久々にガッツリ戦闘描写を書きたかったというのもありますが、中々うまくいかないもので。
楽しんでいただけたら幸いです。
というか、書く時間がないから誰か続き書いてくれメンス(切実)
―――夜。
昼夜問わず発展が続く大都市は、月が顔を見せても眠ることはない。文明と科学によって暗闇を克服したことでその歩みに拍車がかかり、明かりも、声も、絶える暇はなくなった。
けれど光と闇は表裏一体。
照らし出す光が強ければ強いほど、闇は色濃く、深くなる。
「ハァ…! ハァ……!」
人々の喧騒と目から逃れるように、人工灯の少ない暗がりへ駆ける一人の男。顔を蒼くして走り去る男の背を道すがらの人は見つめるが、こんな夜更けに出歩く者なのだから訳ありだろうと、それ以上気に掛けることはなかった。
脂汗を流して走り続けた男だったが、人の眼も声も届かぬビル群のただ中へ入り込んでいったところで、足を止めた。否、疲労困憊で動かせなくなった、が正しい。
「くぅ……ゼェ…! ハ、ァ…!」
都会では聞き慣れてしまった車両の音は既に遠く、辺りは痛いくらいの静寂に満ちている。自身の荒い呼吸音しか聞こえてこない。
男はビルの冷たい壁に手を置き、ズルズルと座り込んだ。男は少しでも肺に酸素を送ろうと夜空を見上げる。
『久々の全力疾走は楽しめましたか?』
「ッ――!?」
貧血気味で青かった男の顔から、更に血の気が引いていく。息を飲み込むことすら忘れるほどの恐怖と絶望が、男を迎えた。
立っている。ビルの角で不格好に欠けた月を背に、ソレは
『
肉体の震えで言葉を発することが出来ない。疲労か恐怖か、理由は最早どうでもいい。男の脳が求めていたのは、目の前の脅威からどうやって逃げ延びるか、である。
ビルの外壁に立って男を見下ろすソレは、厚いグローブに包まれた指でこめかみを突く。コツコツ、とソレの頭部を覆う機械的なデザインのフルフェイスマスクから音が鳴る。思案するような仕草を見せたソレは、動けない男へ一方的に話しかける。
『それに比べてどうです、私の性能の高さは? 強風の中、ビルからビルへ飛び移る身体機能。加えて、垂直な壁面へ直立を可能にした
「ハァ…ハァ……えらくお喋りじゃないか、『 MR5号 』」
ようやく息を整え、唾を飲んで乾いた喉を潤した男が最初に発したのは、ソレの名前。いや、どちらかといえば
『他の友人達は寡黙な方ばかりなもので……意思の疎通及び伝達を円滑に行うには、円満なコミュニケーションが必須。これも私なりの努力の成果なのですが、貴方にはまだ足りませんでしたか』
「なっ、何がコミュニケーションだ! 白々しいっ! わ、儂を殺しに来たんだろう!? 口封じしろと命令されてきたんだろうが‼」
悲壮感が張り付いた顔で、口の端から泡を吹き溢しながら怒鳴る男。今も自身を見下ろしている『MR5号』のことを科学者として知っているからこそ、怒りが込み上げてきた。紳士然とした口調と佇まいをしているが、その中身は完璧な怪物。人のスーツを着こなすエイリアンとでも表現したくなるほどに、人の道理や倫理観から外れている存在だと、男は理解していた。
『それは…まぁ、はい。”対象は確実に始末せよ”というのが命令でして。貴方には大変お世話になりました。ですので、貴方の研究が生み出した私の全性能を以って、速やかに殺処分致しましょう』
MR5号の言葉は、およそ正しい道徳を持った者の観点からは矛盾していた。お世話になったから殺す、この二つは決してイコールで繋がりはしない。けれど、それが結びついてしまうのが、
『ですが、殺処分に移る前に一点。どうしても腑に落ちないことがあります。それを確認次第、迅速に命令を遂行します。ご協力願えますか?』
「……わ、儂が【組織】の情報を流した相手か? 生憎だが、顔も名前も知らん!」
『いえ、そんな事はどうでも良いのです』
両手を腰の前で軽く組み、礼儀を弁えるかのようなポーズで男に問いかけるMR5号。【組織】の情報を売った詳細を聞きたいのだと判断して手を打ったが、一蹴されてしまった。
【組織】は造反者を許さない。ならば、機密が保持されるべき情報を外部へ流した罪は相当に重く、受け取った側もまとめて消し去るのがこれまでのやり方だったはず。男は【組織】のやり口と目の前のMR5号の言動が一致しないことに違和感を覚えたが、壁に立つ者は構わず続けた。
『貴方は何故、【組織】を裏切ったのです? 莫大な研究費、最高水準の機材、優秀な研究員、次々運び込まれる検体。どれも貴方を満足させるには充分だった。なのに、何故?』
本当に不思議そうに、首を傾げる。怪物が人の身ぶりを真似ていると思えるちぐはぐさに、男は失笑しながら呟くように答えた。
「……最初は、知的好奇心と研究を支援してもらう為の方便だった。それが気付けば、心身を化け物に改造されていく人々の視線に、その断末魔に、耐え切れなくなって…」
【組織】を裏切り脱走した理由をぽつぽつと語る。MR5号は、男の言葉が紡がれなくなるまで静かに聞いていた。そうして、組んでいた手をゆっくりと持ち上げ、胸の前で何度も叩く。静謐な夜のビルの谷間に、拍手の乾いた音が寂しく響いた。
『胸を打たれました…! 自身の欲求を満たし、仕事に熱心に取り組み、やがてそれらが心を揺り動かすに至るっ! これこそが感動! あぁ、なんと素晴らしいっ!』
「っ……なにを、言っている」
まさか喝采されるとは思わなかった男は、MR5号の拍手という行動に面食らってしまう。人格者の教訓を受け、心を改めた悪人を思わせる物言いに薄ら寒さすら感じられる。
そんな男を讃える拍手をピタリと止め、一転して感情の抜け落ちた声色で淡々と告げた。
『……だからこそ残念だ。貴方の様な人を失うのは』
月下に立つソレのフルフェイスマスクの前面――大きな円形の部分が赤く発光する。
内部にある、神経伝達物質を興奮剤と併せて爆発的に増大させる機構が、稼働した合図だと知っている男は足に力を込める。とにかく逃げなくては。その一心で振り返って一歩目を踏み出そうとするが、脳の想定に反して肉体が微動だにせず、バランスを崩して冷たいアスファルトへ転がった。
「ぁぐっ!?」
『博士。貴方は研究室に籠り切りでしたからね……蜘蛛の伸ばす糸に引っかかった経験、ありませんか?』
「い、糸…!? そんな、だってお前は!」
『ああ、これは申し遅れました。私は
機械が喋っている。そう思わせる冷淡な口ぶりのMR5号を、身動きの取れない身体をよじって見上げる。男は其処で、自分の身に何が起きたのかを理解した。
「糸…!? さっきの拍手は!」
『流石は生体工学者、頭が良い。このマスクの口腔部、開閉式になっていましてね。断続的に糸を放出して、拍手の風圧で前方へ飛ばし続けていました。鬱陶しいビル風も、狭い路地には入り込まない。貴方は自分から死地へ赴いていたのです。ご苦労様でした』
「クソッ…! このっ!」
『本当に経験が無さそうですね。蜘蛛の糸って、基本的に粘性が高いんです。加えて伸縮性にも優れている。千切れた一本の糸であっても、羽虫を巻き取ることは可能です』
必死の形相でのたうち回る男だが、言葉通り何とか目視できるほどに細い糸が全身に絡まっていて満足に動くことは出来ない。哀れにもがく芋虫を刈り取らんと、一匹の蜘蛛が壁面をゆったりとした歩調で降りる。
『巣を形成しない種の蜘蛛は、総じて移動に糸を活用します。身軽な子蜘蛛などは糸を一本だけ出して、風に乗って狩場を変えて繁殖するのです。生命とは、実に賢い』
「ま、待て! 待ってくれ!」
『申し訳ないが、”待った”は無し、です。詰将棋の経験はありませんが、きっとこんな感じなのでしょうね。とても爽快です』
ついに手の届く距離まで近づいてきたMR5号に、徐々に体を締め上げる糸の息苦しさと恐怖で、男は言葉を詰まらせた。
「カハッ…! ゲホッ…!」
『生命は総じて賢明であり、賢明な生命こそが進化していく。博士、【組織】と離反する行為そのものが、生命として賢明ではなかったのですよ。とても、とても残念です』
ビルの角から顔をのぞかせた月に、迫る恐怖の全身が照らしだされる。
全身をすっぽりと覆い隠す茶褐色の強化外装。同じ色合いのフルフェイスマスクには、白いラインが二本、赤く光る眼から後頭部へ伸びる。ガスマスクに近い形状の口腔部がカシュッと音を立てて開き、ピアノ線のように細い糸を吐き出した。その糸を黒と茶色の中間のような色合いの厚いグローブで絡め取り、指の間で広げて見せた。
『さようなら、博士』
「やめ―――」
末期の一言すら発することは叶わず、男は糸が張り巡らされた指で頭部を掴まれた。スルスルと皮膚を裂き、血管を断ち、骨を切っていく。MR5号の両手が男の後頭部へ辿り着く頃には、ぶつ切りになった肉塊と血の海がアスファルトの上に広がっていた。
それはまるで、首から上に咲いた趣味の悪い生け花のようだった。
『……これが、貴方への手向けです。死の瞬間に咲く血肉の花弁、自己満足で他人を切り刻み、遺伝子を組み替えて弄んできた貴方に相応しい贈り物になりましたね』
仕事をやり切った達成感と爽快感に満ち溢れた声色で、両手の糸をはたいて払う。鉄の臭いが染み込んだグローブを何度か握り、何の興味も湧かなくなった男の無残な死体を見ることなく通信端末を取り出す。
『――こちら5号。対象の抹殺を完了しました。後始末は、いつものように』
事務的な連絡を終え、マスクの中で短く息を吐く。我先にと天へそびえるビルで歪に欠けた月が見えた。
人間の命を奪ったことへの忌避感も慟哭も無く。冷徹に通信端末を懐へしまい込んだ、その時。
――シュッ
『ん?』
ビルの谷間の暗闇が、ほんの僅かに揺らいだ気がして振り返る。けれど、そこには何もない。誰もいない。
気のせいだったか。そう思い、所定の位置で待機している部下の元へ戻ろうと一歩目を踏み出す。
『がッッ――!?』
だが、MR5号の体は自らの意思に反し、真横に回転しながら最初に立っていた壁面辺りへ吹き飛んでいった。静かな夜には似合わない破砕音が響き、コンクリートの欠片が茶褐色の強化外装を汚していく。
いったい何が起きたのか。壁面へ埋まりかけていた体を起こし、警戒心を最大まで引き上げる。そして、つい先程まで自分が立っていた場所に、何者かがいる事に気付く。
『あ、貴方は……11号!?』
「…お前ら狂人と一緒にしないでくれ」
月光に照らされて浮かび上がる、メタリックグリーンの強化外装とフルフェイスマスク。冷たい夜風にたなびく首元の真っ赤なスカーフ。白く厚いグローブ。そして、燃えるように赫い複眼。
MR5号にとっては後輩であり、弟であり、数少ない同胞である相手の被検体名を驚愕のままに呟く。けれど、11号と呼ばれた者は素っ気なく否定した。
「また、殺したな。同じ【組織】の構成員で顔見知りだろ。なんで簡単に殺せる?」
『……意味が分かりません。簡単に、とは? 殺処分に苦も楽もないでしょう?』
「聞いた俺が馬鹿だった。お前らイカれてんだもんな。分かり合えるわきゃ無かった!」
『何の話か知りませんが、思考放棄は悪手です。まずは対話でもって、互いを知ることがコミュニケーションにおいて肝要なのですよ』
5号の返答を聞き終えるよりも早く、11号はその場で前方に向けて”跳躍”した。
ズンッッ――‼‼
『ゥ、ぐぅッ…!?』
「これ以上はやらせねぇ。お前はここで、止める!」
ノーモーションで目の前まで接近された驚きで硬直した5号。その顔面を11号の右膝が捉えたかと思いきや、すんでのところでガードが間に合い、ダメージには至らなかった。それでも5号は押し負け、後頭部からアスファルトの上を数回転する羽目になった。
『なんという身体機能…素晴らしい! 我々とは違い、純粋な一般人がMRを使用した初のモデルケースである貴方が、ここまでの性能を発揮するなんて! 今しがたこの世を去った博士が知れば、歓喜に震えた事でしょう!』
「勝手に殺しといて、勝手に代弁してんじゃねぇよ!」
警戒の更に上を往く、圧倒的なスピード。5号は現状の不利を悟り、自身に有利なフィールドを展開すべくマスクの口腔部を開き、極細の糸を放出し、乱雑にビルの壁面へ設置する。
『如何に優れた俊敏性であっても、自在な動きを封じてしまえば問題ない。うっかり張り詰めた糸に触れてしまえば輪切りになりかねませんので、お気を付けください』
「……そりゃどうも」
周囲を見回し、張り巡らされた糸のバリアに囲まれたことを知る11号。下手に動けば5号の言葉通りの結末を辿ると理解しているのだろう。蜘蛛は静かにほくそ笑み、口腔部から数十本を束ねた糸を吐き出して襲撃者を拘束する。
『どうです! 一本でも2トントラックを牽引できる耐久性と粘着性に優れた私の糸を、まとめて付着させました! あとはゆっくりと引き込み、貴方を殺処分して今回の仕事は終了です!』
「…………」
勝ち誇った笑いをマスクの中で浮かべる。すると、5号の身体がボコボコと不自然に隆起し、強化外装の幾つかのパーツがスライドする。その内側から、鋭い爪の生えた剛毛の腕が姿を現す。
『御存知ですか!? ハエトリグモ種は総じて、前1肢が他の脚よりも太く強靭なのです! 獲物を確実に捉え、逃がさぬように! その真価、ここで発揮するとしましょう!』
通常の人間のフォルムからかけ離れた、「怪人クモ男」とでも呼ぶべき異形の姿を晒す5号。糸で捕縛され、じわじわと手繰り寄せられていく11号には、成す術など無い。5号の言葉通り、異常に膨らんだ1対の
このままでは、自然界でよく見られる「蜘蛛の巣に懸かった哀れな虫」の図を再現することになる。5号は更にわき腹からもう1対の腕をまろびだして、糸を掴んで引き寄せる。
『博士と同じように殺すか。それとも従来の人間には不可能な身体構造を以って四肢を引き千切って殺すか。悩みどころですが…11号。貴方は
引き摺られることでアスファルトが砕け、轍を作っているが抵抗など無に等しい。5号の3対の腕が11号の四肢へ手が届くほど、彼我の距離が縮まった。
勝利を確信する5号へ、11号は焦りや恐れを感じさせない、強い意志を宿した声で冷静に語る。
「随分とお喋りだな、お前。他の奴等とは違うが、それだけか。喧しい分、余計に質が悪い」
『……現状を正しく把握できていますか? 貴方は今、まさに。死の直前にいるのですよ?』
「ああ、分かってるさ。お前をブチのめす絶好のチャンスだって――なァッ!」
遂に5号の腕が首、腕、膝を捉えた。だが、11号は抵抗する素振りを見せず、逆に足に溜めこんだ力を一気に解放する。
立ち位置の関係上、11号は後方へ大きく跳ね飛び、5号は引っ張られる形で追従する。しかし、それだけに留まらず11号は空中で凄まじい勢いで回転し始めた。ギュルギュルと空気が裂ける音が聞こえるほどの回転圧力で振り回され、5号は意識を失いかける。
『こ、んな……速過…ッ!』
猛烈なスピンによって発生した風圧が、11号の腰に装着されていた風車の様な装置を稼働させる。蓄えられた力が爆発する、そう思わせる起動音と共に装置の風車部分が高速回転。それと同時に、11号の強化外装の首から腕先、脇から足先までに白く発光する2本の筋が浮かび上がった。
それが意味するところを5号は理解できなかったが、移植された蜘蛛の生存本能が警鐘を鳴らす。このままではマズい。命に危機に関わるという警告で脳が埋め尽くされる。
思考が「殺処分」から「撤退」へ切り替わる僅かな時間。ほんの1秒に満たない隙間が、5号の命運を分けた。
「おおおおおぉぉッ…!」
雄叫びを挙げて唸る11号。白い輝きが徐々に増していくと、全身に張り付いていた糸が軋み、プツプツと千切れていくのが強化された視覚に映りこんだ。
『何故ッ…!? 私の糸は、そう簡単には…‼』
驚愕でまたも鈍化した思考が生んだ隙を、11号は見逃さない。
耐え切れず、ついに糸が四散したことで解放された11号は、反動でビルの頭を飛び越えていく5号を見据え、着地と同時に跳躍する。
風切り音を置き去りに5号より遥か上へ跳んだ11号は、中空で膝を抱えて回転。ふわりと減速すると吹き飛ばされてくる5号へ照準を定め、跳び蹴りの体勢を取った。
――キュイイィィィン‼
跳躍時の風を受け、腰の装置が再稼働。先程よりもさらに眩い輝きが強化外装に2本の筋となって浮かび上がる。そして、背部にあるやや薄めのメタリックグリーンの装甲が展開。強烈な風を噴射し、推進力となって11号の身体を真下へ突き落していく。
まさしく――
『空中では私の糸を伸ばす先が、無い……ッ!』
回転の遠心力で血液の循環を妨げられて力が完全に入りきらず、垂れ下がった3対の腕と1対の足を見て、5号は初めて焦燥に満ちた声をあげる。が、しかし。もはや猶予はない。
11号の蹴撃が5号の胸部装甲へ直撃。防ぐことも弾くことも出来ぬまま、隕石の如く落下していく。そして、戦いの開始地点となったビルの壁面へ打ち付けられた。
『ガハッ……!』
5号は蜘蛛の巣状に広がった罅の中央で、だらんと腕を放り出す。生命体として活動するには、そのダメージは深刻だった。
「フッ…」
5号の胸部を内外双方から完膚なきまでに粉砕した右足を見つめ、11号は浅く息を吐く。
ビルを見下ろす月だけが、彼らの死闘を見守っていた。
『……お、みごと、です…ゴフッ』
火花を噴くマスクの下から、弱々しくなった5号のくぐもった声が漏れ出てきた。11号は油断なく構え、追撃を打てる体勢を整える。それが見えているのか、いないのか。5号はだらりと垂れ下がった手足を横目で見ながら、呟く。
『完敗、です……性能では優れていた、はず、ですが…。貴方を殺す選択をした私に、間違いは、無かった…』
「どうせ喋るんなら、【組織】のアジトやら目的なんかを吐いてほしいもんだが」
『く、ふふ…っ。売人、兼、掃除屋の私に、高望みし過ぎ、です、よ…』
殺し合った間柄のはずなのに、5号は旧知の友かのような穏やかさで語り掛けてくる。それも、長くは続かなかったが。
グジュグジュと生理的嫌悪感を抱く音を立て、5号の肉体が粘度の高い黒い泡となって蒸発し始める。
「これまでにしてきた罪を後悔して、あの世へ逝け」
『っ…? 後悔、ですか…』
上半身を残して泡と消えていく5号を見ながら、11号は意味もない文句を言う。それでも、蜘蛛の力を宿した狂人は静かに首を傾げた。
『後悔するようなことなど、何も――』
最期まで言い残すことなく、5号だったモノは泡となって夜の風に乗って弾けた。もう何一つとして、今まで其処に居たモノの存在を確かめる物は残されていない。
(この気持ち悪いムカつき以外は、何も…)
赫く発光していた複眼から光が消え、まとう雰囲気も剣呑なものではなくなった11号。静かに空を見上げ、何を呟くことも無く視線を戻し、此処まで自分を運んできた相棒と呼ぶべきバイクを停めた場所まで引き返していく。
昼夜問わず発展が続く大都市は、月が沈んでいくこの瞬間も休むことはない。11号はエンジンを吹かし、戦いを見ていた月を背に道路を駆けていく。
こうしてまた、人知れず悪との戦いは終わりを迎えた。
けれどこの戦いは、次なる戦いへの序曲に過ぎない。
悪によって生まれ落ちた正義の戦士に、心休まる日は、未だ訪れない。
「……それが」
それこそが、孤高の仮面を受け継いだもの。
「――
赤いスカーフが風になびく。
世界から悪を退けるその日まで、彼は戦い続けるのだ。
映画自体は「なに、この…なに?」な感じでしたが、VSクモオーグはテンション爆上がりでした。
というか、そこ以外がそれほど…。
ちなみにタイトルとしては、ウルトラマンの正史続編を描いた漫画「ULTRAMAN」をイメージしています。あのメタルスーツな等身大ウルトラマンのアレですね。
続きは未定です。時間があればいずれ、いずれね。
それではまた。