アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#114 「挑戦者」SideB 吹き荒れろ

 案外と動けたものだ、まだ鈍りきってはいなかったらしい。

 練習試合を終えて、そんな風に安堵したのはほんの僅か。

 課題は山のようにある。そもそも練習試合は読んで字の如く、試合形式の練習に過ぎない。実戦の場で勝てなければ意味がない、受かれる暇なんかあるか。

 バスケにも人生にも奇跡はない、運不運があるだけだ。だから一歩一歩進むしかない、愚痴らず行くしか手がないから。

 二年の終わりになって漸くのコート復帰、公式戦に出してもらえるかどうかは分からない。それでも私は戦うのだ。

「――お疲れさま」

 後ろからタオルと共にかけられた声、それに愛想笑いを返す程の余裕はない。わざわざそんな事をするような間柄でもないし、ね。

 差し出されたスポドリを引ったくり、一息に飲み干して漸く私は口を開く。

「並みのお疲れじゃねぇって、まったくさ」

 我ながら口の悪い事、これが花も恥じらうお年頃な乙女の言い草かね。ま、気にする必要もない。このバカと来たら、こんな有り様の女にくっついてくるような奴だ。どっかしら壊れてるんだろう、気を遣うだけ無駄無駄。

 だからそう、本心だけで接することができる。そういうのがいるとどれだけ気楽か、この歳になってやっと理解できた。大事なんだな、こい――……友達ってのは。

 

 果たすべき目標がある、例え届かなくても挑まなければならない。

 そうでなければ、あの日の私に顔向け出来ない。

 ナツの試合を観にいく前の夜、夢を見た。

 小学生の頃の私は、目を輝かせて今の私を見詰める。そして、聞いてくるのだ。

  『バスケはどれくらい上手くなった?』

  『ナツとはずっと仲良しでいられるよね?』

  『好きな人とか出来た?』

 ――眩しいくらいに真っ直ぐなその姿に気圧されて、私はなにも言えない。言えるわけがない。

  バスケは伸び悩んでうまくいかなくなり、周りと衝突して結局挫折した。

  ナツとは喧嘩別れしたし、親を言い訳にして栄明からも逃げ出した。

  好きな人なんかいない、恋なんて……そんな事をする資格があるものか。

  私は失敗した、バスケも何もかも。

  全部うまくいかなくて、どうして生きているのかさえ分からない。

 でもそんな風に悉く否定してしまえる程、私は諦めが良くない。認めたくない、自分の弱さを。

 ただ黙って歯を食い縛るだけで夢は終わり、朝になって。

 自分からの問い掛けに答えられたのは、その夜だった。

 前夜と同じように、でも心配そうな顔で現れた小さい私。その肩に手を置き、私は覚悟を決める。

 言いたい事も、言わなければならない事も、山ほどある。

 だけど、でも。

 言葉を紡ごうとする間に夢は急速に覚めていく。夢の中ではいつだって、時間が足りない。どうしてこうも極端なのか、夢というのは。

 だからせめて私は、笑ってあげたのだ。心配いらない、大丈夫だよと。

 

 まだ燃えるように熱い腕で、私は宗介を抱き寄せる。

「見てな。私はもっともっと、上へいくから」

 そう、ここで止まりはしない。あの日のナツの姿が思い出させてくれた、私の内側で燻っていた熱い想いを。

 どんなに走り続けても、自分の気持ちからは逃げ出せない。

 好きは最強の感情だ、どんな障害もはね除ける。ならば私はきっと、地の果てまで戦える。

 私は元々、そんな生き方しか出来ないんだ。拗ねて道を外れても、結局はこうして戻ってくる。

 戦うのが嬉しい、昇るのが楽しい。そんな私の心臓を動かすのは、好きの力。

 バスケが好き。

 ナツが好き。

 ――宗介が、好き。

 三つも好きを重ねて、これで敗けることなどあるものか。一切合財をブチまける大番狂わせをやらかして、彩昌の――そして私の名前を全国に轟かせてやる。

 今の私は最強で、これからもずっと最強だ。

 さあ、嵐を起こそうじゃないか。

 

 

 

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