まったく、仕事と言うのは厄介なものだ。大学生と芸能人の二足の草鞋はなかなか履き馴れない、どうしたってあちこちミスは出る。急いでいる時に限って撮影が長引いたり、バスの繋ぎが上手く行かなかったり。
まあでも、どうにかするのが私だけどさ。
「おらリア充、とっとと行くぞ」
目付きも口も悪い親友にせっつかれても、気にもしない。そっちだって彼氏連れのリア充でしょうが、とか言ったら絶対照れ隠しに暴れるんだよなあ夢佳は。こないだもそんな話になって、「かか彼氏じゃねぇし!こんなもん舎弟みたいなもんだし!」って宗介くん殴りながら真っ赤になってたっけ。あれだけボコスカされても動じない宗介くん、夢佳の相方には最適かも。
しかし素直じゃないのは、千夏といい勝負だな。ベクトルは違うけどね、うん。千夏の場合は「好き」って気持ち自体が見えてないまま両片思いを続けていただけで、大喜くんにはわりかし素直。夢佳は宗介くん以外には気持ちを隠さない、と言うかダダ漏れ。本人はクール気取ってるけど、やっぱりポンコツなんだよね。
その夢佳が、自分のデートより大喜くんへの応援を優先するとは意外な気がする。千夏と仲直りした辺りから色々あったっぽいし、心境の変化かな。
親の離婚で栄明を辞めた、というのが半分くらい嘘なのはすぐに分かった。それもあるけど、本質は別なのだと。でもそれをほじくったりしないのが、仁義ってもの。彩昌に移ってバイトも始めて、千夏と距離を置くようになった夢佳とはちょこちょこ会ってはいたけど、毎回大した話はしない。誰かと話したい気分だというなら、付き合うだけだ。
そんな日々は一年ほど続き、そのうち夢佳はパッタリとうちに来なくなった。理由はまあ、宗介くんだろうな。女子みたいな格好するようになったし似合いもしないメイクもし出し、ゴリラの癖に色気付いてさ。私も私で健吾との付き合いがある、夢佳のお守りばかりもしてられないから正直助かった。
紆余曲折を経ていつの間にか千夏と和解してバスケも再開、それでこっちには見向きもしなくなるんだから勝手なものだ。♪やっと育てりゃ背中を向けて 一人旅立つ恩知らず ……ってね。
良いんだけどさ、それで。皆揃って不器用でもがいてる、出来る事しか出来ない。そんなもんだ。
仕事明けにバタバタと飛び出し、バスを乗り継ごうとしていた所に夢佳が車で通ってきたのが僥倖だった。乗せろと言うのももどかしく宗介くんを押し退けて上がり込み、場所を伝えたら「私らも行くとこだよ」と来たもんだ。まさしく渡りに船、免許取り立てドライバーの中古軽を飛ばさせ、ついさっき漸く体育館の駐車場に滑り込んだ。夢佳はバック駐車が苦手だそうで、ちょっと冷や冷やしたけどなんとか。
荷物片手に駆け込んだ先は、もう絶賛試合中。
バドミントンにはそれほど明るくないとは言え、展開くらいは見られる。大喜くんは攻めきれていないというか防戦一方、なかなかに良くない流れだ。千夏もきっと気を揉んでいるだろう――って。
「なにしてんだこのタツタチキン!」
突然声を張り上げる夢佳に、私の気持ちも切り替わる。外野が何を悩んだって意味はない、するべき事は決まっている。
ただ声援を送る、それだけだ。
健吾にしてあげたように。
――やってやれ、勝っても負けても全力だ。燃えて尽きれば、そこがゴール。
駆け抜けろ、その道を。