まったく、どうしてこうなったのか。
西陽が射す寝室、乱雑に脱ぎ散らかされた衣服を蹴っ飛ばし。紫煙をくゆらせつつ、寝惚けた頭で考える。
我が身に起きた事を。
今朝は早めに起きたし一応大学には行って、休講告知は見たんだ。それで結構時間が空くのが分かって、それで一旦帰って――。
「あぁ……そっか、そのまま今に至るのか」
どうしてこうなったのかじゃないよ、単に全部投げ捨てて寝くたれてただけだ。また講義落としちゃったな、そろそろ不味いぞこれ。
いやはや、酷いなぁ私。親に金出させてなにもせずモラトリアムを満喫してんだもん、しかも特に興味ないけど入りやすかったからって美大なんて金かかる所で。こんなだから蝶野家のみそっかす扱いなんだぞ、私。少しは反省しろ私、妹はきっと部活頑張ってる時間なのに。
新体操日本代表の娘、それがかつての私の肩書き。まあ言われたのは本当に小さい間だけなんだけど、ね。どうも母親の血が濃いのか運動能力にはステ振りされないまますくすくと育ち、気が付けば誰からも期待されなくなっていた。その分妹の雛は才能の塊で、幼い内から蝶野一族の期待を背負うスーパースター。
こんな風に言えばさぞ妹を妬んでいるかのようだけど、でもまあ私は別に劣等感を抱いたりした記憶はない。むしろ周囲からのプレッシャーを浴び続けて尚輝く妹を誇りに思う、姉としてと言うか一人のファンとして。
雛は楽に楽に適当に生きている私と違って負けず嫌いで頑固者、負けを認めないし勝つまでやめない。正直それも程度によっては良くないんだけど、それさえ魅力に変えてしまう。ああも自信満々だったら人生楽しいだろうな、なんてね。
どうも人と競うとかそういうのは苦手で、中の下くらいで安定する人生を目指してきた節がある私。夢もチボーもありゃしない、のんべんだらりと勝手気儘に流れるままに。ダメ人間と言わば言え、私はこの程度だ。
夕暮れの街を見下ろす高層階の窓に映るのは、いつもの冴えない顔。今日はこんな時間だしもうなにもできない、全部明日だ明日。きっと明日は良い日になるさ、多分。
とりあえず食べて寝よう、家畜みたいな生活だけど楽だから良いやもう。
「あー……もう一服するか」
二本目の煙草に火を着けようとして、ふと思い出す。そういや正月に帰省した時、雛が話してくれたな。――失恋した、とかなんとか。
ずっと好きだった、告白もした。でも。でも、受け入れては貰えなかったそうだ。
あれを袖にするとはどんな男―いや女かも知れないが―なのやら、ちゃんと聞いとけば良かったな今さらながら。
しかし、だ。あの世界は自分を中心に回ってると思ってる唯我独尊な雛が、『諦める』なんて口にするとは思わなかった。欲しいものはどうやっても手に入れるワガママプリンセス、まさに蝶よ華よと育てられたあの雛が。まあ私だって同じ家で同じ親に育てられたんだけど、私は踏まれたらそのまま萎れる弱い麦だからなぁ。
だけど、でも。あれだけ自分勝手な雛が、一回フラれたくらいで本当に諦めるんだろうかと思ってしまう。毛が生えてるどころか超合金の心臓だぞ、あれは。下手したら押して押して押し倒しかねない、負け方を知らない子だから厄介だ。拗らせてワケわかんないことをやらかすかも。
私みたいに勝ち方を知らないよりはマシだけど、いやマシかなこれは……どうだろ。
まあでも、私なんぞが心配しても仕方無いか。雛の人生、雛が納めよ。
姉は姉で妹を見守りつつ、適当にフラフラやっていくさ。