旅をしたいのに周りが許してくれない! 作:どこにでもいる名無し
スタレがやれてない影響か、モチベが下がってましたが、銀狼LV999の演出を見て上がったので投稿します。
嗜みの一つとして、チェスは数多くこなしたことがあるウェクトルだが、その実力は強いとは言い難い。
戦況を見極めても、それでも高望みしてキングを取ることしか考えないスタイルはヴェルトはおろか、聞き齧った程度の人間ですらあしらわれるレベルで、つい先日なのかに負けてその代価を支払う羽目になった。
そんな彼だが、現在チェスを苦い顔で睨んでいる最中であった。
自身の駒の数、相手の駒の数、それらを参照してできる一手を思案し、その果てに得た結論が今の表情であった。
対して、優雅に寛ぎながらその光景に愉悦を覚えているのは流麗な所作から想像もつかない幼い外見の少女であった。
「随分と悩んでいるな?言っておくが僕の時間を長引かせるのは何よりも重い罪だぞ」
「………誘ってきたの、そっちなのに?」
愉快この上ないと言った様子で見下ろす少女はオンパロスにおける法の黄金裔であるケリュドラ。類稀なる才と努力によって拾われた身からこの地位まで成り上がった権力者だ。
その偉業を本人から聞かされたのもあってケリュドラに対する評価は疑問に尽きた。
なぜ、そんな偉い人が出会ってもない赤の他人にこうも接してくるのだろうか?と。
答えは簡単で、彼が知るはずもないのはそうだが、ケリュドラ自身も前の記憶を持ち出すつもりはない。
記憶がないなら結構、まっさらな状態からもう一度関係構築をするだけだとこうして二人だけのチェスに勤しんでいる。
「聞くに道化卿、何やら奇怪な方法で姿を変えることが出来るそうじゃないか」
悩む時間に暇を持て余したのか、はたまた彼の集中力を散漫させようと動いたのかは知らないが、ケリュドラはふと思い出したかのように呟いた。
「誰から聞いたのかは大体想像できるけど、今のオレじゃ質量を無視した姿に変わることはできないよ」
怪訝な顔をしながらも、その質問に答える。大方ベクターとかに聞かされたのだろう、一発芸でゴミ箱に変身した記憶は新しい。その後に入ろうとしてきたのは断固として止めたが。
「たとえば?」
「…うーん、ケリュドラと同じ背丈、今より子供ぽくなるなら簡単に出来るかな」
コトリ…。弱弱しく置かれた駒にはこの局面でこの動きは正しいのか疑問に感じる所作があった。
その内容に、ケリュドラは興味を持ったのか目をぎらつかせ、手持ちの駒を力強く盤に叩きつけた。完全なる王手、ウェクトルは反応できない。彼の負けである。
「決めたぞ。この勝負、僕が勝ったらその姿になれ」
「えー!賭け事は試合の前に決めてくれよ。というか賭ける話すらしてないんだけど?」
「黙れ、僕がルールだ」
「ジャイアニストが過ぎる…」
あまりの横暴にウェクトルも異国に伝わる俗語でケリュドラの行いにドン引きしていた。元々、そういう人物なのは知っている為憤慨するなんてことはないが、相変わらずの自分主義に辟易しているのも事実。なんとかならないかと思案しても、それが彼女の良さなのだと受け入れてしまった。
「なに、ただ僕に卿の痴態を見せてくれるだけでいいのだ、これ以上に良心的な賭けもあるまい?」
「よく言うよ、賭けとか言って堂々とイカサマしてるくせに」
普通のチェスならよかった。いや、普通のチェスでも弱いのだが、それよりもケリュドラが用いるルールには自身の持つ駒に特殊な特性を有した物があった。
それがまぁ厄介。
案の定というか、普通に負けたウェクトルは若干不満気だった。
「本当にやるの…」
「当たり前だ。それともなんだ、代わりに卿が己が身を捧げるとでも?」
「はぁ、わかったよ」
嘆息して、仕方ないといった様子で上着を脱ぎ、上半身を半袖一つにすると、変化は始まった。
みるみると肉体が縮む。骨格も肉付きも変わっていき、最後には翻した上着と共にその姿が顕になった。
その姿はどう見ても子供、庇護欲を擽る姿とは別に変わらない鋭さすら持った真っ直ぐな瞳。ケリュドラと変わらない背丈をしたウェクトルが自身の体を確かめながら立っていた。
「…とまぁ、こんな感じかな」
ほぅ…と溜息を吐く、思わずといった様子のケリュドラは口に手を当て、何かを吟味するかのような視線で見やる。自身とそう変わらない背丈の知人は彼女の周りには少ない。新鮮な感覚で珍しいモノを見たような感慨と共にケリュドラは近づいた。
「まさか、卿に斯様な幼姿があったとはな。中々様になってるじゃないか、これからはその姿でいたらどうだ?」
「君の前で言うのも憚られるけど、この姿は不便なんだ。」
「これじゃ届く筈の本棚にすら手が届かない」なんて言葉を付け足しながら、サイズの合わなくなった上着を羽織る。
今の状況を見れば、幼い少年と少女が背伸びをしてチェスをしてるような光景だ。実に珍妙である。しなしお互い、そのような年は大きく離れている。
「まぁでも、こうやってケリュドラと同じ視点で世界を見れるなら、悪くないかもな」
僅かに、指の動きが止まった。チェスに向けていた目は何処か遠くを見るように細められ、駒を置いた。
「随分と懐かしい事を言う」
ウェクトルには、この世界が何度もやり直しを行なって、自身がこの星の人達との交流を行っているのは理解していた。原因の鉄墓には辿り着いていなくとも、ケリュドラとこうしてチェスをするだけの仲を築いた過去があるのだと、記憶のないウェクトルでも理解していた。
「君と会ったのはつい最近だと思うんだけど」
「あぁ、わかっている。だが…ふむ、ここまでの業を重ねて記憶を無くして逃げようとするとは…僕としては好都合だが」
「政治家が怖いこと言ってる」
昔の話として、法の黄金裔であったケリュドラはその卓越した政治手腕によって自身の国を築き上げた女性である。その見た目は力を得た代償であるがために、実年齢は思うよりも高いだろう。
政治なんて傍らで見たことある程度のウェクトルにとってこの女性兼見た目少女のケリュドラは油断ならない人物なのである。眼を通して見る彼女の持つ願いも、その全てが征服欲によって形成されている。
ウェクトル本人としては、自分のことはいいが、列車の皆やヴァルツェスを利用しようと言うならそれ相応の立ち回りを…と考えていたのは昔の話。こうしてチェスをするのもそうだが、実は隠居生活を楽しんでるケリュドラ、引き継ぎを全て終わらせて後続のアグライアに任せた彼女はこうした余興も馬鹿騒ぎとして興じるくらいにははっちゃけていた。
つい最近では権力者として堅苦しい生活から解放された反動からかその傍若無人振りが行動に出始めていた。馬鹿をやるメンツと共に噴水の水を丸々二酸化炭素が多量に含まれた飲料に変えてそこに三段構造の特殊なソフトキャンディを加えて暴発させる遊びをしたのは記憶に新しい。それで全員アグライアに土下座させられていた。
そんなこともあって、すっかり打ち解けてしまった。
「大方、前周のオレが言ったことを思い出してるんだろ?」
この世界が何度も繰り返して、その度に自身が何をしたかはわからない。しかし、こうしてみんなの反応を見て何をやらかしたかはなんとなくで理解していた。
「ああ、そうだ。外界の美しさ、その未知を知る楽しさを教えると言ったのは卿だ」
ケリュドラも、過去の彼に狂わされた者の一人だった。法の試練、課せられた犠牲の人柱を無理矢理奪う形で一身に背負った彼は世界の呪いを解き、救世に光を齎した。
繰り返される世界の中で、変則的な予測をするウェクトルは、1000年前の世界にやって来た時も、火を追う旅に緩やかな終わりを齎していた。苦痛と損失の煉獄を、輝かしい英雄の旅路として昇華させ、皆と歩む叙事詩に変えてきた。そして、輝きの果てに消え行く救世の旅も演算の一つの結果として処理された。それを知るのは、黄金裔の皆々。
「忘れるな。卿はこのオンパロスの黄金裔であり、僕だけの道化なのだから」
水色と黒、それぞれの吐く息が混ざり合うような近さで見つめ合う二人。動じることのないウェクトルに、その様子を楽しむように笑う彼女は彼の首に頚飾を包む。優しく、自身の所有物だと証明させる力強い手付きで。
「僕の臣下なら、ちゃんと首輪をつけないと…なぁ、ウェクトル」
ウェクトル
みんなの反応を見てなんとなく察した。とりあえずこの星に渦巻く問題をどうにか模索中。
ケリュドラ
道化師としてやってきたウェクトルに運命を狂わされた黄金裔。アグライアに座を任せた後は隠居生活(という名の馬鹿騒ぎ)を楽しんでいる。
今日は首輪を付けたウェクトルを連れてオンパロスを散歩したが、通りすがりのサモエド犬と灰色の小魚&etcにカバディされて中止になった。
その時はウェクトルもケリュドラと同じ背丈の子供になっていたから絵面は中々酷い。
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