アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#109 「1月15日」SideB 出物腫れ物ところ構わず

 出物腫れ物所嫌わず、とは言うもののタイミングくらいは図ってほしいものだ。お産なんてそんなもんだから仕方無いか、なんて一人しか産んでない私が言うことでもないかもしれない。まあ美咲ちゃんも初産だし、私の時みたいにあれこれズレるんだろうな。大喜も予定日より一週間も早く出てきて、お陰で大変だったわよ。君に似てせっかちなのかな、とか旦那に言われるし。

 でもまあ、今この時点でと言うのはまだ助かる。もし今日明日辺り陣痛が来たとしても千夏ちゃんがいれば、少なくとも大喜の世話はどうにかしてくれるだろう。あれを一人で残したまま家を長く離れるのは不安だ、もう高校生ったってあれはまだまだ子供だもの。千夏ちゃんも千夏ちゃんでひとつしか違わないとは言え、あの頃合いで男女の差は大きい。私が花の女子高生だった時分、同い年の男子なんて子供通り越して野良犬みたいだったし。どうして男子ってあんなにバカなんだろ、と冷ややかな目で見ていたものだ。

 それに一応頼まれモノは買っておいたし、夕飯も頼んだからこのままで問題ない。あの母親から生まれたとは思えないくらい、良い子だしね。

 

 旦那の弟の嫁、って考えてみたら結構遠い縁ではある。でも付き合いはあるし、こういう時は助け合わないとね。

 美咲ちゃんはまだまだ若いし、これから二人目三人目と考えてたりするんだろうか。……うちも考えてはいたんだけど、なかなかそうも行かないまま大喜が大きくなっちゃって。まさか高2の息子がいる家であれこれしようとは思わないし、それに体力がなあ……。今の身体で乳幼児の相手は無理だ、過労死する。若き日の私は相当頑張った、結果が芳しいかどうかはともかく。だけどそのお陰で今部屋がひとつ空いていて、千夏ちゃんを受け入れられたんだよね。もし他にも何人かいたら、経済的にもさすがに厳しかったわけだし。これもまた廻り合わせか、人生ってなかなかに波瀾万丈。

 考えてみれば、もう16年。大喜を産んでから、そんなに経ったんだ。滑って転んで悩んで、泣いて笑って空回りして。色んな事が起きすぎて、ついこの間みたいに思えてしまう。

 あのチビすけがいつの間にか一丁前な顔するようになってて、嬉しいやら腹が立つやら。ついこないだまでヨチヨチ歩きで着いてきてた癖に、すっかり生意気になったものだ。

 いつか大喜も、誰かと結ばれたりするんだろうかな。臨月の嫁の前でオロオロしてる義弟を見ていると、いずれ大喜もこうなるのかなーとか思ってみたり。まあでもあれは父親に似てポヤポヤしてるし、暫くは無さそうか。それにどうもなあ、大喜ってその手の思考には疎そうなんだよね。今時っぽくないというかなんというか、女子の友達はいるけど色気が無いというか。そう言えば前はちょいちょい遊びに来てた、赤毛の子も最近見なくなったな。あんまりガキ過ぎて愛想尽かされたんじゃないか、大喜の事だから有り得る。

 後は近いと言えば近いのが、千夏ちゃんかな。それこそ無いと思うけど、……思うけど。

「んー……」

 正直千夏ちゃんがお嫁に来たいと言ってきたら、私は二つ返事で受け入れる。それが本心であれば、だけど。自分の道から逃げ出したくて安易な選択をするならば、大人として諭さないといけない。千夏ちゃんがどんな覚悟で家族と離れたか、大事な二年間を私たちに預けてくれたか。それはきっと、何よりも重大な事だ。だからこそ、一時の感情でそれを投げ出してほしくない。私たちは手助けこそするけれど、逃げ道を用意したりはしないのだ。

 もし自分の夢を果たし、その上でまだ私たちと一緒にいたいと思ってくれたのなら。うちのバカ息子に好意を持ち、寄り添いたいと願うなら。

 そりゃあその時は歓迎するさ、まず有り得ないけど。千夏ちゃんだって相手は選ぶでしょ、さすがに。それにそうなると、元チームメイトと親戚になるわけで。それは――気まずい、気まずすぎる。

 でもま、そんなのはまだまだ先の話だろう。子供同士の事なんだから、もうちょっと大きくなるのを見届けてから考えればいい。

 それよりなんだろう、美咲ちゃんの様子がどうも落ち着かない。お腹が張り出したと言っているし、これはまさか陣痛が始まりかけているのかも。早めに救急車、いやお産じゃ救急車はダメなんだっけタクシーを呼んでおくべきだろうか。このままだと動けなくなるかもしれない、病院に向かわせておくのが正解か。男どもはどうしよう、陣痛バッグとか何処だっけ、ああもう経験者なのに慌ててどうする私。

 落ち着け私、シャンとしろ。こんなんじゃ、将来自分の孫が出来たときに困るぞ。

 息を吸い目を閉じ、意識を集中させて20云年前のインターハイを思い出す。どんなに不安でも辛くても、気持ちを保てば向かい合える。それを私は、あのコートで学んだじゃないか。その思いを胸に、大喜を産んだんだ。痛くて苦しくて死にそうだったけど、気合いと根性で乗り越えたじゃないか。

 唇噛んで不安を振りほどき、頭の芯に火を灯す。ゆっくりと開いた目で見る視界はさっきよりもクリアで、なんでも出来そうな万能感が背中に乗っているのが分かる。

「すぐタクシー、そのまま病院まで行かせて。荷物は後で持ってく、とにかく急いで。あとごめん、ちょっと大喜に電話してくる」

 指示を出しながらスマホをタップし、股を痛めて産んだ息子へと通話を繋いでいく。

 さぁ、忙しくなるぞ。後の事は任せたからね、千夏ちゃん。

 

 

 




火曜日発売ではありますが、仕事帰りに買えたのでとりあえず。
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