インターハイ、か。自分で言っておきながら、俺は心のなかで溜め息を吐く。
なら尚更、栄明じゃないだろ。
なりふり構わず勝ちたいなら、佐知川に居続けるべきだった。
二つ上の怪物、兵藤さんの威光は引退した後でも残っている筈だ。ああいう人がいると、下もまた伸びていく。その恩恵を受けて元々異次元だったのに更に格の違う世界へ行ったのが、――
外部進学なんかしなければ、その流れに乗れた。兄弟ダブルスでインターハイに出るとかもあったろうし、柊仁が引退したら俺が佐知川のトップに
……そんなの、死んでも御免だけど。
何度言われただろう、「なんだ弟の方か」と。
皆が望む「遊佐」は俺じゃなく柊仁だ、誰も俺を必要としない。遊佐の弟だから皆一目置く、遊佐の弟だから素質がある、遊佐の弟だから――。そればかり。
ま、それは栄明でも同じかもしれないけどさ。でもとりあえず今は、居心地が悪いとは思わない。
あの針生って先輩は兵藤さんとやりあってた人だからかなり強いし、その上柊仁に大して興味がない。言い種は一々気に入らないけど、それは俺の実績が足りないからだ。色眼鏡で見られるよりよっぽど良い、これから強くなってやれば良い。
西田部長も最初はあれこれ言ってたけど、飽きたのか柊仁の事は言わなくなった。……代わりに「向こうの可愛い同級生とか紹介してくれないか」って真顔で言い出した時は、どうしようかと思ったけどさ。佐知川は中高一貫の男子校なんです部長、何で知らないんだよ交流あるだろ練習試合とかで。
あかりは可愛いっちゃ可愛いけど、あの兵藤さんの妹だし紹介は出来ないな。ああ見えて割とシスコンだし、俺が殴られかねん。
にしても、お気楽な学校だな。世間の高校ってのは、こんなもんなんだろうか。
しかしまあ、栄明は良くも悪くも個人の資質頼みなんだな。コーチが付くより部員同士でなんとかする、人に教えながら自分も鍛える。才能のある人はそれでも伸びていくけど、そうでない奴は低空飛行で落ちていく。全員のレベルを力尽くで引き上げるような事はないんだな、合宿も年一らしいし。
楽しいと思える範囲で部活するなら、それでも良いんだろう。俺はそれじゃ嫌だから、我を張るけどさ。
弱い奴を見てるとイライラする、何であんな事も出来ないんだって。もっとこうしろああしろ、そう思ってしまう。
……きっと柊仁も、俺にそう思っていただろう。俺は十年に一人の天才で、柊仁は百年に一人の天才だった。いや、兵藤さんの
この苛立ちをバドラケに込めて、俺は今日も練習に励む。怒り以上に人を強くさせるものなんかない、柊仁とは違うベクトルで強くなるにはこれしかない。だから俺は、間違ってなんかいないんだ。
唇咬んで迷いを振りほどき、意識を立て直す。悩むのは、後で良い。今は総当たり戦の最中だ、まだまだ相手はいる。大事な休憩時間を詰まらない悩みで潰すな、勿体無いぞ俺。
やっぱり先輩方は経験値の分強い、でも食い下がれない程じゃない。もっと頑張って、勝つんだ。勝って証明しろ、俺は「遊佐の弟」なんかじゃないって。
――と。
「晴人、試合しよう」
ちょうどよくかけられた声に、俺は笑って立ち上がる。身体冷えるとこだったよ、とか嘯きながら。
そうか、次はコイツか。入部の時から結構顔を会わせてる、猪股って奴。考えが甘いところはあるけど結構強い、そして何より俺に怯えないから気に入ってる。……俺目付き悪いからなぁ、どうも怖がられるんだよな。別に部内で仲良しグループ作ろうって訳じゃないけど、ちょっと指摘したくらいでああも退かれると困る。
「……ん」
そういや猪股、何組なんだろ。他のクラスとの合同授業とかでは見掛けないし、放課後は誘うまでもなく真っ先に体育館来てるから、その辺わかんない。
いや、まさか。まさかこのほんわか顔で先輩だったりしないよな、まさかなぁ。でももしかしてそうだったとしたら、俺ずっとタメ口なわけで。
……いや、余計な事考えるな。これから試合だ、集中集中。