神様でも天才でもないから、正解だけ選んで生きられはしない。チャンスは逃すし取り零す、そんな事ばっかりだ。
引退したからってケーキどか食いしたり大人げないやり方で逃げられなくしたり、考えてみれば良い手でも何でもない。思い付きでその場のノリで、適当にいい加減。大喜と蝶野さんを二人だけにしたのも、特に考えがあっての事じゃない。
ただ、堪えきれないだけ。あの二人に挟まれるのは、さすがに辛い。蝶野さんの焼け木杭に火がついてしまっている以上、気まずいったら無いんだ。
しかもその行く先は、絶対に良い道にはなるまい。大喜には千夏先輩がいる、そこは動かしようがない。
蝶野さんは諦めるという思考を持たないようだし、これは拗れるだけ拗れるだろうな。
――今からでも戻ってウヤムヤにするか、でもなあ。それで怨まれてもつまらないし、何より割り込む事もそれはそれで良くない。
三人一緒でいるのが一番とは、もう言えない。兎田コーチのお陰で潰れかけた大喜を連れ出そうとした、あの時のようには。
四年間、言葉にすれば短いけど俺の人生の二割以上。それだけの時間が過ぎても、ケーキの味は記憶とそう変わらない。ちょっと食べ過ぎたと感じてしまうのは、その分俺が変わったせいだろうな。
……変わったのかな、俺は。咲季の事を振り切れず、バドでもそこそこの成績で。進路は建築系にしたけど、まだ先はぼんやりとしか見えない。こんなんでちゃんと大人になれるのかな、本当にさ。
大喜は気が付けばバド部の中でも頭角を表したし、千夏先輩への想いを実らせた。蝶野さんは相変わらず栄明のスターで、ぶれることなく自身を貫いている。
同じ視点で見ていた世界は、三者三様で少しずつずれていく。
次の四年後、そのまた次の四年後。俺たちは、どうなっているんだろうか。
いつまでも仲良くいられるとは、思えないけど。
どうやったって、大喜と蝶野さんの関係は修復しようがない。大喜が千夏先輩と別れる事はないだろうし、そうなったとしても蝶野さんを選ぶとは思わない。でも蝶野さんは、何があろうと変わらないだろう。いっそもう、完全に壊れてしまうしかないかもしれない。
まあ無責任と言えば無責任な話だけど。俺は結局あいつらをどうしたいのか、わかりゃしない。
恋愛に支配される関係は寂しいけど、でもそういう気持ちを一切持たないままではいられない。何処かで必ず、破綻する時は来る。できればそれが遠退きますように、そう願うしかない。
せっかく買ったケーキが崩れないよう自転車を押しながら、ふと感じたのは早めに吹いてきた初夏の風。俺のバド生活も、もうじき終わる。大喜にはああ言ったけど、本格的に練習へ参加する時間は取れなくなる。あとは次期部長指名を済ませ、夏休みが終わったら正式に引退か。
そしてそうなれば栄明での六年間も、残り半年もない。忙しくなる、これはまた忙しくなるぞ。人の世話を焼く余裕なんか、無さそうだ。
あの二人には、勝手にどうにかなってもらおう。俺がどうにかする義理も、考えたら無いんだから。