アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#204 「可能性に」SideB 赤い栄明ブルース

 赤いもの。

 さくらんぼ、剣玉の丸いとこ。

 郵便局の配達バイク、テールランプ。

 踏み切りの信号、そして――必勝祈願の御守りの色。

 決まりなんかないんだろうけど、でも必勝を願うと言えば赤い袋だ。強いといえば赤か黒、男の子の色。

 まあ京都の寺だって色々あるから、どんな色のを買ってきてくれるかは分からない。

 あと頼んだからって聞き入れてくれるか、も分からないままだ。

 蝶野先輩、忘れてないと良いけど。

 

 何処の部も二年生は修学旅行、三年生はとっくに引退。今の体育館は何処か気が抜けた感じになっていて、練習はすれど強度は低い。今日は授業がない日だから余計に、かな。休日の練習とは言え、こんなダレた雰囲気なのは初めてだ。

 確か二年生は日曜の夜にこっち帰って来て月曜日が代休だから、次の火曜まではこの弛緩した空気のままだろうな。

 俺とあかりも、さっきから休憩中。兵藤さんのところならともかく、学校の部活でこうして並んで休むことはなかなか無い。

 いやて言うか男女別部なんだから、そっちに行ってれば良いのに。さっきから無駄にこっち来て駄弁ってないで、ちゃんと練習しろ練習。そんなだから兵藤家のみそっかすの方とか言われんだぞお前は。

 その癖余計なことばっかり察しがよくて、あれこれズケズケ入ってきやがる。

「……猪股先輩に勝ちたいなら、男バドの部長さんでも良かったよね。なのにワザワザ部外の人に頼んだって事はぁ~?」

 ニヘニヘするあかり、その脳天にチョップ一閃。こいつ大喜先輩や他の女バド部員がいる時は猫被ってるけど、割かしゴシップ好きでめんどい奴なんだよな。ブランクはあれど長い付き合いだから今さら気にしないが、キャラ変し過ぎだろ。俺もそんな器用だったら良いのに。

 あかりと俺は大体いつも鏡写し、俺は兄貴がいけ好かなくて張り合ってるけどあかりは兄さん大好きで憧れている。どっちにしてもバドやってはいるけど、俺とあかりは目指す先も正反対。楽しければ良いあかりと勝たないと気が済まない俺、きっと真逆だからこそこうやって噛み合うんだろうな。

 しかしまあ女子ってのは、恋愛話が好きだな。なんでもかんでも、自分が当事者であろうとなかろうと。

 まさか俺の事で、あかりがこうも盛り上がるとは。人の気も知らないでいい気なものだ。もう未練も摩りきれて久しいけど、それでもこっちは多少の気まずさを引きずっているんだぞ。もう何年にもなるし、向こうは忘れてるんだろうか。

 

 赤いもの。

 トマトジュース、緊急車両の回転灯。

 あの日の俺の、頬の色。

 あの日のこいつの、嘘の色。

 小学校に入る前からずっと一緒だったこいつと俺は、家族のような付き合いで。でも俺は段階を飛ばして家族になりたかったんじゃない、その前だってあるはずなんだ。

 だから一度だけ、気持ちを打ち明けた事がある。もちろん相手にもされなかった、徹底的にはぐらかされ煙に巻かれてその日は終わり、次の日には何事も無かったようにあかりはいつも通りだった。

 頭の悪い俺と賢しいあかり、いつだって俺たちは鏡の裏表。気は合っても交わらない、いつだって平行線。

 俺が何を言おうと、あかりはいつだってそれをかわして話を変えてしまう。饒舌に流暢に、嘘ばかり吐いて。

 あの日からずっとあかりは変わっていない、今だってそうだ。

 帰り道を歩く姿は、あの日のまま。

 赤く染まるほど赤い唇で口笛吹きながら、血の滲むような西の空を見やり。

「まあ、あれだよ。蝶野先輩はさ、きっと――アンタと合うと思うよ。応援くらいはするからね、うん」

 こいつの言葉にどれくらいの嘘があって、何処までが本気なのか。俺にはやっぱり、分からない。

 ……こいつの相手を真剣にしても仕方ない、大人しく黙ろう。

 バッグを肩にかけて歩みを早め、俺はあかりを追い越して進んでいく。吹く風はまだ冷たくて、でも春は近づいているのが感じられる。

 もうじき、だ。色んな事が、もうじき動き出す。

 さぁ、頑張ろう。俺は俺が出来る事を、ただやるだけだ。それでどうにかしていくさ、多分な。 

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