ああ、うまくいかないなぁ。新入部員の前でもいつも通り、私らしいっちゃ私らしいけどさ。
台詞は噛むし手に書いたメモは滲んで読めないし言った端からどこまでしゃべったか忘れるし、どうしてくれようこのポンコツ頭。お陰で起こしたくもない笑いを起こしてしまった、失敗失敗。
でもちょうど猪股先輩が通りかかって注目を集めてくれたお陰でどうにかこうにか話は纏められた、そこは結果オーライとしとこう。
にしても私、少しは成長してるのかな。去年の今頃、猪股先輩たちは今の私と同じ二年生だったわけで。追い付いた筈なのに、あの日の先輩方には程遠い。晴人にまで『あんなんで先輩やれるんすかね』なんていわれるし。アンタだって同じようなもんでしょうが。
まあ、それは気にしても仕方ない。やれることをやるだけ、それで良い。
きゃいきゃい騒ぐ後輩たちを制しつつ、先輩になりきれない私は今日も部活に励むのだ。
いつか私も、大人になれるのかな。その日は遠そうだな、なんて。
去年の私が何故栄明を選んだのか、それは別に大きな理由じゃない。バド一家のみそっかすとは言えバドは好きで、そこそこの成績でも入れる所を探したらここだったというだけ。まさか小学校時代一緒だった晴人がいるとは思わなかったけど、ね。中学から男子校の佐知川にいったから、たまにお兄ちゃんの所へ練習しに来る以外では顔を会わせなかったのに。相変わらず無愛想で
それは別に良いんだ、うん。それより大事なのは――猪股先輩の事。
男バドの先輩で、いつも早朝から練習していて。面倒見が良くて、お兄ちゃんが誉めるくらいの努力家で。
……ちょっとだけ、好きだったかもしれない。しれない、と言うのはそれが確定したものじゃないから。優しくて好い人だから側にいて心地よかった、でもこれが恋愛感情なのかは分からない。蝶野先輩も、気持ちに無理矢理名前をつけて歪なハコに入れる必要はないって言ってたし。
あとなぁ……猪股先輩って、彼女さんいるんだよね。それもスゴい素敵な。あれくらいにならないと釣り合わない、頑張るは頑張るけどさすがに辛いわ。
その鹿野先輩は卒業したけど、猪股先輩の事だから一途に決まってる。もしかしたら私の後輩がアタックするかもしれない、そうなったら私が場を納めないと。去年蝶野先輩が私にしてくれたように。
たかが一年、されど一年。それは一生埋まらない差で、きっとこれからも私は先輩方の背中を追うばかり。ああなりたいな、大人だな、と思いながら。
後輩たちは、私をそんな風に見てくれるかな。うーん、頑張らないといけないか。
しかし去年はあんなにかっこいいかっこいい言われてたかな、猪股先輩。やっぱりインターハイ出て有名になったってのもあるか、うん。全国言ったんだもんなぁ、お兄ちゃんみたく。そりゃモテもするよね。でももし今鹿野先輩がいたら、ちょっと複雑な顔しそうかも。
……そう言えば、そう言えば。蝶野先輩もなんか、浮かない顔してたっけ。どうかしたんだろうか。
あの二人は仲良いんだけど、なんか距離感が微妙なんだよね。晴人も蝶野先輩にちょっかい出してたな、相手されてないみたいだけどさ。栄明のスターズオブスターズオブスターズじゃ挑むだけ無駄だと思う、いちいち言いはしないけどね。勝手にフラれてればいいんだ、あんなのは。
なんだか私の周りって色々起こりそうな予感がするかも。
何もないと良いな、実際さ。あれこれ面倒なのは御免だ。
集中集中、私だって練習しなきゃ。インターハイは難しいにしても、もう少し勝てるようにならないと。兵藤家の兵藤じゃない方、とか言われてられないんだから。