人の気持ちは分からない、信じてたらあまり得はしない。特に本心なんてもの、そうそう分かりはしない。どんなに近くたって、どんなに大切な相手だって、腹の中までは見えないから。
それにこっちだって神様じゃない、出来ないことはあるというか出来ないことだらけ。だから悩みを打ち明けてほしいとか頼ってくれとかは言わない、私は無力な一女子大生だ。
でも、だけど。辛い時に寄り添って、ただ黙って話を聞くことは出来る。道端の案山子扱いで良い、想いを吐き出して楽になってさえくれれば。
折り紙を挟んで向かい合い、静かに私は大喜くんを見据える。
その哀しみへと。
一学年早く過ごし卒業した私は、バスケを引退する間際になってようやく気付いた。バスケを通じて出合い、そしてもう二度と会うことがない人達が余りにも多いのだと。
先輩方や仲間たち、後輩とはまた会える。コートを降りても夢佳とは一生友達だろう、そうあって欲しいし。
しかし公式戦で鎬を削り、同じ時間を過ごした多くの相手とは、この先顔を合わせる事さえ無い。そりゃあ大したことないとか成長してないとかあれこれ言われたけど、それでも試合が終わればノーサイド。お互いバスケが好きで切磋琢磨し続けた、謂わば戦友なのだ。
そう気付くと、残り少ないバスケ部員としての日々が急にいとおしくなったのを覚えている。もっと試合したかった、もっと話したかった。思い出に変わる前に、もっともっと楽しみたかった。
大喜くんもきっと、そうなる。チーム競技のバスケと違ってバドは個人競技だ、部内の全員がライバル。自分が勝つことで同年代の誰かを引退させる事になるし、負けたときが自分の引退の時。去年針生くんも、そんな風に溢していたな。
今は由紀子さんもいないから、大喜くんはきっと一人で堪える。私に相談したら負担になる、とか考えて寂しいのも辛いのも見せようとせず抱え込んでしまう。
私だって樹の股から産まれた訳じゃない、多少はその辺も見抜ける。……うんまあ、多少はね。
「これは"毎朝早起きして偉いで賞"のメダルね、それから……」
折り紙のメダルを並べながら、一つずつ想い出を辿っていく。大喜くんと私の、大事な想い出を。
あの朝が無かったら、私たちはこうなれなかった。
大喜くんが諦めることなく歩んだから、私も頑張れた。
感謝することばかりで、本当に世話になりっぱなしだな私は。
そんな大喜くんは、自分を褒めるのが上手くない。俺なんてまだまだです、と言って目を背けてしまう。
なら私が、その役割を担おう。大喜くんの分まで、大喜くんの心を気遣おう。
私は知っている。大喜くんがどれほど頑張ってきたか、どれほど傷付いても歩みを止めなかったか。
私は知っている。大喜くんの優しさを、その真っ直ぐな情熱を。
私は知っている。私を好きになってくれた大喜くんは、私が好きになった大喜くんは、今目の前にいる大喜くん。大喜くんが大喜くんである事こそが、私にとって救いなのだ。
もう頑張らなくて良いよ、よくやったね、お疲れさま――なんて事は言わない。大喜くんを傷つけるだけだから。
私はこれからもずっと、大喜くんの隣にいる。肩を貸したり話を聞いたり、そうやって歩いていく。
私はここにいる、私がここにいる。
だから――、
「大丈夫だよ、猪股大喜くん」