二人きりだとちょっと間が持たないかも、とは思っていたから花恋が来たのは別に問題ない。
問題ないけど、ノロケに付き合わされる身にはなってほしい。あれこれ言いながらも花恋は針生くんが好きなんだ、ちょっとした愚痴をこぼしたい気分なだけで。……菖蒲ちゃんにすれば良いのに、そういうのは。
まあ良いんですけどね、ハイ。
それより今は、生姜焼きに集中しないと。
しかし生姜焼きってバリエーション多いんだな、調べてみて分かったけど。肉野菜炒めにしたり厚切り肉使ったり、レシピはかなりの数がある。厚切りだと洋食のポークジンジャーな気もするけど、それもそれでまあ悪くないかも。
とは言え今回は大喜くんに食べさせるんだし、工程を減らして完成度を上げるつもり。私は不器用だから手順が多いと怪しくなる、不馴れなんだからシンプルが一番。
焼いてタレ絡めて、付け合わせにキャベツどっさりのパターンでいこう。手抜きだけどサラダ用千切りキャベツも買ってある、繰り返しながら手抜きだけど。私がやると百切りくらいになるんだよね、スライサー無いし。
とは言え多分これなら失敗はない、私だってこれくらいはね。
「……あ」
そこまでやってようやく私は、大きなミスに気が付いた。
食器、二人分しかない。箸は割り箸があるけど、お茶碗や皿は足りない。
うーん、どうするかな。こうしている間にも三人分の肉が美味しそうに焼けていく、悩んでいる時間は無いな。
仕方ない、私の分は丼一つで間に合わせるか。ご飯に乗せて生姜焼き丼だ、ワンパクだけど形にはなってるからヨシ。
――丼、ね。
そう言えば大喜くんに最初に作った時も、丼鉢だったな。まああれはうどんだけど。
大喜くんが打ち上げを断り早めに帰った、と聞いて嫌な予感がした。
お互いインターハイ県予選が終わってからすれ違いが多くて、会話もしなくなっていて。様子がおかしいと感じていなかったとは言わない、でも目を背けていたんだ。大喜くんには蝶野さんがいる、そう思ってたから。
でも胸騒ぎに突き動かされ、私は――大喜くんの部屋の扉を開けていた。
そして夏風邪で苦しげに呻く大喜くんを介抱し、薬を飲むためにも何か食べさせなきゃと冷蔵庫の中身を拝借してうどんを作ったっけ。……まあ私だってそれくらいは、ね。うどん茹でて、麺つゆでスープ作るだけだから。
あの日は今まで出来なかった話をした、だけど今考えると結構恥ずかしい事言ってたな私。それに、それに。……ベッドに押し倒したのは、さすがに粗忽が過ぎた。ああもう、まったく。
しかし本当に大変なのは、あの後だったな。色々とギクシャクするし、蝶野さんは大喜くんに告白するし。波瀾万丈すぎて、目が回りそうだ。今はこうして落ち着いてるけど、いつまで穏やかにいられるか。まあ、良いか。なんとかかんとか、やっていこう。
「……っと」
炊き上がりを知らせる炊飯器の音で我に返ると、肉は目を離していた割になかなか良い色で焼けている。多少焦げたタレもいっそ香ばしい、出来は上々だな。
なんて自画自賛しつつ火を落とし、焼き上がった豚肉を皿へと盛り付けていく。私の分はご飯を盛ってからだ、余ったタレもかけてしまおうか。
時間的にちょっと重いと言うか、遅いお昼なのか早い晩御飯なのか釈然としない時間にこのボリュームはどうかとも思うんだけど、まあ……良いや。
たまにこういう日があっても良いだろう、明日の運動量を増やして対応しようかな。
「――ちー、羨ましいって顔しないの」
三人でのご飯中、花恋にそう言われてふと気付く。私、羨ましいとしか思わなかったな。
蝶野さんが新幹線乗り遅れ、大喜くんが付き添いして一緒に遅れて着いたとかそんな話を聞いても、別にモヤモヤはしていない。まあ大喜くんだったらそうするよね、くらい。前の私だったら、大喜くんと蝶野さんが二人きりだったと聞いたら絶対余計なこと考えたのに。
きっとこれは、私が変わりつつあるという事。
私は大喜くんが好きで、大喜くんは私が好き。それが揺るがないものだと分かってきたのだ、私は。
さてと、だ。私は食卓の下でスマホをタップし、先刻から録り続けていた花恋の愚痴だかノロケだかわからない話を添付し針生くんへとメッセ送信。あとはそうだな、リアルタイムで動画も送ってあげよう。
親友に対して思うべきことではないけど、ちょっとだけ邪魔なのだ。早く帰っていただきたい、本気で。あと変に拗れて欲しくないから、強引にでも仲直りさせてあげないとね。
……正直言うと私、大喜くん分が不足してきている。久しぶりに会ったんだしハグしたり、出来ればキスもまたしたい。
なので花恋を迎えに来なさい針生くん、予備校ももう終わるだろうからなるべく急いで。
さてそうなったら、どうするかな。
いきなり抱きつくのもアレだし、キスするなら歯も磨きたいかも。まあでも二人とも生姜焼きの味なら別に良いか、気にしなくても。
さぁて、どうなるものだろう。