晴人の強さを、俺は知っている。遊佐くんの弟だからじゃない、いつも勝利に飢えているからこそ強いんだ。
満足しない、飽き足りない。目の前にある目標目掛けて突き進む、真っ直ぐな後輩。だけど俺だって、譲る気なんかあるものか。コートに立てば敵同士、一切合財賭けてぶつかり合うだけ。
泣いても笑っても、俺たちが公式戦で戦うのはこれで最後。そして多分、どちらか勝った方が遊佐くんに当たる。決勝に出られれば負けてもインターハイには出られるとか、そんな野暮は考えまい。ここでは負けたけど全国で決着を、とかダブルスでも出られるかもしれないし、なんて恥ずかしいこと言えるかよ。
死力を尽くせ、足を止めるな。死んでも勝て、死ぬ気でぶつかれ俺。こんな晴れ舞台で勝てないような情けない先輩で良いのか、せっかく見に来てくれた皆を落胆させるような根性無しで良いのか。
――良いわけないだろ、格好悪い。限界から一歩踏み出せ、最高点より一ミリ手を伸ばせ。そうなれないなら、こんな身体はいらない。
俺は千夏先輩に教わった、千夏先輩を好きになって成長した。
だから何があろうと、無様な姿は晒せない。自分を信じるのが苦手な俺を変えてくれた、大切な人の為に。
先輩は後輩を導き、いずれは追い抜かれる。
世代交代だ、嘆かなくて良い。
俺だってそうしてきた、そうされてきた――なんて一度でも思った自分を、殴ってやりたい。
針生先輩は俺に想いを受け継がせる為態々負けてくれたのか、そんなの絶対に違うだろ。負ける気で戦うなんてあるものか、戦って決着が付いたならそれが唯一無二の結論。
誰にも負けてられない、強くならなければならない。小さくて弱い俺は、ひたすらもがくしかないんだ。
追いかけて追い付けなくて、それでも遮二無二追い縋る。追って追って、何処までも。
無い頭なら使うな、バカは黙って突っ込めば良い。
負けたくない、勝ちたい。もっともっと上へ行きたい、止まりたくない。
だって俺、バドミントンが好きだから。
あの日、練習前に行った水族館でふと考えた。県予選も近いのにこんなことを、と前の俺なら思っただろうな……なんて。もっともっと練習して、千夏先輩の隣にいられる男にならないといけない。恋愛にかまけて鈍るようじゃダメだ、とかそんな風に悩んでしまってた筈だ。
そうじゃないんだ、そう気づかせてくれたのはやっぱり千夏先輩。
千夏先輩を好きになったのが俺にとってマイナスな訳がない、あの人が俺を叩き伸ばして今がある。
いつだって勇気をくれる、立ち上がる理由をくれる。俺は千夏先輩に誇ってほしい、この人を好きになって良かったと。いつか気持ちが離れる日が来ても、その時は笑顔でいてほしい。
好きという気持ちは、何よりも強い。それを証明するためにも、負けられない。
とは言え、とは言え。晴人が遊佐くん……お兄さんに勝ちたい気持ちは否定しないし、俺の気持ちより大きいか小さいかなんて考えない。
そこじゃない、そうじゃない。抱くべき気持ちはきっと、ずっとシンプル。理由はどうあれ敬意がどうあれ、試合が始まればそれは全て遠くにいってしまう。勝っても負けても自分のお陰で自分のせい、それがバド。
首洗って待ってろか、上等だよ。
それじゃあ全力でやりあおう晴人、勝っても負けても恨みっこ無し、最後の祭りだ――楽しもう。