柄にもないな、こんなのは。そうは思えどせっかく笠原くん用に作ったクッキーだ、置いてくるのもなぁ。
一応皆のと同じようにラッピングしたから、開けるまではバレないだろう。もし渡す包みを間違えてたら間違えてたでその時その時、運と間が悪かったってだけ。
別にこれは単なる時候の挨拶みたいなものだ、大舞台に挑む部員たちを支えるのもマネージャーの役割なんだし。
色々と心の中で屁理屈を捏ね回しつつ、クッキーを配って。皆にそろそろ開会だと伝え、くるりと背中を向ける。
全員が勝てる訳じゃない、三年生は殆どがここで引退になる。それは分かっているけど、だからこそ。一緒にいると、一人だけを応援してしまうかもしれない。
全く本当に、らしくない。菖蒲は皆の菖蒲なのに、笠原くんが絡むといつもこうだ。
他人のモノに興味を持つなんて良くないのに、なあ。
あのいけ好かない陰険女に散々鞘当てされたのが、もう半年も前になるのか。名前聞いた上でマネージャーさんって呼ぶし付き合いの長さでマウント取ってくるし、女子の汚い部分を煮詰めてフラペチーノにしたみたいな奴だったなあれは。
いや菖蒲だって色々言われるし女子の友達あんまいないし、少なからずあんな風に見えてるんだろうけどさ、だからこそあいつ嫌い。同族嫌悪って言うかなんか本能的に嫌、多分前世でも仲悪かったと思う。
その上、それに加えて。結局あの女が、笠原くんの――好きな人なんだよね。
文化祭の時にそれを知ってから、自分の気持ちが冷めていくのが分かった。ああ、そうですかって。元々そこまででもないし、それこそあのメガネ陰険だし。
いくら気持ちがあっても他人から奪うのは無しだな、修羅場なんか願い下げ。数をこなせば楽しみに変わるとか言うけど、菖蒲はそんな疲れる事はしたくない。荒事は勘弁だ。
誰かを好きになるのもなってもらうのも、楽しいことであるべき。あんな風に悩んだり困ったりするものじゃない。
そりゃあ雛っちはあんなにも泣いて叫んで、それでようやく立ち直ったけどさ。菖蒲はああはなれない、あれは無理だ。楽に楽に適当に、渡る世間はチョロかった、で生きてきたんだもの。どっちが良いとか悪いじゃなく、私には合わない。
それはそれ、で終わらせよう。好きとか付き合うとかそんなのは無しにして、友達として応援だけしよう。今回はちょっとだけ踏み込みすぎたけど、今後は気を付ける。
――そう、それで良い。
「あ。あー……そっか」
歩きながら対戦表を見ていて、小さく声を漏らしてしまう。遊佐柊仁、の名前を見つけたから。
そうだ、遊佐くんも出てるじゃないか。そもそも菖蒲は遊佐くんに逢いたくてバド部に来たのに、あれ以来顔もロクに見れてない。うーん、今の今まですっかり忘れてた。最近は遊佐って言えば一個下の晴人だからなぁ、雛っちにお熱の。あれもあれで諦めが悪い、釣り合い取れてないし諦めても良いのに。
いやま、それこそ柄じゃないかあれは。妥協してほどほどの彼女を、なんてタイプでもなさそうだし。
そういや雛っち最近いのたと妙に距離縮めようとしてるな、いのたは離れたがってるっぽいけど。
んー……まさか雛っち、焼け木杭に火が点いちゃったかな? でもそうなるとちーちゃんが本気で怒りそうだし、やめてほしいんだけどなぁ。
菖蒲は波乱も変化も好きじゃない、皆が今のまま幸せであれば良い。だからあんまり吶喊しないでくれるとありがたい。
このまま続け、平和な日々。いつまでも、どこまでも。