――行かぬ、か。バッサリ斬って捨ててくれたもんだなぁ、まったく。
俺を応援してくれないのはまだしも、大喜先輩の為に県大会見に来るとは思ったんだけどな。予選の時は新体操の方と日程被ったらしいから仕方ないけど、あの人なら押し掛けそうなのに。
島崎先輩のアシストもあってそんな話をしてから数日、俺は今日もその事を気にしつつ練習に励んでいる。……うん、ちゃんとやってるよ俺は。次こそ柊仁にも大喜先輩にも勝たないといけない、足踏みする時間なんかない。
そうすれば俺は「遊佐の弟」ではなくなるし、蝶野先輩も少しは俺を見てくれるだろう。
不純な動機と言わば言え、今の俺はこれで良いんだ。
栄明に来て一年、俺はだいぶ変わったと思う。苗字で呼ばれて怒ることも無くなり、目付き悪いなりに新しい友達もいる。あかりからしたら意外だろう、昔の俺は野良犬みたいだったから。
その大きな理由は多分、蝶野先輩だ。最初はレオタード姿に惹かれただけで、どういう人かも知らなかった。
やがて俺が知ったのはあの人が大喜先輩の友達で、新体操部のエースでそして、……報われない恋をしているということ。
修学旅行帰りの蝶野先輩は、それを態度で俺に示していた。好きな人がいるからあんたの応援はしない、と。
……俺は自分の気持ちより、蝶野先輩の方が大事だ。だからそれはそれで構わないんだけど、でも大喜先輩は彼女持ち。一個上の女バスにいた人で、俺も一度バドのダブルス組んだことがある。まあその、好い人だなとは思う。
一方で一昨年の文化祭で大喜先輩は蝶野先輩とキスしたそうだし、その辺がどうなってるのか俺には分からない。分からないのが面倒だけど、出来れば蝶野先輩には笑っていてほしい。
どうすりゃいいか、どうなれば良いのか。考えても答えはでない、俺が考えたってそもそも意味はない。俺はひたすら頑張るだけだ、通じると信じて。
試合の数日前まで調子悪そうだった大喜先輩は見違えるほど元気になった、笠原部長も引退を伸ばして熱心に部活に励んでいる。守屋マネは……どうだろうなんか考えてはいそうだけど、あの人意外に食えない人だから分からん。あとあかりもあかりで、下手なりに後輩たちを率いている。蝶野先輩はと言えば見た感じそう変わってないけど、明らかに悩みを吹っ切った感じでイキイキしている。大喜先輩笠原部長と三人一緒にいる時間も、別にギクシャクした様子はない。俺の知らない所で、何か大きな動きがあったのだろうか。
まあそりゃ、生きてれば色々起こるか。皆それぞれ、自分の道を進んでいるのだ。
さて俺は、どうしようか。大喜先輩に勝って柊仁にも勝って、蝶野先輩に想いを通じさせて。その先には、何があるんだろうか。
目指すものは見えず、でも立ち止まれはしない。右に行けば断崖絶壁があるかもしれない、左を行けば不慮の事故に遭うかもしれない。それでも道を選ばなければならないのなら――せめて、真っ直ぐ前を見据えて歩こう。そうすれば例え間違えたって、迷った気はしないものだ。
とりあえず好きな人がいる今の生活は、とても楽しい。それを噛み締めながら、一歩ずつ行こう。