旅をしたいのに周りが許してくれない!   作:どこにでもいる名無し

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パムの場合

 

 彼は旅人である。数多の宇宙、数多の星、数多の人と出会いと別れを繰り返している。

 彼は複数の名前を有している。時代の風景、状況に応じて合う名前を駆使する。だが勘違いすることなかれ、全ては真名であり決して偽名などではない。

 彼は人との出会いを何よりも尊重している。その為時折り旅ができなくなる選択肢を選んでしまう時がある。

 さて、そんな彼は次の文明でどのような巡り合いをするのだろうか…。

 

 旅をしたいのに周りが許してくれない!

 

 …

 ……

 ………

 

「よっすパムー。遊びに来たぜー」

 

 気さくな挨拶と共にやって来たのはウェクトル。とある理由からこの星穹列車に乗ることになった旅人である。

 ここは列車のラウンジ。公な休憩場所で、次の開拓地に向けての作戦会議や寛ぐ時間は、列車の中で一番広い場所であるこのラウンジで行われる。ヴェルトはまだ自室に篭っており、姫子もまだここにはいない。今いるのはウェクトルを含めた一人と一体だけ。

 

「むっ、誰かと思えばお前か。どうしたのだ?まだ朝は早いだろう」

 

 彼の目の前には一寸程の小ささで車掌のような服装を見に纏った可愛らしい生物がいた。名はパム、列車のメンテナンスを任されている存在で、ヴェルト曰く、いつからいたのか定かではないのだとか。

 

「今日は異様に目が冴えてな。それに、それ言ったらパムもだろ。ちゃんと睡眠時間確保してるのかー?」

 

 パムは現在、培養植物に水やりをしており。霧吹きで植物に潤いを持たせていた。朝早くにやるのはどうなのかと彼は思ったが、おそらくそれくらいしかやる事がないのだろう。

 

「ふんっ!パムほどの者になると睡眠など取らなくても活動に支障はないのだ!」

 

「へー、そいつは便利なこって」

 

 パムの目前まで近付けば両脇に手を割り込ませ一気に持ち上げた。

 

「わっ何をする!」

 

 パタパタと可愛い抵抗をするパムを、ウェクトルは無視して近くの席に自身の膝の上にパムを乗せて座らせる。

 

「お前が本当にそうでも、こんな早くから働くのは嫌かな。ほら、ある星じゃ過労死なんて言うように、無理が祟ったりしたらお前だって嫌だろ?」

 

「むぅ…!オレは過労なんかで死んだりしないぞ」

 

「はいはい、わかってるよ。でも今は休め、ちょうどドーナツもあるからさ」

 

「ドーナツ!」

 

 パムの大好物であるドーナツを渡せば、パムも目を輝かせてソレを受け取る。

 大層喜んでる様子に彼もまた微笑みを浮かべながら長い耳を撫でてあげた。

 

「むぐむぐっ…やはりウェクトルは優しいのう」

 

「そうかぁ?お前に優しくしてくれる人が少ないだけだろ」

 

「…そうかのぅ」

 

「……」

 

 ドーナツを一通り食べ終わればウェクトルに話しかける。彼も無難に返事をしていると、パムは曇った顔を浮かべる。パムは今まで優しくされるという行いに縁が無かった。そんな甘え下手なパムにウェクトルという甘えさせるのが上手い人が現れれば気を許すのは秒読みでわかりきっていた。そしてパムは自身に厳しい人たちで埋められた事実に内心参っていた。

 彼もそれを瞬時に悟ったのか、撫でる手を止めた。

 

「…ウェクトル?」

 

「じゃあこうしようか」

 

 パムの前に差し出されたのは小指。彼は地球に伝わる約束のおまじないを実行しようとしていた。

 

「お前が好きなタイミングで呼んでくれて構わないからさ、時折りこうして甘えさせて欲しいんだ。ベクターも開拓で大変だろうし、俺だったら好きな時間に会えるからさ」

 

 パムに優しいのは何も彼だけではない。大人しい見た目とは裏腹に頻繁にやらかすことで有名な少女『ベクター』もパムに優しく接してくれる1人だ。

 たまに、パムと戯れていたベクターの所にウェクトルがやって来て、夫婦のような漫才をしてイチャつくことはあるが当の本人達はそんな事は露ほども自覚はなく、その話はまた後だ。

 

「だからそんな悲しそうな顔するな」

 

「…うっうむ!お主がそう言うならたまにこうして甘えさせてやっても良いぞ」

 

「やったね。とても嬉しいよ」

 

 変に強がって他人の好意を無下にしてしまうのはパムの悪い所だが、ウェクトルはその性根を理解しているため自分が甘えていると言葉を変えていた。現にパムはぐいぐい来るのにたじろいで自身の両手をもじもじさせている。

 

「あと、オレは悲しんでなんかいないぞ!それに車掌は忙しいんだ、お前が思うより構ってやれる時間は少ないんだからな。わかったか?」

 

 とは言え、己が性を変えないのがパムという生物。ウェクトルがパムに構ってほしいと考えて止まないその精神性は崩れることがないだろう。

 

「はいはい、わかってるよ」

 

 強がりなパムを優しく撫で、子供をあやす父のような面持ちで接するウェクトル。

 

「こらっ!頭を撫でるなぁ」

 

「おぉ?照れてるのか、可愛い奴め。もっと撫でてやるよ。ほら、うりうり〜」 

 

「や〜め〜ろ〜!」

 

 こうして何気ない朝の一時が終わっていく。開拓の旅、星核に苛まれた星を救う旅。そのどれもが一朝一夕で終わることはない長い冒険。

 体に星核を宿す少女、記憶喪失のお気楽娘、過去から逃げるようにこの列車に乗り込んだ青年、とある一件で新たな物語が始まることになった知識人、そして…願いの申し子。

 その誰もが逸物を抱えた中で、この列車は動き続ける。明日と共に迎えるのは幸か不幸か、…少なくとも死ではないことを願おう。

 

「…大丈夫だよ」

 

「むっ?何か言ったか?」

 

「いんやぁ?何も言ってないよ」

 

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