体育館に誰が来ようと、俺に拒否する権限はない。ただちょっとだけ、気まずいってだけだ。
ドヤドヤと入ってくる西田前部長たちは、勉強の息抜きでもする気だろうか。大学生がどんな生活してるかなんて知らないけど、さ。
別にOBが来たからって何がある訳じゃない、俺は自分の練習をするだけ。
大喜先輩はまだ来ていない、珍しいけどまあそれはそれで構うまい。
せめて練習時間だけでも、あの人に負けたくはないから。
無心になろうと振るうバドラケはでも、雑念が絡み付いて綺麗な軌道にはなってくれない。
「――っ」
分かってはいる、無意味に追い込んだ先に強さは無い。一切合財擲ったからって上達はしない、それどころか末路は悲惨だろう。
前に合宿所で読んだ、古い漫画のように。
確か浪人生の主人公が、何かを断つ事で願いを叶えてくれる小さなお地蔵様を手にいれるんだ。
趣味を止めたり好物を食べなくなるだけで、大抵の事は成功する。それを使って何もかもうまくいき、良い大学を出て銀行マンとして出世して。
それである日いつものように願いを言おうとして、ふと気が付く。
趣味も好物も家族も、自分には一つも残っていないと。
何もかも断ち続けて、もうあるのは命だけだった――って話。
まあ結構怖い話だけど、今は身につまされる。
捨てて捨てて研ぎ澄ませて、それでも柊仁に勝てなかったら。俺はそこから、どうすれば良い。
柊仁は何も求めない、でも手にしたものを捨てはしない。ただバドを楽しむだけ楽しんで、それだけで強くなる。雛先輩もきっと、そういう人だ。
俺とは違う、違いすぎる。
柊仁にも大喜先輩にも勝ったとして、俺はそのあとどうするんだ。バドしか出来ない、他を考える余裕がない。大喜先輩は二年の時にインターハイ行って、美人の彼女さんもいて、将来も考えてるのに。
俺は――勢いで雑に告白するくらいしか、していない。
しかし思い返すとバカだったな、俺。まあバカだけど。呼びに来た先生、すごい気まずそうな顔してたもんなぁ……。それに私を行動する理由にするな、って感じであっさりと袖にされてしまった。まさかあんな真一文字に切り捨てられるとは思わなかったというか、少しは悩む素振りくらい見せてくれないかな。食い気味でフラれたもんなぁ……。
俺にはやはり、バドしかないのか。
大喜先輩はまだ来ない、今日は休むのかな。俺はそういうのは無理だ、負けたとき「あの日練習しなかったからだ」とか思ってしまう。……分かってる分かってる、その考え方だから負けるんだと。
努力の量で全部決まるなら、苦労はしない。努力は全員してて、上にいけば努力家の天才が溢れている。努力に加えて才能と運、そして巡り合わせが必要だ。俺はいつだって必死で頑張るふりをして必死で逃げているだけだ、現実を認めたくないから。
柊仁に勝ちたいなら佐知川にいるべきだった、でも比べられたくなくて栄明に逃げ込んだ。ここから逃げる場所はない、向かい合うしかない。
雛先輩だって戦ってる、俺も戦わないと。
勝った先の事なんて、勝ってから考えよう。とりあえず手当たり次第に投げられるもの擲って、それでどうにかしていくんだ。
バカは黙って突っ込むだけで良い、無い頭なら使うな。
――そうだ、それで良いんだ。きっとそれで、何かが起こせるから。