――やっぱり上手くいかないなぁ。
バドのシャトルを片付けながら、あかりは小さく息を吐く。お兄ちゃんはあんなに軽々やってるのに、自分ですると意外なくらい難しい。……ラケットが重いのもあるよね、うん。お兄ちゃんが前に使ってたやつだし、きっとメンズ用なんだろう多分。まあ普段もこんなだけど。
でもバド自体は好きだし、別に試合で勝とうって訳じゃないんだから。楽しければそれでいい、部活ってそういうものだ。
そう、楽しみたいんだけど。……面倒なのがいるんだよなぁ、なんで晴人まで栄明に来てんのよ。佐知川にいるといつも「遊佐の弟」って言われるから外部進学する、とは聞いてたけどさ。
一応幼馴染みだけど中学から別になって、それに――面倒くさくなってきたんだよね、あのバカ。兄貴と比べられて腹立つってそればっかり、なんで男の子ってそうやって張り合うんだろ。良いじゃん言わせとけば、別に死ぬわけでなし。
あかりにも凄く強いというか多分全国でもトップクラスなお兄ちゃんがいる訳だけど、別に比較することなんか無いんだけどな。むしろお兄ちゃんがスゴい人だから自慢しちゃう、くらいの感じだ。
まあ男バドと女バドに別れるから、ってのもあるのかな。同じ部にいたら、やっぱり気になるものかもしれない。
とは言え、とは言え。休みに遊び行ったときでさえ愚痴を聞かされるのには正直辟易していた、毎回愛想笑いする身にもなってほしい。
ああ、せっかく楽しい気持ちだったのに沈みそう。
いやいやいかんいかん、アゲていこう。
先輩方との顔合わせを終えて体育館を見渡すと、人だかりがふたつ出来ている事に気が付いた。
一方は新体操全国大会三位、レオタード姿が眩しい蝶野雛先輩。
もう一方は女バスの部長、凛とした立ち居振舞いな鹿野千夏先輩。
栄明を代表するエースたちの練習風景は、いつもこんな風に取り巻きが出来ているとは聞いていたけど。聞いてはいたけど、想像よりスゴいなこれは。男女問わず結構な数が集まってるけど、どっちもそれを気に留めてもいない。日常の風景ってわけか、この二人にとっては。
天は二物も三物も与えるんだなぁ、顔も身体も最高で部活でも活躍してるんだから。
うちのお兄ちゃんなんて、強いだけで全然人気無いのにね。……やっぱり顔かな、それともゴツ過ぎる身体つき?お兄ちゃんってお母さん似なんだよね、あかりはお父さんに似てヨカッタナーアハハーっと。
でももしあかりにお兄ちゃんくらいの才能があったら、こんな感じにチヤホヤしてもらえるのかな。そうなったら彼氏とかも選び放題だろうなぁ、羨ましい。せっかく高校生になったんだし、そっちも楽しみたいなぁ。
晴人みたく部活に熱くなるより、あかりはエンジョイしていたい。人生は楽しんでこそ、なんだから。
そう言えば、お兄ちゃんが言っていたのはどの人なんだろう。
インターハイを巡って何度も戦ったって言う針生って人も気になるけど、それよりあかりが見たいのは『猪股大喜』って人だな。戦績はまだそうでもないけど、伸び方が急で期待してるとか。晴人のお兄さんにも勝った事あるとかだし、結構スゴい人っぽい。どんな人なのかな、練習試合の写真で見た限りだとなんか可愛い感じだったけどどうなんだろ。
でもそういう人を彼氏に出来たら、楽しいだろうなぁ。みんなに羨ましがられるだろうし、バド教えるのも上手そうだし。もしフリーだったら、狙ってみようかな。
まあでも、今はまだ良いか。今日はとりあえず、練習練習――。
「ぅ、……ぁっ?」
余計な事を考えていたせいか、ラケットを掠めた筈のシャトルはコントロールを失い、有らぬ方向へと飛んでいく。
飛び込んでいく先には先輩らしき男子生徒がいる、こりゃ不味いかなぁ。怒られるのも謝るのも嫌いなんだよね、面倒だから。
そう思った瞬間、目にしたその顔は。その顔は――。