アオのハコ#250 「このハコに」SideB アオのハコ
あの日の私にとって、大体人生の三分の一。今の私が振り返れば、六分の一くらいか。栄明で過ごしたのは六年、卒業式は中等部と高等部で二回やった。まあ持ち上がりだから中等部の卒業式なんて、終業式と変わらない。たまに内部進学しない生徒もいたようだけど、少なくとも私の世代にはいなかったな。
今日大喜は、あの日の私と同じように栄明を卒業する。春になれば大学へいくため一人暮らしを始めるから、うちからも巣立っていく。
――やれやれ、寂しくなるな。去年は千夏ちゃんが去って、今年は大喜か。にしても世話ばかり焼かせてくれたものだ、親ってのは大変だよ本当に。やっと育てりゃ背中を向けて、一人旅立つ恩知らず、ってね。
私だって人の事は言えないけど、さ。
卒業式で泣きながら抱き合うとか、そんな柄じゃない。いつだって逢える、別に縁が切れる訳でもあるまい。そう思ってた――いやそう思いたいから、わざと普段通りに教室で駄弁っていたのを覚えている。
どうでもいい話を適当に交わして、ダラダラとくっちゃべって。
また明日とは言わなかったけど、別れの言葉も言わなかった。いつも通りでいないと、怖くて仕方なかったんだろう。バカなりに気を遣い合うんだ、私たちだって。
生徒としてここに来ることは二度とないし、みんなと今のような関係を維持することも多分出来ない。春架はバスケを辞めた、私は大学生になっても続ける気はあるけどどうなるか分からない。他のみんなも進路はバラバラで、次に会うのはいつになるか。
この奇跡みたいな暖かな時間は、もう終わってしまった。そして二度と戻ってこない。
それを認めてしまったら、私は折れてしまう。
いつだって、私はそうだったな。必死で頑張るふりをして、必死に現実から逃げてきた。……大喜が出来てからは逃道もないからひたすら頑張ったけどさ、うん。股を痛めて産んだ我が子だもの、何をおいても守りたいから。
あれから倍以上生きてきたけど、私はちゃんとした大人になれているのかな。どうも皺が寄っただけというか未だに気ばかり若いというか、うーん。
年取れば勝手に大人になれると思ってたんだけどなぁ、そうでもないようだ。
これからもずっと、人生は続く。だけどここで、一区切りだ。
大喜はどんな人生を送るんだろう、千夏ちゃんはあのバカの手綱を取ってくれるんだろうか。いやまあそれに関しては大丈夫かな、あの二人見てると。あと冬樹さんも大喜の事大好きだし、と言うか向こうの家の人たち大喜を好きすぎるだろ絶対。千夏ちゃんの帰省に着いていったって、もうそっちへお婿に行く気なんじゃないかな。
春架と親戚になんかなりたくないんだよなぁ、友達でいたい。て言うかあの女は距離を置いてみるとそれなりに楽しい奴なんだけど、あんまり近くにいすぎるとガサツ過ぎて大変なんだ。……他人の事は言えないか、そういう点では。
――まあ、良いか。なんにせよ、大喜の人生は大喜のものなんだから。私の親だって多分、そう思って私を見守ってたんだろう。
私がするべきは、私の人生を精一杯生きること。そのなかで、この場所を守っていてやろう。
戻ってくるか来ないかは知らないけど、ここはずっとずっと、あんたの家だよ大喜。
大昔朝練で感じた清々しい朝の体育館の匂いを思い返しながら、私は身支度を整える。さて、久しぶりの登校だ。大喜の卒業式を見届けねば。
じゃあ行こうか、過ぎ去った青春の場所へ。あの――アオのハコへと。