 

 言いたいことはわかる。だがそれでいいのか?周囲の感想は一致していた。イメージと違う彼の反応に黄金裔の面々は評価を改めて、それぞれが持ち場に戻っていく。

 若干拗ねた素振りを見せるウェクトルにキャストリスが近づいてきた。

 

「ウェクトル様……すみません」

 

「ん、まぁ気にしなくていいよ」

 

 申し訳なさそうなキャストリスを宥め、倒れた際についた土埃を払っていた。

 キャストリスも、この大会を楽しもうとしていた彼に対し罪悪感を抱いていたが、ウェクトルは然程気にしていなかった。いや、人の痴態を見て大笑いする面々には嫌がらせの一つでもしてやろうという気概はあったが。 

 

「キャストリス、オレの分も頑張ってくれよ。応援してる」

 

 負けた悔しさはあれど、キャストリスの躍進に期待を込めて握手を求める。

 

「ご期待に応えれるよう、尽力致します!」

 

 そのすぐ後に、司会者から出禁を言い渡されて不戦敗で終わってしまうのは、まぁ詮ない事だろう。

 

 ………

 ……

 …

 

 なんて事もあり、今は観客席で人の活気を眺めているわけだが、なのかはどうも不機嫌な様子を隠さなかった。

 整った顔から繰り出されるジト目は、向けられている張本人に少しずつ揺さぶりを与え、仕舞いにはその理由を話した。

 

「その割には随分と長く握ってたよね」

 

「…ん?言われてみれば、あんなあっさり決める力があるのになんで早く終わらせなかったんだろう」

 

 言われてその事実に気がつく。キャストリスが自分より強いのは明白なのに、何故あのような遅延をしたのか本気で疑問に感じていた。

 そう、事もあろうかこの男、キャストリスから向けられる視線に気がついていない。長生きしてる癖して人に向けられる恋慕といった好意的な感情はlikeの意味でしか知らない。歓喜も憤怒も悲哀も、感情の機能として理解しているにも関わらず、人が自分に対して親愛以上の感情を持つのはあり得ないと本気で信じている。

 望まずしてその事実を理解したなのかはコイツまじか…と顔で訴えているが、欠片もウェクトルには伝わっていなかった。

 

「昔だったら、こう…隕石をバットで打ち返すことだってできたのに」

 

「冗談にしてももうちょっとまともな嘘ついた方がいいと思うよ、仮にそうだったとしてもどうしてそんなに弱くなったのか不思議なくらい」

 

「いやぁ…色々とな、あるんだよ」

 

 語る必要があるとは思わない。死んで蘇ったなんて説明して何の意味があるのか。

 それこそ語り手として自信より上手いヴェルトに任せた方が幾分か面倒も省けるだろう。そういう時が来たなら是非協力してもらおう。

 

「とりあえず!次の選手が来るぞいやー誰なんだろうな!」

 

「露骨に話逸らしてるじゃん、もー」

 

 なのかと話してる間も大会は進行していた。外野からは「細マッチョにこのゴリマッチョの俺が負けた!?」「イケメンで強いのね、嫌いじゃないわ!」と騒いでいる。何事だろうと考えるも試合は始まり、噂の人物が壇上に上がった。

 

「…腕自慢丹恒だ」

 

 丸型の黒サングラスをかけ、頭に噴水を模った被り物を着けた丹恒擬きがそこにはいた。いや丹恒だが。

 

「なんだかんだで楽しんでて何より」

 

 司会者の勇ましい掛け声と共に交わされた腕に力が解放される。腕相撲大会は未だ始まったばかり、その光景をウェクトルは実に嬉しく見守っていた。

 

 

 続かない





 

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