たった数日の独り暮らしなのに、寂しくてしかたがない。カラ元気でも無いよりはマシだろうと一丁気合いを入れて料理なんかしようと思ったけど、結構挫けそう。自分しか食べないものなんだし手間をかけたって仕方ない、なんてひねくれた事まで考えたりしてしまう。
いつからこんなに弱くなったんだ、一人なんか慣れっこなのに。
ああ、でもそうか。私は本格的に「家」を離れた事がないかもしれないんだ、いつだって帰る場所はあったから。だから私は帰りたいんだ、――猪股家に。
この二年間勝っても負けても哀しくても嬉しくても、ずっと大喜くんがいてくれた。思えばいつだって、そばにいてくれていた。大喜くんがいてくれるなら、私は何処まででもいける。
……いつまでも子供みたいに甘えていてはいけない、そんなの分かってるけどさ。
ああ――会いたいな、でも部活の邪魔はしたくない。大喜くんだって私のバスケを優先してくれたんだから、そこはお互い様だ。
そう言えばもうすぐ修学旅行、つまりは数日全く会えない訳だ。
「修学旅行、かあ……」
私も行った筈なのに、全然覚えてないや。積み立て金を出してくれた親には悪いけど、あの頃はバタバタしていたから。
付き合いだしたとは言えちょっと急いで距離を詰めすぎたか、と少しだけ自分を恥じたのを覚えている。
大喜くんの誕生日、御親戚のお産があって大人たちが留守にしている猪股家で、二人だけの時間を過ごした。不馴れながらも料理なんかして、大喜って呼んでみて。千夏と呼ばせて、髪を弄らせて貰って――そして。
もしあそこで由紀子さんたちが帰ってこなかったら、こなかったら。もしかしたら、一年程早くキスをしていたかもしれない。或いはそれ以上、っていけない大人じゃないかそれは。
あのあとバレンタインを控えて色々大変で、修学旅行なんて記憶から飛んでしまった。元々遠征や合宿であちこち行くし、そこまで新鮮でもなかったから余計に。
何処行ったんだっけ、大喜くんたちと同じ京都だったかな。……いや本当に覚えてないぞ、大丈夫か私。昔の日記がどんどん白紙になっていって「5ねん以内にお前に辿り着く」とか浮き出たりしかねないな、ちょっと不安。
確か中学の時は二年の冬に沖縄行ったような、そうでもなかったような。うーん、渚たちと今度記憶の擦り合わせしよう。まだボケたくはない。
しかし大喜くんは、私に会えなくて寂しがったりするんだろうか。直接口にはしないだろうけど、帰ってきてすぐここに訪ねて来たりはするかも。お土産を渡したいからとか理由を付けて、少し照れたような顔で。
どうせほんの数日だ、それを楽しみに待とう。これからも長いこと一緒にいるんだ、多少離れる時間があっても大丈夫。
でも少し前の私なら、そんな悠長な事は言えなかったかも。大喜くんと出逢って同居してもう二年、付き合いだして丸一年。私はどんどん変わっていく。
あの時からなぜか私の毎日は数倍速で流れ始め、でもとても濃厚な日々だった。
もしこの時間が終る時が来ても、きっと幸せな記憶しか残らない。お互いしわくちゃになっても一緒にいよう、死に水取ってあげたいし同じお墓に入りたい。
「あ、……っと」
ニヤニヤしている間に、鍋の煮汁はすっかり煮詰まっている。いかんいかん、焦げる焦げる。せっかくレシピとにらめっこして悪戦苦闘したんだ、ここでダメにしては勿体無い。
あぁそうだ、出来上がったら写真撮って大喜くんに送ってあげよう。ちょうどお腹が空く時間だろう、これは良いリアクションを期待できるかも。
大喜くんとはいつだって、心は繋がってる。だったら何処に行こうと、私が折れる事はない。
それで良い、それが良い。鹿野千夏はいつだって、こういう人間なのだから。