うーん、今日も作る量を見誤ったな。ハンバーグのタネは明らかに多すぎる、なんで作る前に気づかないかな。
挽き肉は足が早いから使いきろうとしてやりすぎた、大喜はよく食べるけどさすがに全部は無理か。まあ良いや、残ったら明日のお弁当にも入れてやろう。いっぱい食べてすくすく育て、男の子なんだから。
しかし最近はどうも、こういうことばかりだ。なんだろうな、……って理由は一つか。
――千夏ちゃんが家を出て何ヵ月にもなるのに、やっぱりまだ慣れていないんだな私は。そりゃ二年近く一緒にいたんだから、当然かもしれない。もう無意識に自分の子くらいの感じで思ってたんだろうな、産んでもいないのに。
冬樹くんの気持ちもわかるけど、それでももっと一緒にいたかった。
御迷惑をおかけしました、あの子にはこれから独り暮しをさせます。
そう言った冬樹くんはまだ二日酔いが残った顔で、でもその眼差しは真剣で。私たち夫婦は、揃って圧倒されるしかなかった。
彼の性格は知っている、勢いでこんな事を言いはしない。口下手で強面だけど、誰よりも優しい人だ。貴方たちを信頼できないとかそういう事ではないんです、とちゃんと言ってくれる辺りがその証拠。
そしてその理由にも、見当が付いていた。
夫は大喜たちのインターハイ後の打ち上げに混ぜてもらった時に気付いたそうだけど、私はもっと前から知っていたのだ。大喜と千夏ちゃんの関係が、あの正月明けから変わっていた事に。わざわざ誕生日を祝いたいから夕飯を作ろうとするとか一挙手一投足を気にかけたりしたりとか、千夏ちゃんは母親みたく好意が分かりやすいから。あいつは器が大きいんじゃなくて底が抜けてて、感情を隠すのが下手だもの。
大喜はうちの人に似て奥手だしまさか間違いは犯さないだろうけど、それは冬樹くんにとって理由にはならない。大事な一人娘を案ずるならば、本人同士の意思を無視してでも引き離すのが筋だ。
まあ、とは言え。まさかそんな算段をしておいて上手くいかないなんて、冬樹くんも思わなかった筈だ。俺が代わりに千夏先輩のお父さんの所に行く、とか言い出すなんて。いや、いやいや。いやいやいやいや、なんだあれは。私も頭悪い方だけどどんだけバカなんだ。
しかしバカは強いのだ、バカだから引き下がらないし折れやしない。押しの一手苔の一念で冬樹くんとやりあって、なんとか認めさせてしまったそうだから。『お義父さんなんて呼ばれる筋合いはまだない』『いっその事、娘はくれてやるから一発殴らせろと言うべきでしたか』なんて愚痴ってくる冬樹くんなんて、初めて見たよ。
結局千夏ちゃんが家を出る予定は覆らなかったけど、準備の期間が出来たのは大きかった。別れはいずれ来るものだ、それは仕方ない。
ウインターカップが終わって引っ越す千夏ちゃんを、またねと笑って見送れてよかったよ。
なんというか私は、
柄にもなくそんなフワフワした事を考えたせいだろうか、ふと私は身体の中にある違和感に気が付いた。
「ん、うー……」
普段体調を崩さない私だから、たまに変な感じになると身構えすぎてしまって良くない良くない。どうせ一晩寝れば忘れるやつだから、気にするのも面倒くさい。大体それでなんとかなるし、ならなかった時なんてそれこそ――大喜が出来た時くらいだった。
なんだか不調だなと思ってたら急にガタッと来て、病院行ったら妊娠してるとわかって。あーこれが悪阻かー、と自覚した辺りからみるみる内に悪化して、一時は死ぬかと思った。
…………うーん…………まさか、なあ…………。心当たりはあるけど、今になってそんな……。