旅をしたいのに周りが許してくれない! 作:どこにでもいる名無し
彼は旅人である。数多の宇宙、数多の星、数多の人と出会いと別れを繰り返している。
彼は複数の名前を有している。時代の風景、状況に応じて合う名前を駆使する。だが勘違いすることなかれ、全ては真名であり決して偽名などではない。
彼は人との出会いを何よりも尊重している。その為時折り旅ができなくなる選択肢を選んでしまう時がある。
さて、そんな彼は次の文明でどのような巡り合いをするのだろうか…。
旅をしたいのに周りが許してくれない!
…
……
………
ヤリーロⅥにはベロブルグと呼ばれる都市が存在する。そこは極寒の冬地獄から人類を守る唯一の砦にして希望。聞こえはいいかもしれないが、裏を返せば人類はそこでしか暮らせない。力無き者がベロブルグの外に出ようものなら裂界造物の餌食になるか凍死するかの選択肢を選ばざるを得ないだろう。
ベロブルグは上層部と下層部に分けられている。誰もが裕福な暮らしをできるわけではなく、人は身なりにあった生活を謳歌する。上層部は日の下に晒された陽の場所であれば、下層部は日の光から閉ざされた幽々たる陰の場所であろう。
そんな場所に、一人の男はいた。
「星核がなくなったとて、ここの暗さは相変わらずか」
くぐもった声が木霊する。ガスマスクをつけたその男はガラクタの山を漁っては物を物色していた。その姿は不審者の一言に尽きるだろう。
そうして物色する中で彼はあるものを見つけた。
「ほう…こんな所にもいたか」
見つけたのは風化し朽ち果てたロボットだった。エネルギー源が途絶え、最早そこにあるだけのオブジェクトと化している。
「ふむ…少し時間がかかるが、これならいけるな」
彼はそんな機械を優しく撫でる。ざらつく表面は長年放置された結果変化してしまった故の錆か、レンズ越しから覗かせる瞳は愛しい子供を見るかのように穏やかだ。
そんな彼の元に一つの影がやってきた。
「…見つけた。こんな所にいたのね、カイス」
「おや、ゼーレじゃないか。ブローニャは一緒じゃないんだね」
「ふんっあそこはワタシには合わないから、それに…星核がなくなっても地炎は終わってないわ」
彼女はゼーレ、ベロブルグ下層部で暮らしている少女である。反抗組織『地炎』に属す中堅のメンバーで、下層部の治安を守るため今も尚その活動はやめていない。
ゼーレから呼ばれた男の名はカイス。研究者として下層部に暮らす中折れ帽子にガスマスクという奇怪な装いをした人だ。
「そういうあんたはまた機械いじり?」
「はっはっは、わしがやれるのはこれくらいだからね」
ボロボロの機械を担ぐようにして持つ。子供一人分の大きさを持つ鉄の塊だ、その重さは並の成人では持てないだろう。しかし彼の所作には一切の苦労を感じさせなかった。
「きっとこの子達も、ふさわしい主人の元に行けば自然と心が実る。その為なら、どんな助力も惜しまないよ」
微動だにしない機械に目を向けながら優しい声音で語る。
そのまま何処かへ行こうとする彼にゼーレは無言で後をつける。
「……ゼーレや?」
「何よ?」
「その…どこまで着いて行く気だい?」
地炎の活動がある彼女は決して暇ではない。カイスもそれをわかっているから疑問を口にする。
対してゼーレはやれやれと首を振る。
「あんた、自分がどういう立場にいるかわかってる?」
鋭い眼光で見据える先にいるカイスははて…?と首を傾げ理解していない様子だ。
「周りはあんたの価値を理解してる。あの『零号』とかいうのも古代遺物となんら遜色ない性能を持ってて、機械もそれらを造った張本人であるあんたもカモがネギを背負ってるみたいに見られてるの、理解した?」
「なんだそういう事か。大丈夫、零は利口だから捕まるなんてヘマはしないさ」
「あんっっったが!捕まったら意味ないでしょうが!?」
あまりにもマイペースな様子にゼーレは額に青筋をたてながら叱る。対して「はっはっは」なんて笑いながら軽くいなされるのだからこちらが疲れるだけ無駄である。
だが、ゼーレの言い分はもっともである。カイスはベロブルグ、ひいてはヤリーロⅥにおける過去の機械と遜色ない性能を発揮させる事ができる。それだけに止まらず、無から有を生み出すような超絶技巧を備えた研究者だ。周りが喉から手が出る程欲しいというのは間違えていないだろう。
「まぁまぁ、そんなに怒らないでくれ。そうだな…ゼーレがいいなら護衛を任せてもらってもいいかな?」
「ふんっ!言われなくても勝手にやってたわ」
地炎の幹部という頼もしい用心棒と共に目的地を目指すことにした。
…
……
………
「あんたとここに来るのも久しぶりね。まったく変わってないわ」
「比較的整えてるつもりなんだが、オイル臭いのはやはり応えるかな…?」
そこは沢山の機材が並んだ工房だった。広々とした空間にはそれ以上の物は無く、女という異性にとってはつまらないだろうとカイスは申し訳なさそうにする。
「あなたねぇ、ワタシがいつからここ掃除してるかわかってる?これくらいなんともないわ」
「そうか、それはよかった」
作業台に外から持ってきた機械を乗せて、準備を済ませれば手術は開始だ。
鉄を打つ音、ドリルで削られる鉄板、ロボットを修理される工程をゼーレは近くにあった椅子にもたれかかりながら静視する。
この作業が終わるのはおよそ数分、カイスの技量の高さが知れる短時間での出来事だった。
「………ふぅ、成功だ」
見れば錆と土で汚れていた機械は、新品も同然な輝きを取り戻し、そこに鎮座していた。対するカイスは作業で滲み出た首筋の汗をタオルで拭き取ってから機材を片付け始める。
ゼーレも頃合いを見計らって掃除の手伝いを始める。
「あんたの見てるとコレが普通だと思っちゃうけど、他の人じゃそうはいかないのよね」
「はて?どうだろうか?」
機械に疎いゼーレでも先程までの作業がどれだけ凄いかは理解していた。地炎で活動する前、まだナターシャに育ててもらっていた幼い頃にそばでその光景を眺めていたから他の人と彼を比べてしまう癖があった。
簡易的な処置で分もかからず、一度作り直すしかないような手術でも一時間とかからない人間ばなれした人と比べるのは酷ではないか。
「ありがとう、お礼もしたいから少しそこで待ってておくれ」
「待ちなさい」
別室に移ろうとするカイスをすかさず捕まえる。襟を掴まれた事でうめき声が漏れ出てしまったが、そんなの気にしない。
「そんなことしてもらわなくて結構よ、それよりも早くみんなに顔出してきなさい」
「…それも、そうだね」
実を言うとカイスはヤリーロⅥから一時的に離れている。裂界の裂け目に巻き込まれて星の裏側まで移動してしまったのが原因だったが、本人もどうせならこの際別の星に行ってみようかと旅人としての性に負けてヤリーロⅥから出て行ったのだが、それはもちろんベロブルグの皆が知る由もない。
故に行方不明になったと彼を知る人物は大慌て、必死に探したがベロブルグ内には見る影もない。当然だ、彼は他の星に移ったのだからいないのは当然。
因果によって再びヤリーロⅥの元へと帰ってくるがそれは別の姿『ウェクトル』であってカイスだと気付く者は少なかった。逆にすぐ気付いた者もいたが。
そして星核の問題を解決させ、時間が経ち、列車から一時休暇をいただいたカイスはこうして帰ってきた。彼と会ったのはゼーレ一人、だから彼女もお礼云々前に顔出しをしろと命令しているのだった。
「ブローニャなんてあんたが写ってる写真見てニヤニヤしてるのよ、見てて気持ち悪いったらないわ」
「うむぅ…」
「それじゃ、早速上層部に向かうわよ。丁度買いたい物もあったし」
「ちょっと待っておくれ。顔出しだけではないのかい?」
「何言ってるの?元々ワタシは列車に乗ることは反対してたんだからこれくらいしてもらうわよ」
ゼーレの目が赤い。これは何かに対して本気になる時にする現象で、これは有無を言わさないことを意味していた。
「わかった。それで君の気が済むなら受けようじゃないか」
その事を理解しているからカイスも甘んじて受け入れる。
「ふふっ!決まりね」
そうして二人は上層部に向かう。ちなみに二人は公衆の面前で口論(ゼーレが一方的に捲し立てるだけ)をしていたが、周りからは痴話喧嘩に見られていたのはまた別の話としよう。
ゼーレはカイスにだけ「あんた」と言います。これが何を意味するかは読み手次第です。
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