私は表情が少ないとよく言われる。感情が見えなくて、なんとなく不機嫌そうだとかなんとか。実際にはそんな事無いんだけど、顔が硬いんだろうか。
それにどうもお喋りで盛り上がるのは苦手で、会話に入るのが下手なのもそれに拍車をかけているんだろうな。女子同士のコミュニュケーションというのも、あまり上手くはない。と言うか皆どうしてああも器用に話せるんだろう、私はどこかで勉強を怠ったのだろうか。
それでも親や親友たちにはちゃんと気持ちが伝わっている、その筈だ。……多分、きっと。どうかな……うん。
でも今気になるのはその人達とは違う、たった一人の相手に私の思いがどう届いているのかという事。
――いつまでも変わらない距離感じゃあ寂しいんだよ、大喜。
由紀子さんはもしかして、気が付いているんだろうか。私たちが付き合っている事を。
私が大喜の為に夕飯を作りたいと言ったとき、ほんの少しだけ驚いた顔をして。でもすぐ笑って、構わないわよと言ってくれたし。とは言えこうして帰りが遅くなるのはアクシデントの結果であって、予定通りとかではないんだろう。私を信頼して留守を任せてくれる、という話かな。
それは光栄だけど、光栄ではあるけど。あんまりにも無警戒過ぎやしないかな、でもこういうのが普通なんだろうか。大事な一人息子を他所の女と二人きりにする、とかあんまり良くはない気がするのに。
いや待て、それだと私がなんだか危険な人みたいだな。自分から言っておいてなんだけど、そういう扱いはされたくない。
しかしまあ最近の私は、何処かおかしい。大喜に近付きたい触れてみたい、そればかりだ。花恋にも変態とか言われたっけ、そりゃ自分で「変態みたいだ」とか言ったけど、そこは否定してよ親友。
こうして並んで台所に立っていても、気が気じゃない。もしかして、もしかしたら。大喜にその、……不埒な事をしてしまうかもしれない。大喜からは来ないかもだけど、私は自分を抑えきる自信がない。ああもう、私ってばなんなんだ。
包丁もあるし火も使ってる、落ち着け私。二人きりだからって、構えるな。
大喜だって、別に気にしてないんだから。
……そう。大喜はいつも通り、可愛くて格好いい。私が変になっているだけで、大喜は変わらないんだ。私が好きになった、私を好きでいてくれる人は今日もいつも通り。互いを大事な人だと思いあう、優しく穏やかな友好関係。
それは嬉しい、それでも私は思ってしまう。少しはさ、恋人っぽい空気にしないのかな、と。
そりゃあ、――怖い気持ちもある。キスとかそれ以上の事とか、そういうのは考えるのも躊躇ってしまう。
だけど、でも。恋人になるというのは、そういう事なんじゃないかとも思うんだけど。
二人で向かい合ってオムライスを食べ、インタビューの振りをしながら私は考える。
実は正直まだ、この状況が信じられていない。大喜に告白された事も、夢の中の出来事だったのではと疑ってしまうくらいに。
それに私は知っている、蝶野さんが大喜に告白したことを。二人は私から見てもお似合いで、どう考えても邪魔者は私の方だった。なのに大喜に近づく度高鳴る胸は、腹が立つくらいに治まらない。好きになってはいけない、そう思えば思うほどに自分を制御できなくなっていった。
出来るなら聞きたい、蝶野さんへの気持ちを。私はこの人を好きでいて良いんだと安心したい、大喜は私
まさかそんなことは言い出せない、だけど。だからこそ私は、もうひとつの疑問をインタビュアーの演技に乗せて投げ掛けた。
「――私はいつまで、千夏
思いきって口にした言葉は、大喜にとっても不意打ちになったんだろう。スプーンを手にしたまま固まって、身動ぎもしない。
大喜は優しくて暖かくて、何よりも愛しい。私の事もそう思ってほしい、だけどそれだけじゃ足りない。
恋人になったのに、今までと変わらないままではいたくない。
大喜に近付きたい、私に近づいてほしい。
大喜に触れたい、私に触れてほしい。
大喜を愛したい、私を愛してほしい。
それが変態だと言うなら、私は変態で結構だ。
「ち、な……つ。――せんぱいっ」
狼狽えながらも呼んだ私の名前には、やっぱり先輩がくっついて離れない。それでも大喜にとっては精一杯だったんだろう、顔はリンゴのように真っ赤。
まあ、頑張ったみたいだし
これからゆっくり、歩み寄っていけば良い。今の大喜が出来ない事だって、私と一緒ならきっと出来る。二人でいれば、もっともっと先へ進める。
だって私は先輩でそして、――大喜の彼女なんだから。