アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#217 「寄り道しない?」SideB 手綱を取り損ねる子

 神絵師とか画伯とかが半笑いで使われるようになって、どれくらいになるんだろうか。いやまああの子が純粋に誉め言葉として使ってるのは分かるんだけど、なんか言われて素直に喜べないというかなんと言うか。

 絵は結局技術だから、見た通りに描くだけなら練習するだけで出来るようになる。親が美大出で有り余っていた画材をオモチャにして育った私にはでも、創作の才能は無かったのだ。写真が無い時代だったら写実絵師になれたんだろうけど、表現となると難しい。新体操にしたって動きはどうにか出来ても、創造性に欠けると言われて久しい。あー規定演技復活しないかなー、自由演技だけだと私みたいなのは辛いんだけどなー。

 雛はその辺が完璧で羨ましい、いやあの子は()()だからこそ悩んでるのかもしれないけどさ。新体操にはお手本がない、自分の求める姿を表現するしかない、創作の世界と同義だ。出来ることが多いからこそ、どこまで行けば完成なのかが見えない。

 不調を見かねて励ましたいというのは口実だ、本当のところ雛は自分自身の為に猪股を連れ出した。何があっても天上天下唯我独尊、自信とプライドに寄って立つ無軌道な天才。私の親友は、いつだってそうなのだから。

 

 雛に告白された時、猪股はもうあの女バスの先輩を好きだった。何よりも雛自身がそれを知っていて、私にも何度か愚痴っていたものだ。私の方が長く一緒にいたのに、と。でもまあそれで諦める程物分かりが良い女なら、話は拗れたりしない。あの秋合宿で菖蒲が余計な事をして、完全に脈がないと分かって。

 そこから友達に戻るとか戻らないとか悶々としたりしなかったり、猪股が先輩さんと付き合いだしたり晴人が雛にちょっかい出し始めたり。色々起きて、でも結局雛は――変わらなかった。

 彼女持ちでも構わないし気持ちは捨てない、別に迷惑かけてないから良いでしょ、と私に言われたってなあ。それこそ猪股に言ってほしい、まあ言わないんだろうけどさ。もし言ったとしても同じかな、雛は誰の言うことも聞かないから。

 唯一の救いは、雛が強引な手に出てないって事。今回も私らを連れ出した辺り、二人きりになろうとしてない訳だからね。……工藤くんはともかく女バドの子は殆ど面識無いから、ちょっとだけ気まずい。

 ……とは言え、だ。これくらいならともかく猪股に変なアプローチするとか二人を別れさせようとするとかなったら、さすがに殴ってでも止めてあげないといけないな。ガス抜きなら付き合うけど修羅場は勘弁だ、それを楽しむほど私は強くない。

 

 やれやれ、だな。

 人を誘っておいてフラフラ飲み物買いに行っちゃう難儀な親友を見送って、ふと思う。晴人も災難だな、なんて。雛が猪股を諦める日は、多分来ない。それでも雛に気持ちを置き続けられるのかな、あの不躾な後輩は。考えてみればあれは、まるで去年一昨年の雛ではないか。相手に好きな人がいると分かってて、でもどうにか振り向いてほしいと頑張っている。これで一回フラれて、それでもまだ続ける気になれば完璧に雛だな。いやまあ失礼な考えだけどね、両方にとって。

 でも晴人は晴人で、しっかりと芯を持って雛を追いかけている。もしかしたら、も有り得るかも。猪股が完全に雛をフリ切れば――。

「ん、……ぁ」

 そう言えば、そう言えば。猪股も飲み物買いにいって、雛はそれを追うように……って。

 これは、不味くないか。あの子はいつも想像の斜め上をカッ飛んでいく子だ、テンション上がった状態だと何をやらかすか分かったもんじゃない。

 あかりちゃんが熱っぽく語ってる所だけど、中断させて探しにいくべきだろうか。でもそれはそれで野暮だし、どうしたものか。

 本当に手がかかるな、あの天才は。

 

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