アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#119 「勘違いするところだった」SideB 女子ですから

 なるほど、これがそうなのか。去年までは気が付かなかったけど、確かにこの日は雰囲気が違う。男子は揃ってソワソワし、心なしか教室の空気も甘ったるい。

 これが世に言うバレンタインデーというものなんだな、興味深い。

 私は基本そういう方向に疎いし、そもそも周りも女子力というものを母親のお腹の中に忘れてきたような、ワンパクでたくましい連中ばかり。類友と言うかなんと言うか、気は合うんだけど。

 おやつ交換のノリで御相伴に預かる事はあっても、自分からチョコを用意したことなんか一度もない。

 いや正確にはなかった、だな。

 今年私は人生で初めて、手作りチョコなんてものを持ってきているのだから。

 

 花恋のうちで台所を拝借し、昨日の放課後を使ってどうにか作り上げたチョコ。まあ出来はそれなりだけど、その分は気持ちでカバーだ。一応ラッピングには凝ってみたし、それっぽく見えなくもないだろう多分。

 菖蒲ちゃんも結構な数作ってたけど、誰にあげる気なんだろう。バド部のマネージャーやっているし、そこで配るのかな。

 ……そうなると大喜くんにも、渡したりするんだろうか。前にもやたら距離が近かったし、あってもおかしくないかな。菖蒲ちゃんは優しいし女子力高いし、そういうこともするだろう。そしてそれは、深い意味なんか――無いに決まっている。

 決まっている筈なのに、少しだけ胸が痛んでしまう自分がちょっと嫌になってしまう。

 大喜くんの()()は私だ、他の誰でもない。どうしてこうも自信を持てないんだろう。

 やっぱり蝶野さんのことがあるから……なんだろうかな。

 夏の終わり、あの日私は聞いてしまった。その時は聞き違いかもと思えたけれど、文化祭の準備期間に蝶野さんから面と向かって宣言されたのだ。真っ直ぐにハッキリ、『私、大喜に告白したんです』と。

 その結果がどうなったのか迄は知らないし、それを直接聞ける程私は不粋でもない。

 一つだけ確かなのは、大喜くんは私を好きだと言うこと。少なくとも、今は。

 蝶野さんへの返事を保留したまま私と付き合えるような器用さは持っていないと思うし、恐らく二人の間に特別な関係性は()()無いのではないだろうか。

 だけどそれでも、私としては怖いと思ってしまう。重ね重ね嫌になるけど、不安で仕方がない。

 それを紛らわせる為にも、ここは恋人同士っぽいイベントに乗ってみようと思ったのだけれど。

 私はやはり迂闊と言うか、考えが足りてない。それを痛感しつつ、溜め息を一つ。

 ――……一体どうやってチョコを渡せばいいんだろう、私たちの間柄で。

 

 まさか登校前に渡すわけにはいかなかった、情緒に欠けるし何より由紀子さんたちにバレてしまえば色々と終わってしまう。それに朝練の途中というのも無理だった、まだまだ時間はあると思って躊躇ってしまったのだ。

 ああでも、あそこで渡しておくべきだったかも。学年が違う以上休み時間にちょっと呼んで渡すというのも無理、お昼も今日は渚たちに誘われてしまったから一緒出来なかったし。

 これから部活の合間に、も厳しい感じ。なんだかインタビュー的な事をされてるし、それでなくとも大喜くんの側は人が多い。可愛いしカッコいいからなぁ大喜くん、そりゃまあうん。

 さてはて、本当どうしよう。いっそ帰ってから、という手もあるけどそうするとやっぱり由紀子さんたちの視線が気になりそう。

 渡さないという選択は無いにせよ、これはなかなかの難題だ。

 人を好きになるって、思ったより面倒で大変で――楽しいんだな。

「よし、……決めた」

 大喜くんが一人になるタイミングを見計らって、人気の無い所まで引き摺っていこう。それで渡してしまえばいい、そうしよう。

 強引な力業だけど、その方が私らしいや。

 考えるのは性に合わない、それより動こう。そうすればきっと上手く行く、そう信じて突き進もう。

 二月の空は晴れ渡り前途洋々、これだけ爽やかなら失敗しても気落ちすまい。

 さぁ――行こうか。

 

 

 

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