旅をしたいのに周りが許してくれない!   作:どこにでもいる名無し

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銀狼の場合

 

 彼は旅人である。数多の宇宙、数多の星、数多の人と出会いと別れを繰り返している。

 彼は複数の名前を有している。時代の風景、状況に応じて合う名前を駆使する。だが勘違いすることなかれ、全ては真名であり決して偽名などではない。

 彼は人との出会いを何よりも尊重している。その為時折り旅ができなくなる選択肢を選んでしまう時がある。

 さて、そんな彼は次の文明でどのような巡り合いをするのだろうか…。

 

 旅をしたいのに周りが許してくれない!

 

 …

 ……

 ………

 

 自室にてウェクトルはゲームに勤しんでいた。予定では次の星核探しがあったのだが、今回はヴェルトが赴くというのもあって今日は他の人に預けることにしたのだ。

 実にどうでもいい情報だと思うが、彼の趣味は旅以外にもゲームも含まれている。なんでも「やりがいのあるゲーム程完璧に終わらせた時の達成感は半端ない」らしい。他にも「処遇クソゲーとか玄人向けのゲームもクリアした時の愉悦感は凄まじい」だそうだ。

 そんな彼は現在、マルチプレイヤーハンティングRPGをしていた。

 

「そっちに敵が行くからよろしく」

 

「あいよ」

 

 通話越しから聞こえる声に気さくな返事をして淡々と操作をこなすのはウェクトル、画面に映る彼が操作するキャラクターが迫力満点の動きを見せながら迫り来るモンスター達を順当に狩っていく。

 

「よし、これでクリアだな」

 

 プレイヤーの勝利という形で無事済ませたのを見届けるとそれまでの緊張感がどっと来たのか椅子に座ったままけのびをして体をほぐす。

 

「お疲れ様。本当は私一人でもやれたけど、このクエストマルチ専用だったから困ってたんだ」

 

「お前友達いないもんな。こうして会話しながらゲームができる仲もオレくらいのもんだ」

 

「…何度も言ってるけど、私にはたくさんの友達がいるから。人口モジュールを搭載して様々な役職を全うするバーチャルの存在としてね。そこ間違わないで」

 

「要は自分で作ったAIの友達だろ?ちゃんと肉の身を持った人間と友達になってくれよ」

 

 ウェクトルはゲームをする中で親しい関係を築いた人がいる。曰く、自分は天才ハッカーだとかで巷を騒がせている有名人らしいが、そんな事彼にとってはどうでもいいことだ。バーチャルの友達とかいう訳わからないものを作るネット越しの友達を労るのが彼にとっては楽しくて仕方がないのだ。

 

「まぁいいや、それよりこれ見てくれよ」

 

「なに?ちょっと不機嫌だから手短によろしく…えっなにそれ」

 

「ふっふっふ、さしものお前も運が絡むコンテンツをクリアするのは不可能だろ?そう、手に入れたのさ。色違いフク郎をな!」

 

 彼にしてはテンションが高く、通話相手を挑発するように話している。ゲームの中で登場するフク郎、これはコラボとして期間限定イベントで初登場したキャラである。彼が見せびらかしているのは通常とは色合いが違うレアな個体で、出てくるのでさえ一の数より低い確率なのにすぐ逃げることから、手に入れるのは天文学的数値にも等しいそうだ。

 

「………データをハッキングしてBANしてやる…」

 

 流石にこれにはクるものがあったのだろう、通話の相手は感情を含ませた声で恐ろしいことを呟いている。しかしウェクトルはけらけら笑うのを止めない。やがて満足したのか一呼吸置いてコントローラーを弄る。

 

「まぁ待て待て。ただ自慢する為に話したわけじゃないんだよ。お前が良かったら貰ってくれない?」

 

「それ本当に言ってる?ソレの希少性はゲーマーなら喉から手が出るほどの代物、今開催されてるイベントを逃せば更に難しくなるけど?」

 

「マジもマジ、大マジさ。お前にはお世話になってるからさ、これからもよろしくって意味での報酬だと思ってくれればいいよ」

 

「君、私が誰かわかってそんなこと言ってるの?」

 

「お前の素性なぞ知らん」

 

「…はぁー、ほんと、そういうとこ…」

 

 何に呆れたのか深い溜息と共にガタンと音が聞こえてきた。彼はこうして一緒に遊ぶ度に何かしら与えてくるのだが、今回は貰えるものが大きいお陰か稀有な反応を見せてくれた相手にイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべている。

 

「わかった、じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」

 

「おう!これからも友達でいてくれよな!」

 

「…でも、覚悟して。この借りは必ず返すから」

 

「えぇ…気に触るようなこと言った?そんな恨み言みたいに言われても」

 

 これまた感情のこもった声で呟く内容がおっかないのが彼を恐怖で震わせる。こういった声を含ませる彼女がやる仕返しはとんでもないのだ。格闘ゲームではハメ技で圧殺した挙句煽ってくる上、FPSといったサバイバルゲームではここぞと行った場面で手榴弾やスモークで邪魔してきたり、そんな日が五日続いた時は流石の彼も「やめて!オレのライフはもうゼロよ!」と嘆き始めたのも良い思い出。

 これは覚悟しとかないとな…と内心穏やかではないのを他所にゲームを再開する。

 

 …

 ……

 ………

 

 彼女にとってそれは気の向かない暇つぶしでしかなかった。

 滾らせる強敵でもない過去に出てきたモンスターの強化個体、何故一人でもクリアできるような内容をわざわざ共闘して倒さなければならないのか。このゲームの運営は調整が下手すぎる…と隠しもしない不機嫌を顔に出し、部屋を作って人を募集する。

 どうせ一回きりの関係だ。ちゃちゃっと終わらせておさらばしよう。そう考えていた。

 入ってきたのはふんどし姿の男アバターだった。

 

 ーよろしくお願いします。

 

 とんちきな姿から想像もつかない律儀な挨拶をされて一瞬思考を放棄していたことを自覚する。いつも通りの自分らしい返しで返事をすると何かを渡してくるではないか。

 

 ーお近づきの印に、どうぞ。

 

 正直ふんどしの男から渡されるアイテムなど絵面が酷くて受け取りたくないのだが、これはゲームであって現実ではない。であれば貰えるものは貰っておこうと素直に受け取る。

 手に入れたのは汎用性がとても高い強化素材だった。ソレはいくら使っても足りないくらいなので少し得した気分で件のクエストをやり始める。

 結果はとても面白い事態を収束させることで終わった。

 ふんどしの彼と狩りをしに行ったのはいいが途中でモンスターが乱入してきたり、尻を擦りながら高速移動するバグを見つけて披露されたり、一人ではできない奇妙な体験ができた。

 

 ー○○さん上手いですね。なにか他のゲームもやってたりするんですか?

 

 予想より時間が遅れてしまったが腹を抱えて笑えたのでご機嫌な彼女は彼の質問に答える。あまりにも熱心に聞いてくれるものだから珍しくテンションが高めだった。

 そうやって話していくうちに、別れの時が来たのだが、これも彼女にしては珍しく予想より遅く別れることになっていた。

 あまりにも珍しい。自覚してしまうほどの事例に、思わずその根幹となった彼が何者なのか知りたくて、持ち前のハッキング能力で調べ上げることにした。

 そして、思わぬ情報が出てきた。

 

「…星辰の…願いの申し子…?エリオの最終案がなんで」

 

 まさかの収穫にこれが本当なのか疑問を抱いてしまった彼女だが、自ら得た情報に偽りはないという自信がその疑問を解消させる。

 

「何はともあれ、彼から聞き出す必要がありそうだ」

 

 こうして彼女『銀狼』とウェクトルのゲームから始まったネット越しの関係。他人以上友人未満、微塵も近くはなく、決して遠くはない。そんな二律背反とも言える関係。

 しかし、この出会いがきっかけで、彼に渦巻く情愛の一つになることはまだ知らない。

 

 





 エリオの最終案
 エリオには未来を予見できる呪いを持っている。星核ハンターは「エリオの脚本」に基づいて行動しているが、それらの段階をすっ飛ばして来たる未来に辿り着けるのがエリオの最終案であるウェクトルなのだ。

 銀狼
 なんだコイツ→なんだコイツ、おもしろ→腐れ縁→本音で語り合えるゲーム友達→私がこうなったのは貴方のせい。だから責任とって

 ウェクトル
 奉仕グセとかいう訳分からんものを抱えている。まぁどんな願いも叶えてるから多少はね?

 誤字として報告されてましたが、星辰はわざとです。勘違いさせてしまい申し訳ありません。
 彼はクトゥルフ寄りな存在なので。

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