勝てない相手には挑まない、そんなのは時間の無駄。そんな事言っていた先輩に掴みかかろうとして、柊仁に呆れられた事があったな。
格上相手に噛みついていかなけりゃ、一生上には行けない。どうなろうとも、食らいつくしかない。
それはバドの、いやスポーツの世界では当然の事だ。負けたくないなら最初から来るな、と。
でも、だからって。それを色恋に持ち込もうとは、俺はどうしても思えなかった。
傷付くだけだと分かっていても、歯牙にもかけられないとしても。蝶野先輩は、挑もうとしている。
俺は――どうすれば良いんだろう。
「君を一番に応援は出来ない」
そう言った蝶野先輩の瞳に宿るのは、確かな決意。
俺より優先すべき相手が、一番に思う相手がいる。それはまず間違いなく、大喜先輩だ。既に結果は出て尚、この人は諦めていない。
大喜先輩と女バドの鹿野先輩は付き合っている、それは多分同じ体育館にいる連中なら知ってること。だけど他の奴等が知らない事を、俺は知っている。
蝶野先輩が大喜先輩を想っている事、そして一昨年の文化祭でキスをした事を。二人の間にどんなやりとりがあったのか、俺にはわからない。わからないけど、それでもその重さは理解できた。
去年の夏休み明けに大喜先輩と鹿野先輩の交際が公開された、つまりは多分休み前とかその最中に付き合いだしたんだろう。文化祭以降に何かあって別れたのか、それとも最初から蝶野先輩の一人相撲だったのか。それを知ることは、多分無いんだろうな。
なんにせよ蝶野先輩は敗けを認めた上で挑んでいく、勝てなくても戦おうとしている。俺が柊仁に勝ちたいように、だ。
でも今の俺は、その背中を押せない。俺はきっと、蝶野先輩を好きになりつつあるから。この人の一番になりたい、と思ってしまっている。
それは自分勝手で半端で、蝶野先輩にとっては迷惑な話か。だけどそれでも、俺は自分をみてほしいんだ
「最後の悪あがきだよ」
そう笑う声に、悲壮感は無い。なのに寂しさを感じるのは、俺自身の問題。大喜先輩への嫉妬と、ワガママな性根のせい。
全く――冴えないな、俺は。
掃除道具を仕舞って手を洗い、溜め息を一つ。
そろそろ中の掃除も終わっているだろう、でも脚が向かない理由はわかっている。
気まずいからだ。
蝶野先輩も大喜先輩もいる、あの体育館へ今行くのは気まずい。まあ荷物置きっぱだし、戻らないわけにもいかないんだけど。こういう時に元部長がいるのは助かる、あの人基本賑やかしだから多少は雰囲気が軽くなりそう。
――試合は終わり跡形も無くなって、それでも食い下がる。勝ち目を全て失っても、挑む気概を捨てない。傷だらけになりながらも、歩みを止めない。
俺はそこまで、出来るんだろうか。柊仁から逃げ出した、この俺が。
なんにせよ、俺は大喜先輩に勝たなければならない。秀仁を追い越すにせよ蝶野先輩を振り向かせるにせよ、俺の行く先には大喜先輩が立ち塞がる。
どうしたって、やるしかない。
次の夏までに、決着を付けるんだ。
そうすれば何かが始まって、何かが終わるから。