旅をしたいのに周りが許してくれない!   作:どこにでもいる名無し

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星の場合

 

 彼は旅人である。数多の宇宙、数多の星、数多の人と出会いと別れを繰り返している。

 彼は複数の名前を有している。時代の風景、状況に応じて合う名前を駆使する。だが勘違いすることなかれ、全ては真名であり決して偽名などではない。

 彼は人との出会いを何よりも尊重している。その為時折り旅ができなくなる選択肢を選んでしまう時がある。

 さて、そんな彼は次の文明でどのような巡り合いをするのだろうか…。

 

 旅をしたいのに周りが許してくれない!

 

 …

 ……

 ………

 

 宇宙ステーション、その一角にて二つの影が歩いていた。

 

「レギオンの残党狩り、星核ハンターの件で侵入してきた件での依頼。…なぁ、これオレ必要?」

 

 ここでは、とある理由で反物質(レギオン)が侵入し荒らされた過去がある。

 宇宙ステーション所属兼所長のアスターによって幸い住民は怪我もなく避難できたが、建物の中は修理で手一杯になっている。時間も経ち、熱りが冷め始めているが反物質(レギオン)はまだ残っている。

 そこで列車組。そう…星穹列車だ。

 お人好しの彼らならきっと手助けしてくれるだろうと要請した結果、それは見事に的中した。

 

「…必要」

 

 バットにも似た武器を持つ灰色の髪の少女ベクター[星]が先頭を歩きながらそう返す。

 その後ろでがっくりと項垂れるのは旅人兼列車組のウェクトル。

 二人は今、反物質(レギオン)の処理をしていた。

 

「数が多い方が便利なのはわかる。でもそれなら丹恒とか三月に頼めばいいんじゃない?オレも…暇じゃない訳だし?」

 

 実の所、彼は崩壊現象当時程の力を発揮できない。故に当人としては迷惑をかける不安も少しはあるのだが、そんなの星にとってはどうでもいいことだった。

 

「丹恒は貯まってる本の処理、なのかは別の依頼を受けててこっちに来れない。…ウェクトルは暇でしょ?ゲームしてるの知ってるんだよ」

 

 苦し紛れの説得も意味を成さず、またもや項垂れたウェクトル。すまない友よ、今日はできそうにない…とオンラインで知り合った顔も知らないゲーム友達に謝罪をした。

 

「はいはい、わかったよ。じゃあさっさと終わらせよう、速戦即決…だろ?」

 

 気分を変え、背伸びをしてから星の隣に並ぶ。

 

「うん」

 

 その行動が彼女にとって嬉しかったのかご満悦な様子を隠しもせず頷きながら微笑んでいた。

 

 …

 ……

 ………

 

 彼女…星は星穹列車の中でもかなりの問題児だ。ゴミ箱は漁るわ、時たまとんでもない言動をするわで上げるべき点は枚挙にいとまが無い。

 しかし、そんな彼女にも大人しくなる時はある。ゴミ箱に籠っている時、そして何よりもウェクトルが彼女に構っている時は首を掴まれた子猫のように大人しくなる。

 何故か、答えは簡単で、ウェクトルは星の親代わりのような存在だからだ。人との接し方や私生活の知識まで、果てには戦闘の際にも助けの手を何度も差し伸べていた。

 そのおかげか彼がいると比較的落ち着いている。ゴミ箱を漁るのは変わらないが。

 

「送られた目的地によると、そろそろだな」

 

「そうだね…」

 

 現在、宇宙ステーション内部を歩く彼らは、星に依頼主から送られたスマホのデータを二人で共有して見ていた。共有するということは少なからず距離が近くなってしまうわけだが。

 

「その、ちょっと近い…」

 

 ウェクトルが全く気にしないで顔を近づける中、星は違う場所に視線を向けて気恥ずかしさを紛らわしていた。心なしか頬も赤くなって見えるが、そんな彼女の状態も知らず彼は手に持っているスマホを凝視している。

 

「ん?あぁ悪い。流石に近かったな」

 

 自覚したとしても大して焦る様子も無く離れるウェクトルに複雑な顔をする星。

 二人を取り巻く環境は依然と変わらずこれといった置物もないただの道。かれこれ数分歩いているが、反物質(レギオン)はまだ先らしい。

 

「そう言えば、パムがお前に会いたがってたぞ」

 

「…?あぁ、この前パムから連絡きたよ。たまには顔見せてこいって」

 

「パムはお前に懐いてるからな。定期的に構ってやれよ」

 

「ウェクトルが一緒に来てくれるなら今日でもいいよ」

 

「うーん、まぁこの仕事が終わり次第だな」

 

 そんな会話をしてる中、どうやら目的地に着いたらしい。周囲にどこからともなく現れた反物質(レギオン)に臨戦態勢をとる二人。数はそれなりに多く、十の桁はあるだろうか、四方八方から今にも襲い掛かろうとするのに二人は飄々とした様で互いに背中を預けている。

 

「なぁ」

 

「何?」

 

「どっちが多く倒せるか勝負しないか?負けた方はなんでも言うことを聞く」

 

 彼は星に競争を持ちかける。

 

「いいねソレ。どうせ私が勝つけど」

 

「へっ言ったな?」

 

 彼はニヒルに笑い、拳を強く形作る。

 

「それじゃあ…やるか!」

 

 そして、二人の蹂躙劇が始まる。

 一気に駆け出し反物質(レギオン)の群れへ、星は手に持っているバットで頭部を叩きつけ粉砕する。残心は忘れず、朽ちて行くのを瞬時に察すれば後ろで今にも得物を振り下ろそうとしている敵に姿勢を低くする事で避けつつ脚部を壊す。

 壊されたことでバランスを崩された反物質(レギオン)は不意に顔面を掴まれる。

 

「ちょうど武器持ってなかったから欲しかったんだ」

 

 ウェクトルだ。彼は乱雑に振り回して次々と倒していく。ある時はフルスイングで吹き飛ばし、ある時は盾にして扱う。そんな扱いを受けてしまい事切れたのか消滅しかけているのを確認すれば最早用済みとばかりに他の反物質(レギオン)目掛けて放り投げトドメを刺す。しかし、それだけでは終わらない。

 消えかけの反物質(レギオン)の内部から突き出るようにして現れた黒色の剣が周囲の敵を襲う。

 広範囲に及ぶ拘束により動きを止めた反物質(レギオン)にトドメの一撃を掛けようとする人物が上空にいた。

 

「槍先に火を」

 

 先程とは違ってバットではなく炎を纏う槍を構える星は群れに目掛けて空から突進を仕掛ける。その槍は地面に突き刺さり、亀裂から吹き荒れる炎は全ての敵に纏わり付き、消滅させた。

 星の一撃により依頼は達成された。

 

「お疲れ様」

 

 ふぅ…と探索して気分を変える彼女にウェクトルは労いの言葉をかける。星は優しく笑い、自分の足元を指差す。

 

「私の勝ち」

 

「…あっ」

 

 一瞬、何の事かと思考を巡らせた後にはっと気づいた彼はこれはまずいと瞬時に察した。

 

「いや、最後のアレは俺が足止めできたから出来たからであって別にその気になればお前よりも倒せた訳でそもそもあの時はお前をサポートした方が効率よく事を運ぶことができそうだと感じたからやったからこれは…ノーカンに…しない?」

 

「しない」

 

 必死に説得を試みるも無情にも拒否される。

 

「…あー!もうわかったよ、オレの負けだ。何なりと申しつけくださいお嬢さま!」

 

 半ばヤケクソ気味に口を開くウェクトルを他所に、何故か高揚してる星はどんな言うことを頼もうか考えていた。それもかなり真剣に。

 せっかくなら彼の記憶に深く刻み込まれるような内容にしたい、その一心から生まれたのは一人の思春期の少女らしい頼み事だった。

 

「じゃあ…今日一日、私と一緒にいてほしい」

 

 恥ずかしさから躊躇いがちに放たれたその発言はウェクトルを驚かせるには十分だったらしく、目を瞬きさせながら星をガン見していた。

 恐らく彼はもっと違う大きな要望を言われると考えていたのだろう。星4素材寄越せとか星玉寄越せとか言われるだろうと身構えていたがそんなことはなく内心拍子抜けしてしまった。

 

「それでいいの?」

 

「これでいい。ただでさえウェクトルは抱え込んでるから、わがままはこれくらいで許してあげる」

 

 それを聞いたウェクトルはふっと笑う。

 

「…わかった。じゃあ今日はお前と一緒に生活するか」

 

 こうして、宇宙ステーション内で時間を潰す二人は夫婦のようなやり取りをして、周りに砂糖を吐かせまくった。本人たちは無意識だから尚のことタチが悪い。今日はコーヒーのブラックがよく売れた。

 

 





 黒色の剣
 ウェクトルが持つ能力。地面から生やすこともできるし空からいきなり降らせることもできる。彼の合図でいつでも出せるので本人は便利と感じている。

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