漸く本気になったのか、晴人くんは。追い詰められないと本気が出ないと言うか、お兄さんに張り合うのが好きと言うか。雛は単に話が合う男子なんてあんまりいないから楽しげにしてるだけで、別に好意とかそんな感じじゃないんだけど――まあその辺を男子に察しろって言うのは酷か。
男子はシンプルだからなあ、うん。
猫だったらシャーシャー言ってそうな風に割り込もうとする晴人くん、その様をほほえましく見守りつつ私は思う。
その一念がもしかしたら、石を穿つかもしれないよ。
しつこけりゃいいってもんでもないけど、さ。
雛は友達が、本当に少ない。性格が悪いと言うかめんどくさいから。
なにしろ努力を惜しまない天才なんて厄介なものだ、着いていくのは難しい。
雛と一緒にいるのは二つ、一つは全てを「はい」と「イエス」で応える事。本人には歓迎されないけど、近くにはいられる。
もう一つは逆に、懐まで一気に攻めこんでベタ脚で殴り合う事。猪股は私と違って天然で後者が出来ていたタイプで、だからこそ好きになったんだろう。
でもそれが、続くかどうかはわからない。何処かで気持ちが膿んだらそこでもう着いていけなくなるし、最悪パンクだな。
二人が付き合わなかったのは正解だったかもしれない、相性が良いからこそきびしい。
晴人くんももっとズケズケ入っていって殴りあえるようになれば、進展するんだけどなぁ。ちょっと無理か。
初対面から不躾な事を言えるような奴なのに、面と向かって好意を示すのは苦手ってホント男の子だな。
文化祭が終わり冬の風が吹き始めて、それでも雛と晴人くんはいつも通り。好きです好きです言ってくる晴人くんを軽くかわして、小悪魔の笑み。全く性悪だよこの女は、誰に似たんだか。お姉さんは好い人なのに。
もしかしたら一生こうなんじゃないかこの二人は。滑って転んで泣いて笑って、ずっとバカやってそう。
それはそれで、幸せなんだろうな。
「晴人くん、ホントのとこどうなのよ。邪険にはしてないってことは、まだ脈あるん?」
「あー……もう一回懲りてるって。好きになるとかなられるとか、さすがに今は良いかな。疲れて仕方ないもん、無理無理」
もう三年生のオバサンだしー、とくるくる回る雛。むう、その台詞は同い年の私にも効くからやめてほしいな。
ここでハイハイと切り上げても良いけど、カウンターかましてやるか。
「なついてるのは今のうちかもよ、猪股みたいに横からかっさらわれるかも」
「んな、人の古傷なんだと思ってんだーっ」
懐まで一気に入り込んでの一撃に、さすがの雛も少し怯む。そうそう、こうやってインファイトするくらいでないとうまくいかないのが雛なんだ。
しかしこの戦法には致命的な欠陥もあるのだけれども。
「そっちこそ最近彼氏さん見ないけど、別れたとか? それともなんか冷戦かな?」
う。
……こっちの攻撃が届くってことは、向こうからも来るわけなのです。
痛い目に合う覚悟がないと、拳は震えないってことだ。
しかしこんな事してられるのは、それこそ今のうち。進路の違いは仕方ない、私は天才でも秀才でもない。雛と一緒にはいけない、それはどうにも出来ない。
だからこそ、バカな話でこうやって盛り上がろう。
激しさを増す舌戦に、内心苦笑しながらも荒らぶる新体操のポーズで迎撃に入る。
さあ吹き荒れろアオい暴風。別れの寂しさも吹き飛ばせ、笑うしかないくらいに盛り上げろ。