思えばこうして来るのは二度目になるんだな、去年は来れなかったし。
さすがにあの時は無理だった、大喜と千夏先輩が付き合いだしたと知ってしまっていたから。切り替えていけば良い、なんて語り済ませど気持ちは乱れていた。何より千夏先輩と会うのがキツかった、告白したとか面と向かって鞘当てしておいてあの体たらくだもの。
まあ一昨年も来たは来たけど、大喜の試合には間に合わなかった。……あんなに憔悴した大喜を見たのは初めてだったな、うん。
口々に大喜を応援する声に、私も応えて口を開く。
「せっかくこの蝶野雛様が応援に来たんだから、絶対一位取りなさいよね!」
もう私は、大喜に恋をしていない。これ以上引き摺ってたら、それこそ大喜に愛想を尽かされてしまう。
心からのエールは、長い付き合いの親友として。
頑張ってこい、一切合財ブチ撒けてこい。それでダメなら骨の一つも拾ってやるさ。
そして、そして。
余計なことばかり言う不肖の後輩も、一応応援はしてやろうか。
……などと思った刹那。菖蒲が急に声をあげたせいで、私の息は声にならないまま宙に解けていく。
ぬう、まったくこのツインテっ子め。良いけどね、良いんだけどね。私が何を言っても、晴人には良い影響にならないだろうから。
インターハイ出られたら付き合ってくれ、なんて世迷い言をほざく奴だもの。
前に匡くんに聞いたんだっけか、それとも大喜自身が言ってたんだっけか。インターハイに出られたら千夏先輩と対等になれるかもしれない、そうしたら告白も出来るかもしれない、と。
千夏先輩の事が好きで、でもそれを押し付けないのが大喜という男。千夏先輩の負担になりたくない、傷つけたくない、いつだって自分より相手を優先してしまう優しい人。……そんなだから、私は大喜を好きになってしまったんだ。
晴人はその辺考え無しだし不躾だ、こっちの気持ちも考慮せず――って。それはまあ、私もか。
大喜を好きになったから突然告白し、イエス以外の返事を求めないまま振り回し続けた。大喜の気持ちより自分の恋が楽しいだけで、この私が好きになってあげたんだから大喜もいつかは折れてくれるとさえ思っていたわけだ。
挙げ句、一旦諦めた癖に再燃させ一方的にキスまでして。いやはや、なにやってんだかな私は。これ性別逆なら事案だよね実際、あぁ私は女子で良かった良かった。
晴人はここまでバカじゃないと良いなぁ、本当にさ。
トーナメントは一回負ければそこで御仕舞い、敗者復活も総当たりも無い。曲がりなりにも前回インターハイ出た大喜が初戦敗退はないだろうけど、勝負は水物だ。目を離したくはない、ちゃんと見届けたい。
そう思い余裕をもってお花を摘んで、客席へと戻る途中ふと思い出す。そうだ、ここは――二年前に大喜が項垂れていた所ではないか。懐かしさと切なさを感じながら歩いていくと、見慣れた顔が目に入った。
「晴人」
「ん、……雛先輩」
試合を前にして精神統一か、それとも単に人いきれに疲れて休憩か。なんにせよ、晴人はもうすぐ戦場へ赴く。
一番に応援はしてやれない、恋を止めても大喜と晴人では付き合いの長さも友好性も違う。
とは言え、とは言え。さっきは何も言ってやれなかったし、一言くらいはかけてやっても良いか。
「がんばっ」
「うす」
短いやり取りだけして、私は歩みを進めていく。これで良い、これが良い。私たちは、こんなもんだ。ただの先輩後輩、色恋沙汰なんて柄じゃない。
さあ、行っておいで。