応援くらいは行っても良かったかな、とは思いつつ私は息を吐く。
練習の合間に体育館の隅で、何を考えているのやら。もっと真面目にやらないといけないんだけどな、私はさ。
ほんの数ヵ月前、ここにいる事自体が苦しかった。いっそ新体操も辞めてしまおうかと思ったくらい。
だけど、でも。今も私はこうしていて、あんなにも苦しかった時間は過去になりつつある。
それでも胸の奥に刻まれた傷口は治りきっていない、ふとした拍子に疼いては私を悩ませる。
まったく未練だな、私は。『恋愛に支配される人間関係』、という匡くんの表現は言い得て妙だ。私はまだまだ、終わった恋に囚われている。
早く振りきってしまいたい、そうしたらまた――友達に戻れるのに。それもまた、都合のいい話ではあるけど。
大喜が行っている一年生大会、どうも一波乱あったらしい。バド部の人たちが話していたのを総合すると、今多分一番の実力者である遊佐って人が突然不参加になったのだとか。その名前は聞き覚えがある、文化祭前の練習試合で大喜とやりあっていた人だろう。それからも名前を聞いたし、ライバル的な存在でもありそうだ。
その試合が行われたあの日、私は思い知らされた。大喜の事をなにも知らなかった、知ったつもりでいただけだという事を。大喜はバドが好きで、頑張り屋で。いつだって楽しそうで、格好良くて。私が好きになった人はそういう人なんだって、思い込んでいたのに。
必死で追い縋り、歯を食い縛って戦い続ける。傷ついても尚食らい付く、灼熱色の眼差し。熱く激しい、コートを駆ける戦士の姿がそこにあった。それは惚れ直すという言葉では表せない程に輝いていて、それが私には少しだけ眩しすぎた。だってあの情熱の原動力が何なのか、私は知っていたから。ずっと前から、それだけは分かっていたから。
大喜くんが高みを目指すのは、何があろうと折れないのは、千夏先輩の為だ。私が思いを寄せようと告白しようと、それは決して変わらない。
どうして私じゃないんだろう、と何度も思った。憚りながら私だって栄明のスターの一人だ、同居こそしてないけど大喜との距離も近い。こんなにも好きなのに、大喜は私の為には変わってくれない。何が足りないんだろう、なんて悩んだりもした。
ああ、そういう所なんだ。合宿で言われるよりずっと前、私はすでに負けていたんだ。
私がこんなに好きになったんだから、その分私を好きになってほしい。そんな欲張りな事を考えていたんだから。
千夏先輩と大喜は付き合いだした、それはきっと二人を大きく変えるだろう。もしかしたら今日の大会だって、その影響で勝つかもしれないな。
身の程知らずとか言ってた時期が懐かしい、高望みはいかんよってからかったっけ。あれから一年も経ってないのに、まさかこうなるなんて。
気がつけば大喜はずんずん先へと歩いていってしまった、私は未だにこの通りなのに。
でもまあ、私だって倒れたままじゃいられない。生きてるなら立ち上がれ、立ち上がれるなら負けてない。負けない以上、死にはしない。
立て不死身の身体、不屈の闘志。超強力のみなぎるパワー。戦う女、蝶野雛を舐めて貰っちゃ困る。
「……さて、と」
折角だし、一走り行ってくるかな。観戦には間に合わなくても、終わって出てきたところを捕まえるくらいは出来るだろう。
友達を労いに行くんだ、何を遠慮する事があろうか。
私はもう、大喜に恋をしない。でも嫌いになんかなる気も、やっぱり無い。あの能天気で身の程知らずのバカは、私の生活に必要だ。どうでも良い話をして笑いあえる、そんな関係の友達はとても大切なんだから。
――と。
体育館の向こう側、千夏先輩の姿を見付けて私は思う。そうだ、どうせなら千夏先輩も連れていってあげよう。
ああ私と来たら、友達思いだなぁ。はっは、さすがは私だ。
そう決めたからには、迷うことなんか何もない。
蝶野雛は、いつだって真っ直ぐにしか進めないのだから。