――ああ、良くないな。気にするべきじゃない、それは分かっているのに。
大喜くんと蝶野さんの姿をついつい目で追ってしまう、二人が一緒にいるだけで落ち着かない。私は知っているから。蝶野さんが大喜くんに、告白した事を。
あの夏の日にひっそりと影から聞いた、そして蝶野さん本人からも聞かされた。その報告がどういう意味だったのか、今になって痛感している。
あれは、鞘当てだったんだ。私の方が先に好きになったんだから割り込んでこないで、と。それに文化祭での、あの――キス。二人は付き合っていて、私はそれを祝福するべき立場にある。胸が痛む理由は、大喜くんが何も話してくれなかったから。同居人として先輩として、信頼してもらえていないのが寂しかったから。
でも実際、そうはならなかった。私はあの頃にはもう大喜くんを、好きになってしまっていたんだ。蝶野さんを押し退けてでも、隣にいたいと願ってしまう。それが如何に罪深いか、知りながらも。
私は狡くて弱くて、欲張りだ。大喜くんを独り占めしたい、私だけを見ていて欲しい。
そんなのは間違っていると思っても、尚気持ちは加速していく。
まったく、どうしようもないな私は。
あの夏の日、不可抗力で大喜くんと同じ部屋で過ごした夜。大喜くんは花火大会に行ったのが、「みんな」とではなかった事を謝ってくれた。だけど誰と一緒だったか、は言わなかった。私は大喜くんの保護者でもなんでもない、一誰何するのもおかしい話だ。でも私は見たのだ、二人並んで歩く後ろ姿を。そう思いながらも私は笑って大喜くんを許していた。本当は全部話して欲しい、でも今それを言えばもっと踏み込んだ話をするしかなくなる。
蝶野さんに告白されたんでしょう、どうして話してくれなかったの。
付き合いだしたのなら、私もそれなりに考えないといけない事があるんだよね。
異性の同居人なんて、これからは邪魔になるでしょう。
私たちはもう、こういう間柄でいてはいけないんだよ。
――言いたくない、言えるはずがない。そんなの、死んでも嫌だ。大喜くんの側にいたい、離れたくない。支えていて欲しい。
近づきすぎてはいけないと線を引いたのも、後悔しかない。だからそう、私はそこで――それを撤回した。
例え行く先が茨の道であろうとも、大喜くんと共に歩みたいから。
とは言え、とは言え。
つい先日大喜くんが打ち明けてくれた想いを、私は受け止めたわけだ。……一月の氷上で告白しあい、私たちは先輩後輩でも同居人でもなく恋人同士になった。なんだか出来すぎた話だけれど、気が付けば私たちは両片思いのまま時間を重ねてたらしい。
晴れて交際を開始し、周囲には隠しながらまあその――愛を育んでいるのだけれど。未だに私は、蝶野さんと大喜くんの関係がどうなったのか聞けていない。そもそも二人の間に起きたこと自体、私はよく分かっていないのだ。蝶野さんが告白した、それしか知らない。そして大喜くんは、私がそれを知っている事に気付いていない。
私は大喜くん以外の人を好きになった事がないから、告白したのもあれ一回だけ。告白はしたけど付き合わなかった、なんてのは想像も出来ない。大喜くんに「付き合うって事で良いんだよね?」と聞いたときも速攻で肯定されたし、否定とか保留とかされた場合はどうなるんだか、考えようにも脳が回らないくらいだ。
……どうしよう、かな。大喜くんと蝶野さんは、付き合ってなんかいない。ただの友達、それは確かに分かっている筈なのに私の心はザワザワしてしまう。
嫉妬深いのか頭が悪いのか、どっちにせよ困ったものだ。
まあ、良いか。今はまだ忙しいんだし、今度ゆっくり考えよう。大喜くんはもうすぐ大会があるし、夏のインターハイに向けてお互い時間はいくらあっても足りない。
次の誕生日辺りには、身体も空くだろう。それまではするべき事をするだけだ、よそ見はしていられない。
大喜くんを好きでいる為に、大喜くんに好きでいてもらう為に。もっともっと、頑張ろう。
青い空から差し込む陽光に背中を押され、私は走り出していた。