ベスト16を「勝てた」と言って良いものか。むしろ敗けなんじゃなかろうか。一人帰る道の途中、そんな事を考えてみる。らしくないな、とは思うけど。
柊仁にも大喜先輩にも当たらず、だからこそ滑り込めただけ。運が良かっただけの県予選進出……なんてそれこそ俺らしくもないけど、そうとしか思えない。
取り立てて何があるでもなく普通に勝って普通に負けて、それで終わった日だったな。順当と言うかなんと言うか、そのくせ焦燥感はある。
勝たないといけない相手が増えるばかりで、勝ち目が見えない。筋トレ追加し技術も磨き、でも――それだけだ。
俺にはどんな勝つべき理由があるんだろうか、それともそんなのは無いのか。ただなんとなく負けたくない、その程度かもしれない。
ああ、どうなるんだろうな俺は。
柊仁は一つ上なだけ、それなのに俺が出来ることは何でもできる。何を考えてるか分からない、どうして優れているのかも分からない。才能なのかなんなのか、まるで中身が見えないけどやたらと強い。
弱い方の遊佐、とか言われて久しい俺は、遊佐弟と呼ばれるのが嫌いだ。あれの付属物みたいに言われたくない、廉価版扱いすんな。
同じ学校に居続けるのに辟易して栄明に進学し、そこで会ったのが大喜先輩。最初はタメだと思うくらいだったけど、柊仁やあの兵藤さんまで一目置くような人だとは。分からないものだな、人間って。……あああとあかりが
突出して何処かが凄いんじゃなく、ずっと努力し続けて弱点を潰してきた人。柊仁とは違うベクトルで強い、そして俺と同じく柊仁に勝とうとしている。
柊仁に勝つには大喜先輩にも勝てないといけない、そして大喜先輩に勝てないと――蝶野先輩に届かない。
いつのまにか好きになっていたあの人は、大喜先輩が好きだから。
君を1番に応援は出来ない、蝶野先輩はそう言った。あの人の1番は、大喜先輩だ。今日は来ていなかったようだけど、観戦に来たなら俺なんか見やしないだろう。
報われないと分かっていても、傷つくだけであっても、多分気持ちを曲げてはくれない。なら俺は、どうするべきか。
――諦められないなら、それで良い。それでも俺は、あの人を好きだ。全力で戦い勝って、振り向かせよう。
きっとあの人は、俺のそんな気持ちを知っても苦笑するだけだろう。無駄なあがきだと呆れるかもしれない。それで良い、それが良い。
考えたって仕方ない、ただぶつかれば良いさ。
次の県予選、柊仁にも大喜先輩にも勝ってやる。それで足りないなら全国でも勝つ、そしてそうなったら告白の一つもしてみるさ。
何度でも何度でも、挑んでいこう。俺は折れないぶれない曲がらない、一直線に突き抜けるだけだ。