取り残された、一人になった。それを自覚し動揺したのは、ほんのわずかな間だけ。
背筋に走った冷たい気配を振り払い、私は自分の置かれた状況を脳内で確認。
ここは京都駅のホーム、晴人に言われた御守りはちゃんと拾えた。お金はあるからここで立ち往生する事はない、お母さんから預かったカードもコッソリと忍ばせてある。この次の新幹線で東京にいくのは余裕だし、なんならこっちで一泊して明日の朝イチで帰っても問題ないだろう。
スマホは充電切れで今は連絡出来ないけど、コンビニで充電用のコード買ってそこらで充電させて貰えば良い。……もしかしたらモバイルバッテリーのレンタルもあるかもしれない、京都駅は便利な所だから。
さしあたって今現在、私に致命的な問題は無さそうだ。
そう自覚すると、むしろこの方が都合が良いのではないかとさえ思えてくる。
今の私は、菖蒲たちと一緒に長く過ごすのがちょっと辛いから。
恋多きと言うかなんと言うか、まさか修学旅行の最中に別れ話を済ませてくるとは思わなかった。そりゃ恋バナに誘った方が目を丸くするよ、うん。
菖蒲は普段通り、誰かに当たる事も拗ねる事もない。私は大喜にフラれてしばらく暴れ倒した身だから、その辺そんな簡単に切り替えられるとも思えないけれど――実際そうなんだよね。
まあそれはそれで、いっそ構わない。問題は、匡くんの方だ。彼は菖蒲に好意を抱いていて、でも高砂くんが菖蒲と付き合い出したから諦めた。その匡くんは、菖蒲がフリーになったと知ったらどうなるんだろうか。まさかまだ知りはしないだろうけど、何処かで知ることになる筈。下手したら新幹線の中で、かもしれない。
「うー……立ち会いたくない……」
気まずいし、気まずい。私は匡くんの気持ちを知ってるから、物凄く気まずい。
そんな気まずい道程を踏むくらいなら、一人で気楽に帰る方がまだマシだ。そりゃまあ、寂しい気持ちはあるけれども。
もしあそこで御守りを取り落とさなかったら、落としたのは仕方ないと諦めていたら。少なくとも寂しさは感じずに済んだだろう。
とは言えそれを悔やみはしない、世の中どっちを取るかだ。この選択は間違ってない。
何より気まずいのは、あの時僅かに思ってしまったから。永遠に続く関係なんて無い、人はいつか別れるのだと。千夏先輩と大喜だって――……などと不届きな考えを持ってしまって、どんな顔して一緒にいられるというんだ。
勿論それを願ったりはしない、大喜の悲しむ顔なんて見たくもない。私はもう、振り切ったんだ。それこそ匡くんにだってそう言ったし、今はもう友達に戻った。万が一億が一あの二人が険悪になったなら、友達として必ず取り持つ気でいる。
蝶野雛は折れない曲がらない、負けたままでなんかいない。進め、私。
……まあ暫く色恋はしたくないけどね、そっちに関してはちょっとブレーキブレーキ。さすがに疲れるわ、うん。
それにしても、だ。
「ん、……んー……」
手の中で頼まれ物の御守りを弄びながら、私はふと思う。あの不躾な後輩は、何を考えているんだろう。まさか私と大喜の事を知ってる訳も無し、でもわざわざ私に頼む理由なんかあるだろうか。単にイジりやすい先輩ってだけなのか、はたまた。
もしかして、もしかすると。
大喜が千夏先輩に向けていたような、私が大喜に向けていたような、そういう……。
「いや、いやいや。いやいやいやいや、まさかまさか」
ああ、まったくもう。やはり一人も良くないな、無駄なことばかり考えてしまう。
とりあえず充電だな、スマホも私もバッテリー切れ。一息吐いてから考え直そう、うん。
悩むのは面倒だ、考えなしがちょうど良い。それが私だ、それで良い。
色んな事から目を背けつつ、私は京都駅ホームを歩き出す。
立ち止まるより良いと信じて。