案外と動けたものだ、まだ鈍りきってはいなかったらしい。
練習試合を終えて、そんな風に安堵したのはほんの僅か。
課題は山のようにある。そもそも練習試合は読んで字の如く、試合形式の練習に過ぎない。実戦の場で勝てなければ意味がない、受かれる暇なんかあるか。
バスケにも人生にも奇跡はない、運不運があるだけだ。だから一歩一歩進むしかない、愚痴らず行くしか手がないから。
二年の終わりになって漸くのコート復帰、公式戦に出してもらえるかどうかは分からない。それでも私は戦うのだ。
「――お疲れさま」
後ろからタオルと共にかけられた声、それに愛想笑いを返す程の余裕はない。わざわざそんな事をするような間柄でもないし、ね。
差し出されたスポドリを引ったくり、一息に飲み干して漸く私は口を開く。
「並みのお疲れじゃねぇって、まったくさ」
我ながら口の悪い事、これが花も恥じらうお年頃な乙女の言い草かね。ま、気にする必要もない。このバカと来たら、こんな有り様の女にくっついてくるような奴だ。どっかしら壊れてるんだろう、気を遣うだけ無駄無駄。
だからそう、本心だけで接することができる。そういうのがいるとどれだけ気楽か、この歳になってやっと理解できた。大事なんだな、こい――……友達ってのは。
果たすべき目標がある、例え届かなくても挑まなければならない。
そうでなければ、あの日の私に顔向け出来ない。
ナツの試合を観にいく前の夜、夢を見た。
小学生の頃の私は、目を輝かせて今の私を見詰める。そして、聞いてくるのだ。
『バスケはどれくらい上手くなった?』
『ナツとはずっと仲良しでいられるよね?』
『好きな人とか出来た?』
――眩しいくらいに真っ直ぐなその姿に気圧されて、私はなにも言えない。言えるわけがない。
バスケは伸び悩んでうまくいかなくなり、周りと衝突して結局挫折した。
ナツとは喧嘩別れしたし、親を言い訳にして栄明からも逃げ出した。
好きな人なんかいない、恋なんて……そんな事をする資格があるものか。
私は失敗した、バスケも何もかも。
全部うまくいかなくて、どうして生きているのかさえ分からない。
でもそんな風に悉く否定してしまえる程、私は諦めが良くない。認めたくない、自分の弱さを。
ただ黙って歯を食い縛るだけで夢は終わり、朝になって。
自分からの問い掛けに答えられたのは、その夜だった。
前夜と同じように、でも心配そうな顔で現れた小さい私。その肩に手を置き、私は覚悟を決める。
言いたい事も、言わなければならない事も、山ほどある。
だけど、でも。
言葉を紡ごうとする間に夢は急速に覚めていく。夢の中ではいつだって、時間が足りない。どうしてこうも極端なのか、夢というのは。
だからせめて私は、笑ってあげたのだ。心配いらない、大丈夫だよと。
まだ燃えるように熱い腕で、私は宗介を抱き寄せる。
「見てな。私はもっともっと、上へいくから」
そう、ここで止まりはしない。あの日のナツの姿が思い出させてくれた、私の内側で燻っていた熱い想いを。
どんなに走り続けても、自分の気持ちからは逃げ出せない。
好きは最強の感情だ、どんな障害もはね除ける。ならば私はきっと、地の果てまで戦える。
私は元々、そんな生き方しか出来ないんだ。拗ねて道を外れても、結局はこうして戻ってくる。
戦うのが嬉しい、昇るのが楽しい。そんな私の心臓を動かすのは、好きの力。
バスケが好き。
ナツが好き。
――宗介が、好き。
三つも好きを重ねて、これで敗けることなどあるものか。一切合財をブチまける大番狂わせをやらかして、彩昌の――そして私の名前を全国に轟かせてやる。
今の私は最強で、これからもずっと最強だ。
さあ、嵐を起こそうじゃないか。