アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#216 「俺 勝つよ」SideB 砂を噛む

 朝が来るのは、ずっと楽しみだった。早起き自体は億劫でも、朝練に行けば千夏先輩に会えるから。

 いつもの時間に起きて母さんにおはようを言って、朝を食べて弁当持って体育館へ向かう。平日は基本ずっとその流れだし、休日も大抵は練習に出るから生活リズムは変わらない。ここ二年は千夏先輩がうちに住んでくれていたから、起きる事そのものが楽しかった。一日は今よりずっと短くて、終わるのが惜しかったし新しい一日の始まりが喜ばしかったな。

 ――だけど。だけど今はもう、家でも朝練でも千夏先輩に会うことはない。それだけでも堪えたのに、ここ数日は母さんもいない。誰もいない台所で一人食べる朝食は味気無くて、心が軋む音がする。

 俺はどうして、頑張っているんだろう。インターハイにも去年行った、千夏先輩と釣り合いも取れているんじゃないかなとも思う。

 ()()()()()()()()()。そろそろ休んだって誰も咎めないよ。

 考えてはいけない事が、頭のなかでリフレインしていく。

「……行くか」

 思考を強引に振り切り、食器を片してバッグを背負う。後輩の手前もあるし、朝練はサボりたくない。それに習慣を曲げたくない、千夏先輩に幻滅されたくない。

 でも、だけど。頑張ってる姿を見てほしい、そう思うのに。

 千夏先輩には、なかなか会えない俺がいる。顔は見られても、話をするような時間が取れない。

 毎日バイト先からお惣菜を持って駆けてきてくれる千夏先輩、俺を気遣ってくれる千夏先輩。こんな好い人に迷惑をかけたくない、重荷になりたくない。変化を嫌がったりしないと誓ったから、先輩の負担になるような話はしない。大丈夫です平気です、と笑って背中を見送るだけ。

 やるべき事があるから一緒にはいられないけど、気持ちは繋がってるから大丈夫。

 そりゃ本当は、そばにいてほしいけれど。

 部活で勝てない、母さんがいないのが辛い。泣いてすがって、そうしたらどれだけ俺は楽になれるだろう。

 しかしそれは、千夏先輩に俺の悩みを押し付けるという事だ。そんなのは良くない、千夏先輩には大学生活を楽しんでほしい。

 

 いつか夢佳さんが言っていたな、部活を頑張って何になるんだと。

 俺はそれをただの逃避だと、何の言い訳ですかと真正面から否定して、その結果思いっきり引っ叩かれた訳だけど。今の俺にはもう、そんな事は言えそうにない。

 千夏先輩が見てくれない、母さんも支えてくれない。将来の役に立つ訳でも人生を預けられる訳でもない。高校の部活で必死になって、何が残るんだろう。

 去年の今頃は千夏先輩とお互いインターハイ目指して切磋琢磨し、俺は針生先輩に打ち勝ちその思いも背負って戦った。怪我で退かざるを得なかった千夏先輩の分も、勿論。

 あんな熱意が、今の俺にあるだろうか。匡か俺どちらかは地区予選で引退、それなのに何処か俺は冷めている。そういうものだ、仕方がないと。

 ……ダメだな、こりゃ。無い頭使ってバカな事考えて、それこそ何になるんだ。

「ったく、柄にもないな」

 溜め息を吐きつつ、ポケットに入れっぱなしだったチョコを口に放り込む。糖分で脳をブーストしたら、少しは前向きになれるだろう。雛に貰ったのをなんとなく持ってたけど、こういう時咄嗟に食べられるようにしておくのも悪くないな。

 クドい程甘いチョコは舌の上で溶け、その滋養が染み込んでいく。運動にはカロリーだ、栄養補給栄養補給。

 そう言えば、修学旅行が終わった辺りから雛との蟠りが治まった気がする。友達に戻ったあともギクシャクしてたけど、今はすっかり元通りになれて良かった。……良かったんだよな、うん。

 しかしなんだろう、最近の俺は。どうにもモヤモヤしていけないや、気持ちを切り替えていこう。

 泣いても笑っても、もうじき終わりは来る。その時まで、頑張らないといけないな。

 

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